VRMMOを始めただけなのに、何故世界の危機に巻き込まれたのだろうか?

飛楽ゆらる

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1.スタダ

23.桜の舞う季節に…3

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オレはクルード商店を出てからすぐにララさんの元を訪ねた。
これ以上の事をすべきでは無いと、頭によぎってはいるのだが止められない。

ララさんに挨拶をすると、そのままスキルクエストが進みそうになった。
オレはララさんの話を遮る。

「ララさん、スキルクエストは今良いので…少しお話があります」
「…?何でしょうか?」

オレはそのままララさんの手紙を見てしまった事。
それでララさんのルークさんへの想いを知った事。
実はルークさんに会った事と、分かる範囲でルークさんの近況。

手紙を見てしまった、という部分でララさんは顔を真っ赤にして焦っていたが、ルークさんの話になると落ち着いて真剣にオレの話を聞いていた。

「あぁ…ルーク様は健康で、商人として順調なのですね。それが分かっただけでも、私は大変嬉しいです。上野様…本当に有難うございます」

ララさんはそう明るく振る舞いながら言うが、表情はどこか暗い。

そんなララさんに向け…オレはこう告げた。

「これは私の勝手なお節介であり、無礼な事を承知の上で申し上げます。私はあなたの想いを…せめて謝罪だけでもルークさんにお伝えしたいです」

その言葉にララさんは目を丸くして驚く。
オレは話を続ける。

「ララさん…ルークさんに手紙を書きませんか?あなたの後悔やルークさんへの謝罪。そして…恋心。想いを全て手紙に乗せて、届けるのです。私がその手紙を必ずルークさんに渡します」

「それは…私が今更して良い事では有りません!あれから3年も経っているのですよ?…後悔したのが遅すぎたのです。あの時の事をルーク様もお怒りになっているに違いありません!」

ララさんは声を張りそう言い放つ。

時間の流れは残酷だ。
友人との喧嘩もそうだ…喧嘩直後であれば謝る事は容易い事なのだ。
それが時間が経てば経つほどに…難しくなる。
もし距離が離れれば…もし、その友人が居なくなってしまったら、謝る事など出来なくなるのに。

そしてその事に…本当に手遅れになった後理解しても、遅いんだよ。

数年経とうがその気持ちを伝えれるのであれば、遅くは…無い筈だ。

「では…ララさんは一生ルーク様への思いを抱えたまま、アルトンさんと死ぬまでの数十年過ごしていく事になります。幸せな家庭を築き、今後子供が生まれたとしても、心の奥底にはルーク様への想いが残ったままです」

オレは話を続ける。

「まあ…時間が経てばその想いも消えないにしろ、徐々に薄れて行くでしょう。人の恋心などそんなものです。ただし、大きな後悔は…そう忘れられるものでも薄れていくものでも無いと思います。長い年月を経ても、ふと思い出し…また後悔するのでしょう」

ララさんはオレの話に真剣に耳を傾けている。

「私は1人の人生がそうなることが見ていられません。私と同じ轍を踏まないように。想いを届けれる今なら大丈夫です。…届ける事ができる今なら、遅いという事は絶対に無い。それと…ララさんの目にあるもの。それが答えではないのですか?」

オレは強くそう言いきった。
ララさんの目には…涙が溢れてきていた。

ただ、オレの想いはもう届くことは無い。
でも、2人にはこんな思いをして欲しくは無い。
オレの頭からは、2人がゲームのNPCなどと言うことは完全に抜け落ちていた。

ララさん…いや、ララ・アネットは涙を袖で拭う。
その表情を見るに…決意したようだ。

「…上野様。今すぐにルーク様へのお手紙を書こうと思います。少々お時間を頂いても大丈夫でしょうか?そして…大変申し訳ないのですが、ルーク様にお手紙を届けて頂けますでしょうか?」

良かった。ララさんにオレの思いは伝わったようだ。
今はゲームの事などどうでもいい。
オレは笑顔で返事をする。

「ええ、大丈夫です。何時間でも待ちますし、手紙も喜んでお届けします」

…そのめま20分程経ち、ララさんが手紙を書き終わったようだ。
ララさんはオレに白い封筒を差し出してくる。

「上野様。貴方には本当に感謝してもしきれません。ルーク様への手紙を書けた事で…私の胸のわだかまりが無くなったようです。後悔してもしきれないあの日から、やっと前に進めるような気がします。私の背中を押して頂き、本当に有難うございます」

「私もララさんの力になれた事で、大変嬉しいです。ただこれは私のお節介で…やりたくてやっているだけです。ララさんは気にする必要はないですよ」

「上野様はとてもお優しいお方ですね。貴方の伴侶となる方はさぞ素晴らしい女性でしょう。少し…羨ましくも思います」

ララさんが微笑みながら話し掛けてくる。
そこまで素直に褒められると、高ぶっていた気持ちが落ち着いて、恥ずかしくなってきた。

「そして…ルーク様へのお手紙を宜しくお願いします。お返事は貰えなくて構いません。私の勝手ですが、ルーク様へ謝罪することが出来れば良いのです。私の謝罪でルーク様がお怒りになるかもしれませんが…私はそれも全て受け止めるつもりでお手紙を書きました」

「ではルーク様へ手紙を届けてきます。そして出来ることであれば返事を。返事が頂けなくても、ルーク様の様子を伝えに戻ってきますね」

「宜しくお願いいたします」

深く深くお辞儀をするララさんを横目に…オレは踵を返し部屋を後にする。

ララさんの手紙で、ルークさんがどのような反応を示すかは分からない。
けれど、二人にとって良い結果となることを祈る。

オレは封筒を大事に持ち、クルード商店へと急ぐ。
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