VRMMOを始めただけなのに、何故世界の危機に巻き込まれたのだろうか?

飛楽ゆらる

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4.プロテア防衛戦

61.黒き腕

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「我が…人ごときに負けるとは、な……」

 洞窟内にユミルの声が響く。
 その身体からは既にに粒子の光が発生し始めている。

「お前は強かったよ。…オレも一度負けてるからこれで一勝一敗だな。もし次に戦う事があれば、その時はオレが勝ち越そう」

「ぬか…せ……現実に…現れた暁には…真っ先に……」

 ユミルは最後まで喋っていたが、先に身体が消えていき静寂に戻る。
 オレは緊張感から開放されその場に座り込むと、システムメッセージが表示された。

------
ボスモンスター”始まりの巨人ユミル”を討伐しました。
MVPは上野 樹。
MVPボーナスとして”ユミルの黒き腕”が与えられます。
ラストアタックボーナスは上野 樹。
ラストアタックボーナスとして”ユミルの心臓”が与えられます。
またドロップ品は貢献度に応じて配布されます。
------

 やはり本来のクエストとは違うのだろう。
 ボスモンスターの討伐ボーナスを貰う事ができた。

 ユミルの黒き腕はナックル装備で、真っ黒な禍々しいナックル。
 攻撃力がミスリルナックルよりもかなり高く、オプションとして神種族へのダメージ+50%、防御無視20%というかなり有用な装備だ。
 ユミルの心臓は装備品では無いようで、用途不明。…説明を見ても効果については特に何も書かれていない。
 後はユミルの血、ユミルの骨といったドロップも入手したが、これらについても用途が分からなかった。
 装備品はナックルのみで、他は使い道が分かるまで倉庫の肥やしだな。

「さて、急がないと…」
 
 そしてユミルの身体が消えた後、洞窟内に魔方陣が浮かび上がった。オレは疲労した身体を引き摺りながら魔方陣の上へと乗る。
 そうすると、オレの視界は暗転した。

 次の瞬間には別のダンジョン……なんてことは無くプロテアへ戻ってきていた。

 薄暗い洞窟から急に外に出たことで目がくらむ。
 だが日の光が妙に気持ち良い。

 プロテアはいつも通りの風景。どうやら神々の侵攻前に間に合ったようだ。
 オレは急いでギルドメンバーのログイン状況を確認するが、昼食時だからかログインしているメンバーは少ない。

(ちっ並木さんがログインしていない。現実で直接電話するか)

『すいません。クエスト内部がギルドチャット出来なくて、心配掛けましたが無事です』

 安堵するギルドメンバー達がそれぞれの反応を示す。

『それと今からプロテアに敵が侵攻してくる可能性が有ります。集まれる人すぐ準備してプロテアに!詳細は後で!』

 それだけ告げ、すぐにログアウトを行なう。

------

 現実世界へ意識が戻ると、すぐにオレはスマホを手に取る。並木さんへ電話すると、すぐに出てくれた。

『並木さん。無事戻りました。それで試練で神と戦ってその時に情報を聞いたんですが、神がプロテアに侵攻して来る可能性が有ります。出来たら防衛に人を集めて欲しいんですが』

『まず無事で良かった。侵攻の可能性は高いのかい?人を集めて空振りだと後々に響くけど……』

『オレが生還したので確実では無いですが、ほぼ確実に侵攻して来ます。もし来なかった場合は……オレのせいにして構いません』

『上野君に押し付ける気は無いよ。…分かった。僕に出来る限り全力で人を集めてみよう。猶予はどの位有るか分かる?』

『二時間拘束されそうになったので、その前に侵攻してくる可能性が高いと思います』

『時間が足りないな。僕は知り合いに電話するから、上野君は間宮防衛大臣に連絡頼める?』

『分かりました。では後はRDO内で』

『ああ。それじゃ』

 並木さんとの電話は終わったが、一刻を争う状況だ。
 少しでも戦力を集めてプロテアを守らなければ。
 プロテアには前衛の要である騎士、回復の要であるプリーストのギルドが存在する。この2職に大きな被害が出る事は、プレイヤー側の戦力として致命的だ。

 オレは日本政府への連絡窓口となっている、間宮防衛大臣の秘書である鈴木さんへと電話する。
 何度か電話のコールが続く……。

(頼む、出てくれ)

 だが、オレの願いは空しく鈴木さんが電話に出る事は無かった。
 職務中であれば仕方無いかもしれが、政府関係の人で連絡を取れるのは鈴木さんしか居ない。

(あとオレが連絡出来るとしたら…そうだ!)

 オレは最後の望みを賭けて、ビデオチャットをある所に繋げる。

 ある所とは…RDO運営会社のマウス・エンター社のサポート。
 RDOではビデオチャットでのサポートも行なっており、これなら自動翻訳機能もついている。
 英語が出来なくともこれなら会話が出来る。

 サポートへは問題なく繋がり、オペレーターの女性が画面に表示される。

「RDOサポートセンターです。本日はどのような御用でしょうか?」

「私は日本のプレイヤーで上野樹と言います。RDOプロデューサーのトムさんと知り合いなのですが、何とか連絡を取ることは出来ないでしょうか?ここでは話せない、とても大事な用件が有りまして」

 オレは身分証となる学生証を見せながら、オペレーターの女性と会話する。

「驚きました。あの上野 樹さんですか。私も動画を拝見したことがあります。ですが…」

 良かったオレの事を知っているようだ。
 ただ話す女性の表情が良くない。

「…すみません。トムチーフプロデューサーへ連絡は繋げません。疑うわけでは無いのですが、知り合いとの確証が無い方に連絡を繋げるのは難しいかと……」

 ダメ元で連絡したが…やはり難しいか。でも他に連絡を取る方法は思いつかない。

「……少し上に相談してみますので、お待ち下さい」

 そこで少々お待ちくださいと表示された画面に切り替わる。
これでダメならどうするか。

(防衛庁にでも直接電話してみるか?)

 オレは祈るように画面を見つめながら…そのまま10分程時間が経過した。その間も鈴木さんへ電話を掛けていたが、相変わらず出ない。

(これは確実にクレーム入れないと。何のための連絡先だよ!)

 そんな事を考えていると、突然ビデオチャットの画面が切り替わり、先程とは違う場所で違う女性が表示された。
 オレが突然の事に戸惑っていると、ビデオチャットの相手である外人女性が話し始める。

「上野君初めまして!私はRDOチーフディレクターをしている、ジェリー=ワナーよ。そしてRDOチーフプロデューサーのトムの妻よ。よろしくね!」

 目的のトムさんでは無く予想外の人物が出てきたことで、オレは口を開けて呆けてしまった。
 ただ……目的は果たせそうだと確信する。
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