上 下
53 / 66
3.凸凹コンビと黒い人

聖剣少年と黒い影 2

しおりを挟む
ーーーーーー
※ムノ視点

 僕はエラーとの戦いの後ヒメさんに事情を説明し、急いでグンセさんの店に戻った。そしてグンセさんに事情を説明した。

 だがその夜にはエラーの情報を掴めず、結局朝を待つことになってしまった。

 そして、その翌朝。

「昨日の夜、ここから割と近くにエラーが出てたみたいですね」

「……そうみてえだな。だがDHギルドが情報を開示しなかったせいで見失ったようだな」

「まあ、普通なら信じられないのかな……」

「分からないでも無いが、被害が出たのも事実だ」

「昨日の夜から一人行方不明。一人で済んだ、と思えばいいのか一人被害が出てしまったと思えば良いのか」

 
 あの人は言っていた。

 エラーが出たのは僕のせいだ、と。

 もしそうなら、一人エラーの被害に遭ったのは……僕のせいなのだろうか?

 その真偽は分からない。

 ただ……とても後味が悪いのは確かだ。


「ムノのせいじゃねえから気にすんじゃねえよ。むしろ、エラーとやらを見つけれるソイツが操ってるんじゃねえか?そんな大事な情報を出してない所からも怪しさしかねえだろ」

「そうですかね……でももしそうなら、アイツの思い通りにはさせたくないですね。僕、捻くれた性格してるので」

「ハッ、俺も同じだよ。それなら、俺達で全部潰して悔しがらせてやろうぜ?」

 グンセさんはフッと笑う。

「そうですね。僕の聖剣が効くのは分かってるんで、向こうが諦めるまで全部潰して回りますよ」

 僕もグンセさんに笑って返す。

「やるぜ」
「やりましょう」

 

 それから僕とグンセさん、それと一度家に戻ってから合流したヒメさんの三人で情報収集を始めた。

 けれどすぐにエラーが現れるわけでは無く、情報元もネットを回るしか無い。

 せめて名称が固定されれば、もう少し見つけやすいのに。

 僕とグンセさんが意気込んだのに、それがから回る虚しさよ。


 と、そんな事を考えていたらグンセさんが急に立ち上がり口を開く。
 
「おいムノ。渋谷の大通り、時間は間は恐らく10分前位だ。車を出すからすぐに行くぞ」

「はい」

 そこでヒメさんが複雑な顔で手を挙げる。

「……あの、私はどうすれば?」

 僕とグンセさんは少し悩む。

 ヒメさんが多彩な魔法を使える分、動きやすくはなるだろうが……そこから顔バレして騒ぎになるのも面倒だ。

 僕も同じなのだが、僕には鑑定阻害の隠蔽の指輪が有る。
 グンセさんはまあ居ても何とか揉み消すだろう。多分。

 それなら——。

 と思ったらヒメさんは自分から話し始める。

「やっぱり良いわここで待って情報収集でもしてるわ。ま、行っても危なさそうだし。二人共、怪我だけはしないでね」

 僕はヒメさんに向けて頷いて見せた。



ーーーーーー


 シル爺が運転する車に乗り15分程度。
 渋谷に近づくにつれて渋滞が酷くなってきた。

 その光景にグンセさんは舌打ちをする。

「チッ。こりゃダメだ。走って後五分ってとこか。ムノの全力なら2、3分で行けるか?」

「位置情報は入れたんで、後は現地で合流しましょう。じゃ、先行きます」



 そう言うと僕は渋滞で止まっている車から飛び降り、渋谷の大通りを目指す。

 聖剣や指輪で上乗せされた僕の敏捷値で、全力で走れば原付程度の速度が出る。

 でもグンセさんは僕より敏捷値が低いので、恐らく着くのは僕が先になるだろう。


 街中の人を避けながら走るが、人が多くてうまくスピードに乗れない。ぶつかって怪我をさせるわけにもいかないし。

 かなりの速度で走り人を避けていけば、それに驚いて振り返る人も多い。……見られるのはあまり得意じゃ無いなあ。

 ——それなら。

 僕は車の上を飛び移りながら走ることにした。これなら人を避けるよりは早いかもしれない。乗られた車の人には申し訳ないけど、人命に関わるかもしれないから大目に見てね。

 ——うーん。でも、逆に目立ってる気がするぞ?

