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2.そして少しずつ動き出す
32.トラウマ
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ネプチューンとの戦いを終え、ホームストーンでプロテアに帰還した。
現実の時間を見ると夜10時半。
生放送が終わってから30分も経っていた。
帰還したオレを迎えたのは、多くのプレイヤー。
どうやら生放送を見ていたプレイヤー達のようだ。
「上野さんが帰ってきたぞ!」
「ネプチューンどうなりました!?」
「倒せたのならドロップ教えて!」
「…死んでは無さそう?どうなったの?」
話を聞くと…ネプチューンとの戦い中に生放送が終わり、その戦いの結末が気になった視聴者が復帰地点で待っていたようだ。
…そういえば生放送で復帰地点バレしてる。
まあ、生放送終わりの挨拶もできなかったし、せっかく待ってくれていたんだから教えるべきだろう。
「えーと…結果から言うと、ネプチューンには勝てなかったです。ただ、オレの攻撃がネプチューンの防御を破った事で、ネプチューンが満足したようで…そのまま帰って行きました」
オレの言葉に周囲のプレイヤー達が頷く。
それを横目に話を続ける。
「でも、もしネプチューンが攻撃してきていたら…除ける間も無く即死してたかなぁ…。それともう一つ、防御は破ったんですが射程が足りなくて攻撃は当たらず…確実に言えるのはなのは、現時点で勝てる相手じゃないので挑まない方がいいと思います」
「…あ、それと。満足したネプチューンが首飾りを置いて行きました」
そこでプレイヤー達の表情が変わる。
「「「見せて(くれ)」」」
…そこから水神の首飾りの観覧会が始まった。
疲れたし一回落ちたいんだけど…。
水神の首飾りはアクセサリーに分類され、装備ができる。
アイテム説明欄には、危機を一度だけ救うと載ってるが…正確な効果は不明だ。
だが見た目は素晴らしいので暫く装備していようと思う。
観覧会が落ち着いてきた。
このタイミングしかない!
「すいません、ちょっと疲れたので落ちます。今日は視聴ありがとう。では」
オレは返事を待たずにそのままログアウトした。
ネプチューンとの戦いで、相手にされなかった事がゲーム内の出来事とはいえ、本当に悔しかった。
現実に戻ってきたのは良いものの、生放送の視聴者数やコメント数等どうでもよかった。
ヘッドギアを外してベッドの上に身を投げ出す。
------
…オレは…昔の出来事を思い出していた。
それは…格闘技に全てを懸けていた、中学3年の夏の話。
オレの実家は、総合格闘技のジムを経営している。
その影響で幼い頃からジムに通い、日々真面目にトレーニングをしていた。
中学生になった頃から大会にも出るようになり、オレの実力は中学1年にして県大会で上位入賞する程になっていた。
…中学1年と中学3年の相手だと体格の差が大きく、体格に恵まれた選手に勝つのはどうしても難しかった。
それでも中学1年の冬に開かれた全国大会で、中学1年で4位入賞という快挙をやってのけた。
…今考えると抽選の運が良かっただけだったのだが。
トーナメントの相手は無名な選手ばかりだったし、体格差も少なかった。
入賞するようなレベルの人と当たったのは、準決勝と…それに負けた後の3位決定戦だけだった。
そのどちらもボロ負けだった。
ただオレは実績が出来た事で…自分の力を過大評価して天狗になった。
そこから以前に比べてトレーニングに身が入らなくなり、成長が止まる。
天狗になっていたオレは、負けても適当な言い訳をして自分に言い聞かせるようになった。
オレはこのままでも強い。
たった一つの実績でそう思い込んでいた。
そんなオレを見かねた父親は、何度もオレと向き合おうとしていたし、それが出来ないと分かると怒鳴りつけてきたりもした。
…オレは反抗期も重なったことで父親の話を素直に聞くことは無かった。
