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1.スタダ
25.桜の舞う季節に…5、ララとルーク。
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クロード商店の中では、すすり泣く声が続いている。
3年もの長い月日をお互いが想いあっていた。
そしてお互いが後悔しあっていた。
ルークさんのすすり泣く声が収まるのを待ち、オレは優しく話し掛ける。
「…ララさんへの返事は不要と本人から伝えられています。わたしが身勝手にしてしまった事ですが、二人の中で止まっていた時間が少しでも動き出すように……心から願っています」
オレはそう言い残し立ち去ろうとする。
「待ってください!」
店出入り口のドアに手を掛けた所で、ルークさんに呼び止められた。
「上野さん。ララさんからの手紙を届けて頂き、本当に有難うございました。3年前のあの日に止まった時間が、まるで動き出したように胸のつかえが取れました」
「そして…私はララさんに直接会って話がしたい。正直に言いますと、ララさんが結婚するという話を私は知っています。勿論その結婚を止める力は私には無く、結婚をどうこうしようというつもりは有りません。ただ…ララさんに会って、私の方からも謝罪したい。3年という長い期間を、後悔の日々で過ごさせてしまったのは私なので…」
ルークさんは決意に満ちた表情でそう言った。
その表情は先程まで泣いていたとは思えない程、活力に溢れている。
そして、ララさんと会う決意したのであれば、オレも協力を惜しまない。
「分かりました。それであれば私も協力します。今すぐにでもララさんに会いに行きましょう」
「ええ!すぐに会えるのであれば会いたい!そしてすぐにこの想いを伝えたい!」
…ルークさんの様子がおかしい?このままミュージカルでもやってしまいそうな調子だ。
違和感を覚えつつもそのまま店の外へ出る。
ルークさんは店のドアある看板をクローズに替えた。
ずっとソワソワしているルークさんと共に、ララさんの居る教会へとやってきた。
オレはララさんの居る部屋の扉をノックする。
その後ろには勿論ルークさんがいる。
「上野です。ララさんいらっしゃいますか?」
「はい、中へどうぞ」
部屋の奥からララさんの声がする。
「失礼します」
扉を開け…2人で部屋の中に入る。
「上野様。お手紙をお届け頂きありが……」
ララさんがオレの後ろに居る男性、ルークさんに気付いて固まってしまう。
ルークさんは部屋に入ると、そのままララさんに向け会釈をする。
「ララさん…お久しぶりです。手紙の方読ませて頂きました。この3年間…ずっと後悔していた事が嘘のように、今は清々しい気持ちです」
ルークさんはララさんにそう告げた。
ララさんを見ると…本人が急に来たのが予想外だったのだろう。
顔が耳まで真っ赤になりながらオロオロしている。
ルークさんはそれを気にしない様子で話を続ける。
「私はあの日に気持ちを告げた事をずっと後悔していたのです。私は貴方との関係を…友人以上を望んではいけなかった。貴方を困らせてしまう結果になるのであれば、気持ちを告げるべきでは無かったと、そう後悔しながら過ごして……」
「それは違います!」
ルークさんは伏し目がちに淡々と話していると、ララさんが会話に割って入ってくる。
「私は貴方の言葉がとても嬉しかった!人生の中であれほど喜んだ事は無かった!ルーク様は悪く有りません!全て私が答える事が出来なかったのが悪いのです!」
お互いに自分の行動に罪悪感を覚え、嫌悪し…相手の事を想っている。
相手の事を想うからこそ、後悔が生まれていた。
そして相手に対しては恨みや怒りの感情等……そんなも負の感情は全く抱いていなかったのだ。
2人の気持ちが…3年前と変わらずに愛し合っているのは言うまでも無いだろう。
ララさんの婚約という問題があるが、この2人であればそれを乗り越えていける筈だ。
さて、ここまで来たらオレは邪魔者でしかない。
