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3.凸凹コンビと黒い人

聖剣少年と黒い影 7

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 僕達はヒメさんのDH端末で地図を見ながらDH教育学校を目指す。

 勿論エラーの様子を伺いながらだが、遭遇に関しては発電所までは距離があるのでまず問題ないだろう。

 それでも時折何かが爆発する音や崩れる音が聴こえて来るから注意している。

「それにしても、ムノ君教育学校に通ってたのにこの辺り詳しく無いの?」

 全く道が分からないと言った僕に、ヒメさんがそういうのも当然かもしれない。

「いやさ……その。無能の僕が外に出るとろくな事にならないから、出来るだけ出ないように、ね。」

「あ、うん。ごめんね……」

 ヒメさんが申し訳なさそうな顔をする。でも、正直ふーん位で流してくれた方が傷は少なかったんだけれど。




 そのまましばらくの間僕達に無言が続く。ヒメさんは道を確認し、僕は周囲を確認しながらヒメさんの後を追う。

 ……DH教育学校に近づくにつれて、徐々に見慣れた道や施設が目に入るようになる。

 そのせいか、僕は少し教育学校での生活を思い出していた。


ーーーーーー

 ——教育学校に通ったのは15歳になって四月からの約半年。

 その間の生活は、とにかく最悪だった。それ以外に言いようがない。

 DH教育学校は元々孤児や家庭の事情で、戦闘に関する才能が有ってもDHとしての教育が受けられない者や、ちゃんとした身分証となる物が無い人がDH免許を取得する為に作られた無償の施設だ。


 そうする事で少しでも有力なDHを発掘したり、DHを増やしてダンジョン素材の収集量を増加させたりするのが目的で作られたのだが、どうも教育学校上がりのDHは素行が悪く、良いイメージが持たれていない。



 ——そんな所に無能の僕が居たら虐めの的にされるのは必然だった。
 
 僕はそれを覚悟した上で学校に入ったんだ。

 
 だがDH教育学校での虐めは、これまで孤児院、小学校、中学校で受けていたものとは比較にならなかった。

 悪口や嫌がらせ等だった内容が、完全に暴力主体の虐めになってきた。


 それも、ステータスが発現した世界。

 戦いに関する才能がある者は素の腕力も高く、僕のステータスでは耐えれない。一度お腹を殴られただけで血は吐き出すし、骨も簡単に折れてしまう。

 その度に保健室の世話になり、その保険医でさえ怪我をした事を罵倒してくる。
 

 本当は怪我なんてしたくないし、僕のせいじゃ無いのに。



 そしてそんな悪夢のような日々に耐えていた結果が、強制退学だ。
 
 全てを投げ出したくなるのは当然の事だったと思う。




ーーーーーー




 ——考えれば考えるほどに、この学校には嫌な思い出しかない。




 こんな学校、僕の手で潰してしまえば良いんじゃないか?そうすれば少しスッキリするかもしれない。

 それにあの頃僕を虐めていた連中は、まだ教育学校に居るはずだ。

 アイツらは僕が居なくなって、どう思って居るのだろうか?それとも僕の存在は頭の片隅にも残っていないのだろうか?


 
 ——正直言って、殺してやりたい気持ちも無くはない。


 僕に暴力を振るっていた奴ら、そして守るべき立場の教員達。それと金の事だけを考えて僕を一方的に退学にした、あの校長。



 
 あんな奴らは見捨てて、エラーに殺されてしまえば——




「——くん!——ムノ君!!」


 気がつくとヒメさんが声を掛けながら僕の肩を揺すり、僕はハッと我にかえる。

 僕の表情が変わったからか、ヒメさんは安堵した様子で胸を撫で下す。


「ああ、良かった……急に怖い顔になって、話し掛けても反応が無いんだもの」

「……あ、ああ。ごめん。……ちょっと考え事してたら、入り込んじゃって」

 その返事にヒメさんは浮かない表情になる。

「……教育学校での事を思い出してたの?」

「あーうん。建物見てたら思い出しちゃってさ……」

 僕は頭を振ってさっきの事を忘れようとするが、簡単に消えるものではなかった。
 
「でももう大丈夫!教育学校へ行こう」

 僕は笑いながらヒメさんにそう伝える。

「分かったわ」

 ヒメさんは浮かない表情のまま先へと進む。

 恐らくさっきはうまく笑えていなかったのだろう。ああ、こんなんじゃだめだ。緊急事態なのに、しっかりしないと。

 僕は頬を両手で叩き気持ちを切り替えて、ヒメさんの後を追った。


ーーーーーー

 
 暫く歩くとDH教育学校の校舎が見えてきた。

 約一年ぶりだろうか。そんな事を考えながらマントで顔をしっかりと隠す。

 そして校門にはグンセさんと——教育学校の校長、それとは別に二人の教員の姿。

 グンセさんは僕達に手を挙げて声を掛ける。

「無事だったか。今、エラーはミスリルランクのパーティーが相手をしているそうだ。ただ逃げ回って時間を稼ぐのに精一杯でまともに戦えて無い。一刻も早く応援に行くぞ」

 グンセさんは敢えて僕の名前を出さないようにしたのだろう。

「……」

 僕は無言で頷き返事をする。

 校長や教員は僕の姿を見て期待するような目を向けている。それに正直言って苛立つ以外の感情は無い。

 そこでヒメさんが話し始める。

「発電所の社員は見つかった?発電所を停止しないとエラーが巨大化して手に負えなくなるわ」

「それは大丈夫だ。既に手は回してある。恐らく今頃発電所の中で停止作業中だろうよ」

「それなら良かったわ」
 
 ヒメさんは安堵する表情を見せる。

 
 
「あ、あのー……黒き英雄さん。教育学校を守って頂けると、ありがたいのですが……。この学校には未来を担う若者が多く在籍しておりまして……」

 様子を見ていた校長が手を擦りながら僕に話しかけて来る。

 僕はそれを一瞥し、すぐに視線を外す。

 その様子に校長は焦ったのか慌てて口を開く。

「も、勿論タダとは言いません!守って頂ければ、教育学校の予算の一部に余裕があるので、そこから謝礼を——」

 何も言わずに去ろうとしたのに、コイツは何故こうも僕の神経を逆撫でしてくるのか。

 予算に余裕があるだと?余裕が無くて僕を退学にしたんじゃ無かったのか?


 ——ふざけるなよ。


 抑えていた感情が溢れてくるのが分かる。

 コイツも教育学校も、全て消えてしまえば良い。

 
 それに、コイツを一発ぶん殴らないと僕の気が済まない。

 校長を睨みつけたまま、僕は校長へと近づいていく。


 グンセさんもヒメさんもその様子を眺めているだけで、特に止める素振りは見せない。

 
 僕は校長の目の前で足を止め、そこでふう、と息を吐く。


「な、何を——」

 僕の様子に困惑している校長に、慌てる教員達。


 僕は右手を握りしめる。

 そして校長でも分かるように、大袈裟な動作で右手を引き——。


「や、やめ——!!」

 校長が目を見開き、顔を手で隠す。



 ——僕はその引いた右手を校長の顔目掛けて振り抜いた。

 
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