VRMMOを始めただけなのに、何故世界の危機に巻き込まれたのだろうか?

飛楽ゆらる

文字の大きさ
上 下
62 / 85
3.始動

59.死

しおりを挟む
暗い視界のまま、ユミルの声だけが聞こえてくる。

「上野樹よ、もしも次に戦う事があれば我に勝てるだろう。だがお主が元の力を取り戻す時間は無い。お主が負けたことで、すぐにでも神々がプロテアへと進行する。対抗し得るお主の力が無くなった時点で、人の負けだ」

 つまり、ユミルが神に恨みを持っていること、神に対抗するという所から騙されていたようだ。
 ユミルはプロテアに居るプレイヤーの中で、ヴァルキリーさんを倒した実力を持ったオレの力を削ぐ事を目的としていた。

(これも神々の作戦の内なのか?)

 ユミルはモンクとは決して相性が良い相手ではなかった。初見で情報の無い戦いでは、一番戦ってはいけない相手だった。

 でも後悔してももう遅い、オレは馬鹿なことに作戦に嵌り負けた。
 こうなるとオレはデスペナルティを受けて戦力にならない…せめて進行して来る事をギルドメンバーに伝え、出来る限りの対策を取るしかない。
 そう思っていると、ユミルが心を読んだように話し掛けてくる。

「もう一つ。お主は暫くこのままだ。この部屋は数時間復活地点に戻る事もできないし、ログアウトも出来ないようになっている。復活する頃には、プロテアは崩壊しているであろう」

 ユミルに言われてすぐに確認するが、復活地点に戻るまでは約115分の表示。
 そしてログアウトもグレー表示になっており、選択することができない。
 神側はこの特性を持っているレベル上限突破クエストをうまく利用したのだろう。
 二時間もこのまま放置では普通のMMOなら訴訟ものだが、RDOの目的を知っているので納得してしまった。

(何から何まで作戦通りという訳だ……)

 現実世界で誰かが強制的にVRヘッドギアを外してくれれば、強制ログアウトも出来るのだが。オレは一人暮らしで、その可能性は無い。
 状況は絶望的。オレは緊急時に何も出来ない。オレの努力は一体何だったのか。
 その事がデスペナのショックよりも大きくなっていた。

「では我もプロテアへと向かうとしよう。さらばだ上野樹」

 ユミルが立ち去ろうとしているのか、大きな足音が離れていくように聴こえる。


(…誰でも良い、この状況を何とかしてくれ。神でも、上の存在でも、運営でも政府でも何でも構わない。せめて侵攻してくる事だけでも伝えなければ…)

 オレがそう願っていると、頭に声が響いてくる。

(負けたお主が、何かを願うのは傲慢では無いか?)

 この年老いた声は聞いたことが有る。オレがトラウマと共に乗り越えると決めた存在。

 …水神ネプチューンの声だ。

(ネプチューン様?…何故オレに話し掛けられるんです?)

(ワシのネックレスを持っておるだろうが。ワシはネックレスを媒体として話し掛けている)

 ネプチューンと戦った時に手に入れた…水神のネックレス。
 オレは自分への戒めの為に常に持っていた。
 説明を見ても効果は無いようだったのだが、まさかこんな用途だったとは。

(ワシはお主を気に入り、ネックレスを渡した。そうだな…一度だけなら願いを叶えてやらん事も無いぞ?その一度だけの願いは、人に侵攻を伝えるだけで良いのか?)

(…何故。良いのですか?あなたも神側でしょう?人の手助けをしたら不味いのでは)

(ワシは誰の下にもつかないし、北欧神のやり方も気に食わん。だがワシもアレに消されたくは無いのでな。上野樹よ…一度きりだ)

 ここは相手が神であろうと頼むべきだ。
 このまま神が侵攻しプロテアに被害が出れば、オレは後悔しても仕切れない。

 だが。

(では一度だけ…願いを聞いてください。ただし人に伝えるのは結構です。オレをこの場に復活させて下さい。後はオレがユミルを倒して、自分で伝えます)

 オレの言葉にネプチューンが笑う。

(ハッハッハッ!傲慢な人間は好かんが、ここまで来ると面白い。良いだろう。上野樹よ、この状況を全て処理してみろ。出来なかった場合は、ワシが直々にお主を殺しに行くぞ?)

 ネプチューンがそう言うと、水神のネックレスを着けている胸の辺りが暖かくなる。
 動き出す心臓、体に血が巡る感覚。暗かった視界も徐々に明るくなってくる。

(さあ、こんなところで足踏みをしているでない。ワシと戦う約束を忘れるなよ?そして…ここから先は完全に敵同士。今後手助けも戯も一切無い。ワシは空にある神殿で待っているぞ…)

パキィン!

 胸の辺りで何かが割れる音が響く。
 徐々に見えてきた視界で確認すると、水神のネックレスが完全に砕けていた。
 次第にオレの身体が動くようになってきた。
 そして、ステータス画面を確認するが、蘇生扱いでデスペナルティも無い。

(これならやれるはずだ)

 洞窟の奥に見えるのは、去ろうとしているユミルの背中。
 オレはユミルの背中に向かい、落ちていた石を投げつけた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

ユニーク職業最弱だと思われてたテイマーが最強だったと知れ渡ってしまったので、多くの人に注目&推しにされるのなぜ?

水まんじゅう
SF
懸賞で、たまたま当たったゲーム「君と紡ぐ世界」でユニーク職業を引き当ててしまった、和泉吉江。 そしてゲームをプイイし、決まった職業がユニーク職業最弱のテイマーという職業だ。ユニーク最弱と罵られながらも、仲間とテイムした魔物たちと強くなっていき罵ったやつらを見返していく物語

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

初めての異世界転生

藤井 サトル
ファンタジー
その日、幸村 大地(ゆきむら だいち)は女神に選ばれた。 女神とのやり取りの末、大地は女神の手によって異世界へと転生する。その身には女神にいくつもの能力を授かって。 まさにファンタジーの世界へ来た大地は聖女を始めにいろんな人に出会い、出会い金を稼いだり、稼いだ金が直ぐに消えたり、路上で寝たり、チート能力を振るったりと、たぶん楽しく世界を謳歌する。 このお話は【転生者】大地と【聖女】リリア。そこに女神成分をひとつまみが合わさった異世界騒動物語である。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……! ※感想は私のXのDMか小説家になろうの感想欄にお願いします。小説家になろうの感想は非ログインユーザーでも記入可能です。

処理中です...