VRMMOを始めただけなのに、何故世界の危機に巻き込まれたのだろうか?

飛楽ゆらる

文字の大きさ
上 下
25 / 85
1.スタダ

24.桜の舞う季節に… 4 、ララの手紙

しおりを挟む
クロード商会が見えてきた。
オレの手にはララさんのルークさんへの想いが詰まった、手紙の入っている白い封筒。

そしてクロード商店に着くと、そのまま入口のドアを開いた。
店内に鈴の音が鳴り響く。
ルークさんはカウンターに居るようで、店内に他の客の姿は無い。
誰かが入ってきたことに気づき、ルークさんが反応する。

「いらっしゃいませ!…おや、貴方は……」

入ってきたのがオレだと気づくと、ルークさんは困った様子を見せる。
オレはその様子を気にせず、ルークさんの居るカウンターへと近づいていく。

「何度も訪れて仕事の邪魔をしてしまい申し訳ありません。ですがこの件で訪れるのは今回で最後にするので、お許しください」

「…人探しの次は何の用でしょうか?」

ルークさんは明らかに不機嫌な様子を見せる。
けれど今回はここで退いてはいけない。

「実は…ララさんに手紙を書いて頂きました」

ルークさんはオレの言葉に目を見開いて驚く。
…オレには怒っているというよりは、焦っているように見える。

「ルークさん。この手紙にはララさんの想いが全て詰まっています。この3年間の後悔と謝罪…そしてあなたへ抱いている想い。正直ルークさんがこの3年という期間を、どのように思いながら過ごしていたかは分かりません。ですが、少しでもララさんに思ところがあれば……この手紙を読んで頂けませんか?」

オレはそう言って手に持った白い封筒をルークさんに差し出す。

「上野さんでしたか…?あなたは私がララさんの言うルークである事が分かっていたのですね。そして、私とララさんの間に何があったのかも」

「…分かっていました。ですが、ララさんから直接聞いた訳ではありません。ララさんの手紙を偶然見てしまい、ルークさんとララさんの関係を知りました」

オレは封筒を差し出したままで、ルークさんは受け取ろうとしない。
封筒をずっと見つめて、何かを考えているようだった。
そして、ルークさんは決意したように動く。
オレの手から封筒を受け取り、そのまま封筒を上下に破る動作をする。

ルークさんの動作を見た、その瞬間…オレはこう思った。

(あぁ…オレがした事は全て余計な事だったみたいだ。所詮、自己満足でしかなかったのだ。オレの行動で、ルークさんとララさん2人を傷付ける結果となってしまった…)

しかしルークさんは封筒を破る直前で動作をやめた。
封筒も中の手紙も無事だ。
そしてそのままの格好で小刻みに震え…目には涙が浮かんでいるようだ。
オレは…見ている事しかできなかった。

暫くの沈黙の後、ルークさんが強めの口調で話し始める。

「破れる訳がないっ…!!私が…どれだけララさんを想っていたか…!卒業式の日に言った事を、この3年間で何度後悔したか!!!…私はララさんの傍に居れただけで……友人として居れただけで満足していれは良かったのに!!」

ルークさんの目からは涙が溢れ、線を描いて落ちていく。
そしてそのまま地面に座り込んでしまった。
けれどそのまま喋り続ける。

「私がララさんに気持ちを伝えた事で…彼女を困らせてしまった!ララさんは優しくて、美しい…そして私とは家柄も違う!私と釣り合う訳が無いのに!…そしてその結果がこれだ!ララさん…彼女を3年も後悔させてしまうことになった!!」

ルークさんもずっと思い悩んでいたのだろう。
それがララさんの手紙が届いた事で、今まで押し留めていた想いが決壊し、溢れ出てきてしまった。

ルークさんの嗚咽が落ち着いてきたのを確認し、口を開く。

「ルークさん…ララさんはあなたに対する悪い感情は一切無いそうです。逆にあなたに感謝していました。…そしてこれ以上は私の口からは言えません。ララさんの想いが全て詰まった手紙を…読んであげて下さい」