そのまま1年が過ぎ、中学2年の大会では全国大会初戦で3年生相手に惨敗。何一つ結果を残せない1年となった。
…そこで気付けば良かったのだが、相手は勝ち進み大会優勝を成し遂げた。
優勝する位の相手なら仕方無い。運が無かったで終わらせてしまった。
そして……忘れられない、中学3年の夏の大会。
全国大会の二回戦。
相手は1年生で体格もオレより小柄。こいつは流石に楽勝だと思った。
だが、オレは試合開始数秒で右ストレートを顔に受け、一発KO(ノックアウト)された。
今回の負けは言い訳しようがなかった。
完全に天狗の鼻は折れ、プライドも地に落ちた。
だが控え室に戻り、対戦相手だった相手の一年を見つけると、オレはほんのわずかなプライドを守るがためにこう言った。
「てめえ覚えてろよ、冬の大会じゃ絶対負けねえからな」
相手から返って来た言葉。
「…お前…誰?あぁ…さっきの対戦相手?…ごめん、弱過ぎて記憶に残ら無かったわ」
そんな言葉が、オレの心に突き刺さった。
オレは別に有名でも何でも無く、特別強くも無かったんだ。
2年も前の話でたった1つの実績で、舞い上がって有名になったと勘違いしていたんだ。
今更それに気付きとても恥ずかしくなった。
そして後に聞こえた嘲笑うような笑い声は、今でも忘れる事ができない。
…オレはその後ジムに通わなくなり、格闘技を捨てた。
もちろん冬の大会にも出ることはなかった。
その後、逃避するためにゲームに嵌り、中学卒業後には地元からも逃げて東京へと上京。
ゲーム以外打ち込めるものはなく、どこか無気力のままに高校3年を過ごし、現在に至る。
------
…ネプチューンはオレのトラウマと重なり、大きく抉ってきたわけだ。
だが…今回は立ち向かえた。
それは小さな一歩…いや半歩かもしれないが、確かに逃げずに前に進めた。
そう考えると少し心が軽くなる気がした。
まだ自分に甘いのかもしれないが、今回は許してほしいと思う。
そしてネプチューンを倒し乗り越えることができたのなら、過去のトラウマにも向き合えるかもしれない。
その可能性があるのなら…オレは全力を注ぐ。
……ま、ゲームでトラウマ克服も情け無い話だが。
現実の時間を見ると夜10時半。
生放送が終わってから30分も経っていた。
帰還したオレを迎えたのは、多くのプレイヤー。
どうやら生放送を見ていたプレイヤー達のようだ。
「上野さんが帰ってきたぞ!」
「ネプチューンどうなりました!?」
「倒せたのならドロップ教えて!」
「…死んでは無さそう?どうなったの?」
話を聞くと…ネプチューンとの戦い中に生放送が終わり、その戦いの結末が気になった視聴者が復帰地点で待っていたようだ。
…そういえば生放送で復帰地点バレしてる。
まあ、生放送終わりの挨拶もできなかったし、せっかく待ってくれていたんだから教えるべきだろう。
「えーと…結果から言うと、ネプチューンには勝てなかったです。ただ、オレの攻撃がネプチューンの防御を破った事で、ネプチューンが満足したようで…そのまま帰って行きました」
オレの言葉に周囲のプレイヤー達が頷く。
それを横目に話を続ける。
「でも、もしネプチューンが攻撃してきていたら…除ける間も無く即死してたかなぁ…。それともう一つ、防御は破ったんですが射程が足りなくて攻撃は当たらず…確実に言えるのはなのは、現時点で勝てる相手じゃないので挑まない方がいいと思います」
「…あ、それと。満足したネプチューンが首飾りを置いて行きました」
そこでプレイヤー達の表情が変わる。
「「「見せて(くれ)」」」
…そこから水神の首飾りの観覧会が始まった。
疲れたし一回落ちたいんだけど…。
水神の首飾りはアクセサリーに分類され、装備ができる。
アイテム説明欄には、危機を一度だけ救うと載ってるが…正確な効果は不明だ。
だが見た目は素晴らしいので暫く装備していようと思う。
観覧会が落ち着いてきた。
このタイミングしかない!
