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1.無能の少年と古い箱

孤児院 6

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「グンセさん……」
「ムノ、まだこの件は終わって無え。この騒ぎの犯人を問い詰めるぞ」 

 グンセさんはそう言うと、栗生と呼んだ髪長い男性に目を向ける。栗生さんはグンセさんに怯え、ガタガタと歯を鳴らす。

 グンセさんは、栗生さんに一歩ずつ近づいていく。

「ヒッ!!」

 彼は既に涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔だ。

 そしてグンセさんが栗生さんの前に——行かなかった。
 何故か栗生さんの横を通り過ぎて、その先へと向かっていく。

 あれ?っと思い、グンセさんの進行方向の先を見る。

 するとその進行方向の先には——マキナさんの姿。
 グンセさんは後ろ手で縛られ、猿轡をされたマキナさんの前で止まると一言。

「……おい女。テメェは何もんだ?縛られたフリしてるが、そんなもん楽に解けるんだろ?」

「ンーッ!」

 マキナさんは怯えた様子を見せ、違う事を主張するように首を横に振る。

「グンセさん何を言うんですか!」

 僕は止めに入るため、二人に足を引きずりながら近づく。

「しらばっくれるんじゃねぇ。——俺には鑑定で全部見えてんだよ。言ってやろうか?テメェはラリンス教の暗部だろ?」

「え……?マキナさんが、ラリンス教暗部?」

「ああ……とは言っても推測も入ってるけどな。ただ間違いねぇのが、コイツは人間じゃなく——人形だ」

「人……形……?」



……ふふ。

「ふふふふふ……」

 ——笑い声の方を見ると、マキナさんが下を向いて笑っている。
 何故か——誰も拘束を外して等いないのに、自由な姿で。

「マキナ、さん?」

「……あーあ、ムノ君。何で"金剛石のグンセ"なんて連れてくるのかなぁ?」

 その声は、マキナさんの優しくおっとりとした喋り方は消え、少しトゲのある子供の声に変わっていた。

「でも不思議だなぁ。君、何で誘惑が効かなくなってるの?無能だった筈なのにすごく強くなってて、ヤクザ達と渡り合うし。……ねぇ、何で何で?」


「……」

「それがテメェの本性か…」

「えー。ムノ君だんまり?ほら、憧れのマキナお姉さんだよ?胸に飛び込んでおいで?それでぜーんぶ話して?」

 マキナさんがそう言いながら腕を広げる。


「テメェそれ以上ムノに喋りかけるんじゃねえ!ムノもこいつの話なんて聞くんじゃねえ!!」

「——はぁ。そんな乱暴な言い方は良くないよ。でも、グンセ君も不思議だよー。何で、分かったのかなぁ?」


「……ムノの話を聞いて違和感を感じたんだよ。この孤児院はおかしいってな。それで調べてみりゃ、マキナなんて職員存在してなかったじゃねえか……」

「あれ?あれれ?あーそうか。どうせ誘惑で誤魔化せると思って、データは弄らなかったなぁ」

「更に調べを進めたら、可能性が有る人物が浮上した。それが——ラリンス教の暗部のMって人物だ。MってマキナのMだろ?」

「わーすごいすごい!グンセ君見た目によらず頭良い!」

 わざとらしく驚いた表情と、パチパチと拍手をする。
 グンセさんはそれに対して嫌悪した表情を見せる。


「だが、分からねえ事がある。マキナ……テメェの目的は何だ?ムノを利用して何しようとしていやがった」

「それは、うーんとねー。じゃあ……失敗しちゃったけど、どうせだから聞いてよ。僕はね、ムノ君を英雄にしようとしたんだ!」

「……英雄?」

「そう。無能のせいでみんなに虐められちゃったけど、それでも人生を諦めなかったムノ君。そんな彼は突然力に目覚めて、孤児院を襲ってきたヤクザ達をボッコボコにしちゃうの!それでそれで!その力で、才能で人を差別してるDHギルドもたおしちゃうの!!」

 マキナさんは悪びれた様子もなく嬉しそうに話す。

「……ようはムノを神輿にして、ラリンス教の勢力を広げようとしただけだろうが」 

「えー?でもそれで、ムノ君も幸せになれると私は思ったんだけどね?」

「人の人生を何だと思ってやがる——ッ!」

 グンセさんはミョルニルを強く握りしめる。

 グンセさんが僕の事を思って怒っているのは分かる。
 けど——。


「……待って下さい」


 僕がマキナさんに抱いている想いは違う。
 それを——正直に話さなければ。
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