ルークさんは意を決して封筒の口を開ける。
そして丁寧に中の手紙を取り出した。

手紙の内容は…そう。
最初に見てしまった、ララさんの手紙そのままだった。


------

拝啓 ルーク・クロード様

また桜の舞う季節になりました。

ルーク様は元気に過ごしているでしょうか?
この季節になると、私は後悔で胸が締め付けられてしまいます。

卒業式の日気恥ずかしさで、貴方を傷つけてしまったことが今でも…悔みきれません。
何も返事をせずに貴方の前から去ったあの日から、後悔の日々が続いているのです。
もし、出来ることなら。もし、話すことを許して頂けるのであれば…あの日の事を貴方に謝罪したいです。
あの日失礼な態度をとってしまって、本当にもうしわけありませんでした。

私にとって教会学校で貴方とお話をさせて頂いている時間は、とても楽しくかけがえの無い時間でした。
私の人生の中で一番素晴らしい、幸せな時間だったのです。

私は卒業間際に貴方へ恋心を抱いていた事に気づきました。
そしてそれに気づいてしまったことで、あなたとどう接したら良いかが分からなくなり、距離を取るようになってしまいました。
決して貴方を嫌いになったわけではなかったのです。

卒業式当日のあの日、貴方から声を掛けていただきましたね。
私は相変わらず上手に会話をする事が出来ないでいました。
そして貴方は片膝を地面につき、私への想いを伝えてくださいました。

あの時、私はとても嬉しかった。

ルーク様も私と同じく気持ちが通じ合っていた。
その事に全身が喜びに満ち溢れました。
ただ、私はそのお返事をする事が出来なかった。
どうしたら良いかが、分からなかった。
あまりの事に高揚し、貴方の手を取ることが出来なかったのです。

あの時の貴方の悲しんだお顔が、今でも目に焼きついて離れません。
私は意気地なしです。私の心が弱かったのが全て悪いのです。

ルーク・クロード様。
こうして手紙にて一方的に謝罪をさせて頂いていることも、大変申し訳なく思います。
私は3年前のあの日の事を許して頂けるとは思っておりません。
それだけの事を私はしてしまったのですから。

ですが、私の行動によりご不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ありませんでした。
そして謝罪が遅れてしまった事を、お詫び致します。

私はルーク・クロード様の人生が幸せで溢れる事を、ずっと祈っています。

これからこの季節が良い出来事に溢れ、早く私の事を忘れてしまえるよう願っています。

最後に。

私の初恋が貴方で良かった。
本当にありがとう。

ララ・アネット

------

手紙を見たルークさんは再度泣き崩れた。

その瞬間…突如風が吹き、開いていた窓から花弁が一つ運ばれてくる。
花弁はそのままひらひらと舞い、泣いている彼の肩で止まる。
まるで、彼のことを慰めるように。

そしてその花弁は、ララ・アネットの髪色と同じ薄い桃色だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

ユニーク職業最弱だと思われてたテイマーが最強だったと知れ渡ってしまったので、多くの人に注目&推しにされるのなぜ?

水まんじゅう
SF
懸賞で、たまたま当たったゲーム「君と紡ぐ世界」でユニーク職業を引き当ててしまった、和泉吉江。 そしてゲームをプイイし、決まった職業がユニーク職業最弱のテイマーという職業だ。ユニーク最弱と罵られながらも、仲間とテイムした魔物たちと強くなっていき罵ったやつらを見返していく物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

初めての異世界転生

藤井 サトル
ファンタジー
その日、幸村 大地(ゆきむら だいち)は女神に選ばれた。 女神とのやり取りの末、大地は女神の手によって異世界へと転生する。その身には女神にいくつもの能力を授かって。 まさにファンタジーの世界へ来た大地は聖女を始めにいろんな人に出会い、出会い金を稼いだり、稼いだ金が直ぐに消えたり、路上で寝たり、チート能力を振るったりと、たぶん楽しく世界を謳歌する。 このお話は【転生者】大地と【聖女】リリア。そこに女神成分をひとつまみが合わさった異世界騒動物語である。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...