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1.無能の少年と古い箱

偽造DH免許

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 聖剣エクスキャリバーを入手してから……一ヶ月が経過した。

 今僕が居るのは…東京の歌舞伎町の繁華街の裏路地。
 その一角にある、看板も無い事務所のような建物に僕は足を踏み入れようとしている。
 ——僕は、この一ヶ月探し続けていた店をついに見つけた。

 中に入ると酒場のようなカウンターがあった。そこにはサングラスを掛けた、スキンヘッドの厳つい男性が…雑誌を見ながら座っていた。

「す、すいません…」

 僕が男性に声を掛けると、厳つい男性はこちらに顔を向ける。
 ——す、すごく怖い!

「…ガキがここに何の用だ」

「ここなら……僕の望む物が手に入ると聞いてやって来ました」

 ここは、ヤのつく人達の息が掛かっている闇の販売所だ。普通ならこんな所に来たくはないが、ここでは免許や身分証の偽造も行っているようなのだ。

 ——僕の望む物、それは。

「ダンジョンに入るために、どうしても偽造DH免許が欲しいんです。でも僕、お金が無くて…」

「……ダメだ。俺は金が有ればなんでも用意するが、逆に金が無いなら何も用意しねぇ」

「必ずダンジョンで稼いでお金を返します!ですからどうか…っ!」

「テメェのようなひ弱なガキが、ダンジョンで稼ぐだと?ダンジョン舐めてんじゃねえのか?誰でも稼げるなら、世の中DHしか居なくなってるぜ」

 やはり普通はそういった反応だろう。厳つい男性は…完全に僕を馬鹿にしたような態度。

「確かに信じてもらえないかもしれません。でも、僕には稼ぐ方法が有ります」

「ハッ。そこまで自信が有るなら、DH教育学校にでも行ってこい。あそこなら誰にでも免許くれるだろうよ。——さて、話はここまでだ。まだこれ以上居座るなら、痛い目に合うぜ?」

 厳つい男性が立ち上がり、僕に近づきながら手をパキパキと鳴らす。恐怖に足が震えているが、ここで引いたらもう後がないんだ。

「……無理です。教育学校から追い出されました」

「はっ?」

 男性はその場で足を止める。

「僕が無能だから無駄死にするだけだって、強制退学になったんです」

「ハッハッハ!!テメェ無能なのかよ!!DH教育学校を追い出されるなんて、今まで聞いたことがねぇぜ!!」

 厳つい男性は、額に手を当てながら僕をあざ笑う。

「それでその無能がダンジョンに行って稼ぐだって?行っても死ぬだけなのに、どうやって金を返すんだよ。幽霊にでも化けてそれで稼いで返してくれるってか?こりゃあ傑作だぜ!」

 これが普通の反応だ。無能がダンジョンへ行って魔物を倒せるわけがない……でも。

「僕は無能ですが、魔物を倒せます……僕を鑑定してみて下さい」

「俺は鑑定上級のスキルが有るんだぜ?何かトリックが有ろうが全て見通す。甘くみんなよ無能野郎?」

「構いません。むしろ、詳細に鑑定できた方がいいです」

 僕の一言に対し、厳つい男性は明らかに不機嫌になる。

「チッ……"鑑定"。——って何だこりゃあ……」

 恐らく、彼の鑑定画面にはこう表示されているだろう。

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ムノ Lv.1
才能/なし

筋力 1 +20
体力 1 +20
敏捷 1 +20
知力 1 +20

スキル/剣術(初級)、光弾

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「おい。無能が何でスキルを持ってやがる?それにステータスのプラス値は何だ?」

「……言うと殺される可能性が有るので言えません」

「拷問して吐かせるって手も有るぜ?どうやらそっちの方が金になりそうだ」

 厳つい男性はニヤリと笑う。

「言っておきますが、僕を拷問しても殺しても得る物は無いですよ。これは"僕だけ"のモノなので」

「……」

 決して動じないよう意識しながら、僕は駆け引きをする。内心では怖くて心臓はバクバクいってるし、背中は冷や汗でビッショリと濡れている。

「……それよりも、取引をしませんか?」

「取引だと?」

「僕は偽造DH免許を言い値で買います。そして僕の能力でダンジョンに潜り、素材を代金としてあなたに支払います」

「……テメェが免許だけ持ち逃げして、金を支払わない事だって有りえるぜ?」

「そこは僕を信じて下さい。それと、あなたなら僕一人逃げてもすぐに見つけられるんじゃないですか?」

「……」

 厳つい男性はその場で腕を組んだまま黙り込む。その表情は良いものとは言えない。

(……ダメか。それなら、逃げる事を考えないと)



「——良いだろう。偽造DH免許を用意してやる」

「えっ?」

「テメェにDH免許を用意してやるって言ったんだ」

「本当に?」

「俺は嘘はいわねぇ。男に二言はない」

 良かった。どうやら僕を信用してくれたようだ……。

「あ、ありがとうございます!!で、でも急にどうして……」

「俺には嘘を見抜くスキルも有るんだよ。テメェは嘘は言ってねぇ。俺は俺のスキルを信じる」

 嘘が分かるスキルなんてものも有るのか。下手な事を言わなくて本当に良かった。
 僕は、ほっと胸を撫で下ろす。

「一つだけ答えろ。お前のその力は元々の能力か?それとも、アイテムか?」

「……アイテムです」

「嘘は言ってねぇようだな。だが、お前は魔物を倒せると言った。俺はそれを信用してやる。金は……そうだな。300万分の素材でチャラにしてやる」

 300万か。僕にしてみれば大金だが、聖剣を持ってダンジョンに潜っていれば…手の届く金額かもしれない。

「分かりました」

「3日後にまたここに来い。それまでに用意しといてやる」

 厳つい男性はそれだけ言うと、カウンターの中へと戻って、また雑誌を読み始める。

「…本当にありがとうございます」

 僕はそれだけ伝えると、そのまま建物を後にした。
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