VRMMOを始めただけなのに、何故世界の危機に巻き込まれたのだろうか?

飛楽ゆらる

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2.そして少しずつ動き出す

38.QUEEN ROZE

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そして大会が始まった。

私も上野樹も二回戦を突破しベスト8確定となった。
続くベスト4を決める三回戦。
相手は……上野樹。

今まで一度も勝てたことが無い相手。
私は勝てないかもしれない。

三回戦は休憩を挟み行われることになっていて、出場者は全員控え室に集まっていた。
ベスト8にはわたしや上野樹だけではなく、あの金髪もいた。
それぞれが集中して、静まりかえった控え室。
私は少しこの雰囲気は苦手。

対する上野樹は、緊張感が無く身体を伸ばしながら欠伸をしている。
大会慣れしているのか、それとも元々こういう性格なのか。

(でも、話すのに丁度良い)

私は上野樹に近づいていく。
彼も私が近づいてくるのに気が付いた。
そのまま隣の席に座る。

私は流暢に日本語を喋れないので、スマートフォンの翻訳画面を見せる。

『さっきはありがとう。おかげでここまで勝ち進める事ができたわ』

上野樹は先程とは違い、緊張した様子で返してきた。

『いやいや。嫌な思いをさせてごめん。それとまさか君がQUEEN ROZEだったなんて。勝ち進めたのは君が強いからだよ』

『でもGOD TREEさんには勝てたことが一度も無いけどね。一位には勝てた事もあるのに何故かしら?』

『実は剛拳5では負け無しなんだよ。このゲームが一番好きなのも有るし、グローブ型コントローラーと相性良いんだろうね』

『そう…剛拳5が一番好きなんだ…。コントローラーと相性が良いって昔格闘技でもしてたのかしら?』

『昔少しね…でも中学で辞めちゃったんだ。そこからはゲーム三昧だよ』

『ふーん。でも雑誌でもそんな事書いてなかったわね』

『雑誌?オレの記事でも読んだの?でも日本の雑誌しか出てないと思うんだけど?』

『ぐ、偶然ね!剛拳5のこと調べてたら偶然目に入ったのよ!』

『ふーん?でも読んでくれたならありがとう。それと格闘技の話は嫌な思い出もあるから話してないんだ』

『なら深くは聞かないわ。でも異常な反射神経はそれが生きてるのかー。私も何か格闘技しようかな?』

『う、うーん…君くらいの年になるとあまり鍛えられないかも…』

『あら?私いくつに見えるかしら?』

そう言ってマスクを外して上野樹の目を見つめる。
彼は目を合わすとすぐに、顔を真っ赤にして目を逸らす。
随分と初々しい反応で、イギリスでは無い反応だ。
そっか日本人が奥手って言われるのはこういう事なんだ!

面白くて揶揄いたくなってくるけど、支障が出るかもだしやめておく。
でもつい笑い声が出てしまう。

『あははっごめんね。反応が面白くって』

『その…大会に集中しよう。うん、それが良い』

『うん、そうね。上野くん楽しかったわ。ありがとう』

『こ、こちらこそ。楽しかったよ』

『じゃあ三回戦は全力でやるわよ。次は勝つから』

『ああ。オレもこのゲームでは負けないよ』

そのまま席を離れる。

彼、上野樹は剛拳5が一番好きだと言った。
それだけで何故だか嬉しくなってしまった。

------

そして三回戦。
私も上野樹もリラックスした表情で戦いが始まった。
ルールは2ラウンド先取をした方が勝ち。

私は1勝を先取することに成功した。
普通にやったら勝てないと思い、運にかけて技を出したらそれが見事にハマった。
けれど二回戦目からはそんな手が通用する訳もなく…人とは思えない反射速度で、ガードされ、技を返され…手も足も出なかった。
そして結果は一勝二敗で私の負け。

ただ私はまぐれでも彼から一勝取れたので満足だった。
結果的に彼に黒星を付けたのは私だけだったのだから。

上野樹の決勝の相手は…何とあの金髪だった。
金髪は敵意剥き出しで、上野樹を睨みつける。
彼はどこふく風といった様子だったけれど。

上野樹は金髪相手にストレートで2勝を取り、第一回 剛拳5 世界大会のチャンピオンとなった。

最後に彼に挨拶をしたかったけれど、表彰式やインタビューの相手をしていて話す機会が無かった。

フードも下げてマスクも外す。
周囲に騒めきが起きる。

そして、最後に彼を見た時…少し目が合った気がした。

「さようなら、上野くん」

私は日本語でそう呟き、会場を後にした。

------

イギリスに戻るとただいまの前に両親の説教が始まった。
…どうやらネットニュースの記事に、サラのが写っていたようで。
しかも堂々とインタビューに応えているし、友人の応援に来ました!とも言っている。
言い訳しようが無くて、謝るしかなかった。

もっとも我儘をした事が無かったからか、すぐに許してもらえた。
次からはついて行くからちゃんと言うように言われたけどね。
ああでも、優等生をしていて良かったかな?

……それと後日、サラは正座させて説教した。


------


それから半年後。
私は高倍率の中でRDOのソフトを購入する事ができた。
剛拳5も良いけど、少しだけ浮気しようかな?

あとこれだけ世界中で話題のゲームだし、もしかしたら彼もプレイするかな?
そ、その時は……。

「サ、サラ!何ニヤニヤしてるのよ!ち、違うってば!」

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