 そこの外国人!NINJAじゃないから!!それにNARUOでもないわ!



 ま、まあそれは置いといて、あっという間に目的地に近づいてきた。

 目的地から慌ててこっち側に向かってきているのは、逃げてきた人たちだろうか。

 我先にと人を押し除けながら進むのは少し見苦しいが、エラーを見た後だとしたらその気持ちも分からなくはない。

 
 ここを曲がれば目的地。まだエラーは居るのだろうか?



 僕は角を曲がり——その先の光景を見ると、居た。エラーだ。



 どうやら一人のスーツの男性がエラーの攻撃を回避して時間を稼いでいるように見える。動きからするに男性はかなりの手練れだ。


 ——ってあれ?早川さんじゃない?


 何でスーツに片方靴下姿で戦ってるんだろう?

 ま、まあ。様子を見る限り危なげなく見えるし、取り敢えず大丈夫かな。少し安心した。


 さて、どんな風に参戦すべきだろうか……。


 鑑定は阻害出来るにしても、これだけ人の注目を浴びているのに顔を出すのはちょっと……。

 僕は人目の付きにくい角でマントを顔にグルグルと巻き、目以外は見えないように隠す。
 


 来い!


 そして聖剣を取り出して、深呼吸しながらタイミングを伺う。



 ——次の瞬間。早川さんがエラーの刺突攻撃を避け、後ろに大きく下がる。
 
 僕はそれと同時に一直線にエラーへと駆け寄る。

「光弾」

 エラーの意識をこちらに向けるため光弾を放つ。

 光弾は見えない何かに拒まれて消失するが、別に構わない。

 早川さんは何かを察したのか、大きく後ろへと跳躍する。



 僕は聖剣を逆手に持ち、それを——エラーに向かって投げた。

 エラーは聖剣に対応する為か槍のように体を変形させ、横薙ぎに聖剣を払おうとする。

 けれど聖剣はそれを物ともせず、それを打ち消して——エラーの身体へと到達する。

 聖剣が通過したエラーの身体中心部に大きく穴が開き、エラーはまるで痛がるかのように身体を震わせる。

『ウヴォッ……ォッオッ……』

 エラーが気味の悪い声のようなものをあげる。だがまだ、僕は走って距離を詰めている。

「来い」

 そう呟くと、聖剣が僕の右手に戻って来る。

 そして——走り込んだ勢いそのままに、エラーを両断した。


 
 僕は追撃に身構えながら振り返る——が。

 そこに見えたのは、エラーの黒い影が散るように消えていく光景だった。

 

 僕はそれを確認すると早川さんの方へと向かい、すれ違い様に呟く。


「あれはエラーです。あと、エラー出現情報を全てのDHにすぐ伝達するよう伝えて貰えますか」

 早川さんは僕を見ないようにしたまま返事を返す。

「君は……聞きたい事は有るが今度にしよう。エラーの件は私からDHギルドへ伝えておく」

 返事を確認し、僕はその場を走り去る。

「誰かは分からないがありがとう!」


 早川さんは僕に向けてそう叫ぶが、僕は振り返らずその場を離れていった。


 ——そして少し遅れてから、大通りの方で人々の歓声が挙がった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!

酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。 スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ 個人差はあるが5〜8歳で開花する。 そのスキルによって今後の人生が決まる。 しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。 世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。 カイアスもスキルは開花しなかった。 しかし、それは気付いていないだけだった。 遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!! それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!

ぼっちの日本迷宮生活

勤勉書造
ファンタジー
天変地異によりダンジョンが出現。家が倒壊して強制的脱ひっきーを果たした佐々木和真は、ぼっちという最悪のスキルを目覚めさせパーティが組めないことが判明。かくして、ぼっちの和真は一人きりのダンジョン冒険を始める冒険者となった。モンスターを討伐したり宝箱を探したり、親孝行も頑張ろう。しかし、ダンジョンの主であるダンジョンマスターが立ち塞がる。 ※小説家になろう様のサイトでも掲載中。読んでくれて有難うございました。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

処理中です...