すぐに立ち去る事にしよう。
ララさんとルークさんの2人は、手を取り合っていた。
既に2人の世界に入ってしまっている。
オレはそのまま2人に何も告げず、踵を返し部屋の外へ出た。
そして教会の外へ出ると、オレは両手を上にあげて身体を伸ばす。
肩の荷が降りて嘘のように身体が軽い。
ララさんの手紙を読んだ直後と比べると別の身体みたいだ。
(あースッキリした!それに良い結果で終わって良かった!恥ずかしい事も言った気がするけど、忘れる事にしよう。それにしても…綺麗な景色だ)
教会はすこし高い丘の上に建っており、プロテアの街を一望する事ができる。
そこから見える景色は…。
ララさんに会う前まで緑一色だったはずの桜の木が、花を咲かせて薄い桃色に染まっている。
それはプロテアの印象である白を塗り潰し、街全体の色を変えてしまうほどに。
そこに、突如少し強めの風が吹く。
街中の桜の花弁が散ることで、まるで桃色の波が押し寄せてくるように見える。
そんな光景にオレは暫く目を奪われてしまう。
(クエスト報酬はこの綺麗な景色かな。……何て)
これはゲームの仮想世界内でNPC同士の物語。
けれどそこにはお互いを思いやる2人の姿があった。
後悔で忘れられなかったらその季節は、2人の想いが通じ合った大切な思い出の季節へと上書きされた。
その、桜の舞う季節に…
------
……その後
ララさんとアルトンさんの婚約は破棄される事となった。
その事は教会と両家で大きな問題となり、結果プロテア街中のNPCの噂になるほど。
そしてルークさんはそのままクルード商店を経営し、そのセンスの良さで順調に利益を増やしていく。
次第にクルード商店は店舗数を増やし、他の国にも出店する事をきっかけにクルード商会を立上げる。
そのクルード商会はRDOで有数の商会となって行くのだが、これはまだまだ先の話。
そして、プロテアにあるクルード商会本部。
そこには初代クルード商会の商会長ルーク・クルードの肖像画がある。
更にその隣に飾られた、薄い桃色の髪をした美しい女性の肖像画。
肖像画に書いてある、薄い桃色の髪をした女性の名前は……ララ・クルード
------
3年もの長い月日をお互いが想いあっていた。
そしてお互いが後悔しあっていた。
ルークさんのすすり泣く声が収まるのを待ち、オレは優しく話し掛ける。
「…ララさんへの返事は不要と本人から伝えられています。わたしが身勝手にしてしまった事ですが、二人の中で止まっていた時間が少しでも動き出すように……心から願っています」
オレはそう言い残し立ち去ろうとする。
「待ってください!」
店出入り口のドアに手を掛けた所で、ルークさんに呼び止められた。
「上野さん。ララさんからの手紙を届けて頂き、本当に有難うございました。3年前のあの日に止まった時間が、まるで動き出したように胸のつかえが取れました」
「そして…私はララさんに直接会って話がしたい。正直に言いますと、ララさんが結婚するという話を私は知っています。勿論その結婚を止める力は私には無く、結婚をどうこうしようというつもりは有りません。ただ…ララさんに会って、私の方からも謝罪したい。3年という長い期間を、後悔の日々で過ごさせてしまったのは私なので…」
ルークさんは決意に満ちた表情でそう言った。
その表情は先程まで泣いていたとは思えない程、活力に溢れている。
そして、ララさんと会う決意したのであれば、オレも協力を惜しまない。
「分かりました。それであれば私も協力します。今すぐにでもララさんに会いに行きましょう」
「ええ!すぐに会えるのであれば会いたい!そしてすぐにこの想いを伝えたい!」
…ルークさんの様子がおかしい?このままミュージカルでもやってしまいそうな調子だ。
違和感を覚えつつもそのまま店の外へ出る。
ルークさんは店のドアある看板をクローズに替えた。
ずっとソワソワしているルークさんと共に、ララさんの居る教会へとやってきた。
オレはララさんの居る部屋の扉をノックする。
その後ろには勿論ルークさんがいる。
「上野です。ララさんいらっしゃいますか?」