「すいません、ちょっと疲れたので落ちます。今日は視聴ありがとう。では」
オレは返事を待たずにそのままログアウトした。
ネプチューンとの戦いで、相手にされなかった事がゲーム内の出来事とはいえ、本当に悔しかった。
現実に戻ってきたのは良いものの、生放送の視聴者数やコメント数等どうでもよかった。
ヘッドギアを外してベッドの上に身を投げ出す。
------
…オレは…昔の出来事を思い出していた。
それは…格闘技に全てを懸けていた、中学3年の夏の話。
オレの実家は、総合格闘技のジムを経営している。
その影響で幼い頃からジムに通い、日々真面目にトレーニングをしていた。
中学生になった頃から大会にも出るようになり、オレの実力は中学1年にして県大会で上位入賞する程になっていた。
…中学1年と中学3年の相手だと体格の差が大きく、体格に恵まれた選手に勝つのはどうしても難しかった。
それでも中学1年の冬に開かれた全国大会で、中学1年で4位入賞という快挙をやってのけた。
…今考えると抽選の運が良かっただけだったのだが。
トーナメントの相手は無名な選手ばかりだったし、体格差も少なかった。
入賞するようなレベルの人と当たったのは、準決勝と…それに負けた後の3位決定戦だけだった。
そのどちらもボロ負けだった。
ただオレは実績が出来た事で…自分の力を過大評価して天狗になった。
そこから以前に比べてトレーニングに身が入らなくなり、成長が止まる。
天狗になっていたオレは、負けても適当な言い訳をして自分に言い聞かせるようになった。
オレはこのままでも強い。
たった一つの実績でそう思い込んでいた。
そんなオレを見かねた父親は、何度もオレと向き合おうとしていたし、それが出来ないと分かると怒鳴りつけてきたりもした。
…オレは反抗期も重なったことで父親の話を素直に聞くことは無かった。
そのまま1年が過ぎ、中学2年の大会では全国大会初戦で3年生相手に惨敗。何一つ結果を残せない1年となった。
…そこで気付けば良かったのだが、相手は勝ち進み大会優勝を成し遂げた。
優勝する位の相手なら仕方無い。運が無かったで終わらせてしまった。
そして……忘れられない、中学3年の夏の大会。
全国大会の二回戦。
相手は1年生で体格もオレより小柄。こいつは流石に楽勝だと思った。
だが、オレは試合開始数秒で右ストレートを顔に受け、一発KO(ノックアウト)された。
今回の負けは言い訳しようがなかった。
完全に天狗の鼻は折れ、プライドも地に落ちた。
だが控え室に戻り、対戦相手だった相手の一年を見つけると、オレはほんのわずかなプライドを守るがためにこう言った。
「てめえ覚えてろよ、冬の大会じゃ絶対負けねえからな」
相手から返って来た言葉。
「…お前…誰?あぁ…さっきの対戦相手?…ごめん、弱過ぎて記憶に残ら無かったわ」
そんな言葉が、オレの心に突き刺さった。
オレは別に有名でも何でも無く、特別強くも無かったんだ。
2年も前の話でたった1つの実績で、舞い上がって有名になったと勘違いしていたんだ。
今更それに気付きとても恥ずかしくなった。
そして後に聞こえた嘲笑うような笑い声は、今でも忘れる事ができない。
…オレはその後ジムに通わなくなり、格闘技を捨てた。
もちろん冬の大会にも出ることはなかった。
その後、逃避するためにゲームに嵌り、中学卒業後には地元からも逃げて東京へと上京。
ゲーム以外打ち込めるものはなく、どこか無気力のままに高校3年を過ごし、現在に至る。
------
…ネプチューンはオレのトラウマと重なり、大きく抉ってきたわけだ。
だが…今回は立ち向かえた。
それは小さな一歩…いや半歩かもしれないが、確かに逃げずに前に進めた。
そう考えると少し心が軽くなる気がした。
まだ自分に甘いのかもしれないが、今回は許してほしいと思う。
そしてネプチューンを倒し乗り越えることができたのなら、過去のトラウマにも向き合えるかもしれない。
その可能性があるのなら…オレは全力を注ぐ。
……ま、ゲームでトラウマ克服も情け無い話だが。
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