VRMMOを始めただけなのに、何故世界の危機に巻き込まれたのだろうか?

飛楽ゆらる

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3.始動

57.限界突破の試練

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視界の暗転が終わり周囲を確認する。
場所は暗い洞窟で、岩の割れ目が所々赤く光っている。
そして全体的に黒い霧が有り、視界が悪い。
RPGの隠しダンジョンのような雰囲気だ。

「あーてすとてすと。あれ?ギルドチャットが使えない?」

特殊なMAPのせいなのかギルドチャットを送ることも、ギルドメンバーの声も聞こえてこない。
ギルドチャットに慣れてしまったせいか少し心細い。

「フレンドチャットもダメで…おまけにテレポートストーンまで使えない…?何なんだこのマップ」

チャットも帰還方法も封じられ、退く選択肢は無くなった。
そして前方にしか道が無く、この先に進めという事か。

「諦めて進むか…」

周囲から物音はせず、響くのはオレの足音のみ。
ミスリルグリーブと地面が当たる、カツカツという音のみが洞窟内に響き渡る。
2、3分歩いただろうか?少し広い部屋に出た。
部屋の中は天井の高さ20m以上もありそうで、幅も同じくらいのドーム状の部屋。
黒い霧も少し薄くなっており、視界は道中よりは良い。

身構えながら部屋の中を確認すると、入ってきたのとは逆側に人影が見える。
その人影…遠目で見てもサイズがおかしい。身長5mは有るんじゃないだろうか。
RDOの中でも大きな敵は居たが、人型でここまでの大きさの敵とは出会っていない。

神関係だとすると…北欧神話の巨人族か?

いきなり近寄るのは危険なので、オレは人影に声を掛けることにした。

「あのー…試験を受けに来たのですが、あなたはどなたですか?」

オレは人影に聞こえるように大きな声で尋ねると、低い声で返事が返ってくる。

「…来たか人よ。我は神に恨みを持つ者だ。なに、いきなり襲ったりはせん。近づいていいぞ」

そう言われても近寄りがたいし、襲ってくる危険はある。
オレは話ながら少しずつ近づく事にした。

「神に恨みを持つと言う事は、我々人に力を貸してくれるんでしょうか?」

「神と人が争っているのは知っているし、約束も知っている。私もる存在から作られた一つ」

人影は淡々と答える。

「…と言う事は敵ですか?神と協力して人を倒すんでしょうか?」

「神と協力等絶対にするわけが無い。私は神に殺され、その身を良いように使われた。我が求めるのは、現実世界に復活する事ではなく、神への恨みを晴らす事」

これで人影が誰か分かった。
北欧神話の始まりの巨人”ユミル”。神では無く巨人族だ。
人が生まれる前の世界で暴れており、オーディンと他の神に殺された。
その後オーディンにより、ユミルの血や身体、骨で世界が作られた…というお話だ。
暴れてて自業自得とはいえ、神に殺されたのだから恨みを持つのも当然かもしれない。なら。

「私の考えが合っていれば…あなたはユミルさんでしょうか?もし神々に恨みを持っているのであれば、人と協力をして神を倒しませんか?」

オレの問いに、ユミルは答える。

「如何にも我はユミル。だが人の力など、巨人族の力に比べれば蚊のように小さい。協力などおこがましい。我に従え人間。半神とはいえ神を倒したのは認めてやる」

どうやらオレがヴァルキリーさんを倒したのは知っているようだ。
となれば、オレは既に神々の恨みを買っているわけだ。


「私もやるべき事が有るので、ただ従うのは了承出来ませんね。あくまで協力という形が良いです」

オレの答えにユミルは笑う。

「人間如きが私に従えないか。ではそうだな…我が協力するに値すると思わせてみよ。この世界では力は大きく失ってはいるが、我は強いぞ」

やはりこうなるのか。
完全に信用は出来ないが、もし協力を仰げるのであればプレイヤー側に大きなプラスになるかもしれない。
オレも少しは強くなったはず…神と同等の存在と一度やり合ってみるのも良いかもしれない。

「分かりました。あなたを倒すとは言えませんが、満足させてみせましょう」

「ふん…良く分からんやつだ。ではいくぞ」

どうやらネプチューンの時とは違い、向こうから来てくれるようだ。
オレは急いで掛けれるだけの補助魔法を掛ける。

オレに自動車並みの速度で迫るユミル。
流石、身長5mは大きくその威圧感は凄まじい。

(…まずは避けて様子見だ)

ユミルがオレに近づくと同時に、3m程離れている距離から巨大な右拳が迫る。これは…射程が違いすぎる。

だがヴァルキリーさんよりは攻撃が遅く、大振りな攻撃で避ける事は容易い。
オレが右へと全力で駆けると、左側をユミルの拳が通過する。

回避するもその拳の威力は高く、当たった地面が割れてクレーターを作り出すほど。
この威力なら直撃したら即死だろう。

その後もユミルの一方的な攻撃は続く。
攻撃自体は遅いのだが、厄介なのはその射程距離。
避けても反撃が難しい。
一度攻撃した手を横から殴ったが、側面から攻撃したにも関わらず威力で負けて弾き飛ばされた。

「やはり人間は脆く、弱い。お主は早いが、攻撃が痛くも痒くも無い。やはり人など蚊と変わらん」

ユミルなりの挑発か?
…確かにオレの攻撃は全く効かない。
そしてユミルの皮膚は硬く、全身がミスリルのようだ。

だが、オレとしては正直拍子抜けだ。
これなら圧倒的にヴァルキリーさんの方が強い。
いくら力が強くても当たらなければ意味がない。
それに防御が高かろうが、モンクには防御貫通手段は多い。
高機動力のモンクとは相性が良すぎる相手だ。

(ユミルと相性が良いからなのか?でもそれにしても、手応えが無さ過ぎないか?)

疑問を覚えつつも、オレはユミルの攻撃にも慣れてきたので反撃を試みる。
オレはユミルの背後へ残像でまわり込み左足のふくらはぎへ掌底を放つ。
放った掌底は防御貫通によりユミルの硬い皮膚を無視して内部へと到達する。

「うがッ」

ユミルが小さく呻き声を上げる。
どうやら効果は十分に期待出来そうだ。
オレはそのまま、ユミルへ掌底を次々と叩き込んでいった。
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