「はい、中へどうぞ」
部屋の奥からララさんの声がする。
「失礼します」
扉を開け…2人で部屋の中に入る。
「上野様。お手紙をお届け頂きありが……」
ララさんがオレの後ろに居る男性、ルークさんに気付いて固まってしまう。
ルークさんは部屋に入ると、そのままララさんに向け会釈をする。
「ララさん…お久しぶりです。手紙の方読ませて頂きました。この3年間…ずっと後悔していた事が嘘のように、今は清々しい気持ちです」
ルークさんはララさんにそう告げた。
ララさんを見ると…本人が急に来たのが予想外だったのだろう。
顔が耳まで真っ赤になりながらオロオロしている。
ルークさんはそれを気にしない様子で話を続ける。
「私はあの日に気持ちを告げた事をずっと後悔していたのです。私は貴方との関係を…友人以上を望んではいけなかった。貴方を困らせてしまう結果になるのであれば、気持ちを告げるべきでは無かったと、そう後悔しながら過ごして……」
「それは違います!」
ルークさんは伏し目がちに淡々と話していると、ララさんが会話に割って入ってくる。
「私は貴方の言葉がとても嬉しかった!人生の中であれほど喜んだ事は無かった!ルーク様は悪く有りません!全て私が答える事が出来なかったのが悪いのです!」
お互いに自分の行動に罪悪感を覚え、嫌悪し…相手の事を想っている。
相手の事を想うからこそ、後悔が生まれていた。
そして相手に対しては恨みや怒りの感情等……そんなも負の感情は全く抱いていなかったのだ。
2人の気持ちが…3年前と変わらずに愛し合っているのは言うまでも無いだろう。
ララさんの婚約という問題があるが、この2人であればそれを乗り越えていける筈だ。
さて、ここまで来たらオレは邪魔者でしかない。
すぐに立ち去る事にしよう。
ララさんとルークさんの2人は、手を取り合っていた。
既に2人の世界に入ってしまっている。
オレはそのまま2人に何も告げず、踵を返し部屋の外へ出た。
そして教会の外へ出ると、オレは両手を上にあげて身体を伸ばす。
肩の荷が降りて嘘のように身体が軽い。
ララさんの手紙を読んだ直後と比べると別の身体みたいだ。
(あースッキリした!それに良い結果で終わって良かった!恥ずかしい事も言った気がするけど、忘れる事にしよう。それにしても…綺麗な景色だ)
教会はすこし高い丘の上に建っており、プロテアの街を一望する事ができる。
そこから見える景色は…。
ララさんに会う前まで緑一色だったはずの桜の木が、花を咲かせて薄い桃色に染まっている。
それはプロテアの印象である白を塗り潰し、街全体の色を変えてしまうほどに。
そこに、突如少し強めの風が吹く。
街中の桜の花弁が散ることで、まるで桃色の波が押し寄せてくるように見える。
そんな光景にオレは暫く目を奪われてしまう。
(クエスト報酬はこの綺麗な景色かな。……何て)
これはゲームの仮想世界内でNPC同士の物語。
けれどそこにはお互いを思いやる2人の姿があった。
後悔で忘れられなかったらその季節は、2人の想いが通じ合った大切な思い出の季節へと上書きされた。
その、桜の舞う季節に…
------
……その後
ララさんとアルトンさんの婚約は破棄される事となった。
その事は教会と両家で大きな問題となり、結果プロテア街中のNPCの噂になるほど。
そしてルークさんはそのままクルード商店を経営し、そのセンスの良さで順調に利益を増やしていく。
次第にクルード商店は店舗数を増やし、他の国にも出店する事をきっかけにクルード商会を立上げる。
そのクルード商会はRDOで有数の商会となって行くのだが、これはまだまだ先の話。
そして、プロテアにあるクルード商会本部。
そこには初代クルード商会の商会長ルーク・クルードの肖像画がある。
更にその隣に飾られた、薄い桃色の髪をした美しい女性の肖像画。
肖像画に書いてある、薄い桃色の髪をした女性の名前は……ララ・クルード
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