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聖女誕生
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「あ、そうそう。
あまり見ない方がよろしいですよ。
目があうと、魂を抜かれるそうですから。
アンダーソン侯爵家の者とその客人にはそのようなことをしないように、お願いはしていますが」
「お、お願い、ですか?
命令ではなく?」
「ええ、そんな契約を交わすとそれこそ、魂をささげねばなりませんから。
共存共栄。
こちらはお願いできる範囲できいて頂き、あちらは心地よく住んでいた頂く。
そういう内容です。
ところで閣下。
いま、その懐には大金貨二十枚。
ございますね?」
は!?
なぜそれをー‥‥‥。
そんな顔を男爵はする。
やはりそうか。
この三枚舌め。
シェリルは読みが正しかったことを確信した。
「あのアレクは、真実の瞳を持っていますから。
虚偽を言うと、魂までとは言いませんが閣下。
少しばかり寿命を失う可能性はございますね?」
そう言い、アレクを見ると、妖魔はその視線を男爵に向けた。
「な、なぜそんなことを!?」
「だって閣下。
見せ金として見せるだけ見せて、あとは分割とか。
そんなお話にするおつもりだったのでしょう?
どうせ、この古城を伯爵家に貸すなど格式ある家柄に相応しくない。
なんて、爵位はく奪の内示など出されるおつもりだったのでは?」
「そ、そんなことはーー」
妖魔ににらみつけられ、男爵は真実を言わざるを得なくなってしまっていた。
「申し訳ありません‥‥‥もうこの国の財政は。
本当に、大変なのです」
ふうん、そこはほんとうなんだ。
でも、うちがそれを気にする必要はないのよね。
だって、それだけあればどこにでも行けるのだから。
父親と二人。
母上のエルフの里に逃げ込めばそこは妖精界。
人間は追って来れない。まあ、侍女役だけはしてやるか。
この時にみせた甘さが、後々に首を絞めることになるのだが。
シェリルはそのことにまだ気づいていなかった。
「では、男爵様。
大金貨二十枚。
そこに置いてお帰り下さい」
「え‥‥‥受けて頂けるのですか?
しかし、これ全部というのはあまりにもあこぎなーー」
どっちがあこぎですか。
最後は踏み倒すつもりだったくせに。
「アレクが案内します。
どうぞ、置いてお帰りを」
妖魔がのっそり、と男爵に近寄る。
彼は慌てて懐から大金貨二十枚をとりだし、それをテーブルに置いた。
「えっと‥‥‥はい、確かに二十枚。
頂きました。で、明日はどこに何時にお伺いを?」
その後、細かいやり取りをして、男爵は妖魔にくわえられ玄関まで運ばれて行った。
古城の玄関で待っていた馬車で逃げるように帰っていく
馬車の中で待機していた護衛の騎士が青ざめただけではない顔をする主人に話しかけた。
「旦那様、どうもあの妖魔になにかされたわけではないようですが?
なにか大事なものを取られたような顔をなされていますな」
と。元は外国の傭兵上がりだというその男は主人の様子を面白そうに伺っていた。
「ああ、まったく。
命か金か。
とんでもない、令嬢だ。あの御方は」
へえ‥‥‥あの虎の子を吐き出させたか。
この守銭奴に。
なかなかやる令嬢らしい、アンダーソン侯爵家の娘は。
その傭兵、ライルは面白そうに微笑んだ。
あまり見ない方がよろしいですよ。
目があうと、魂を抜かれるそうですから。
アンダーソン侯爵家の者とその客人にはそのようなことをしないように、お願いはしていますが」
「お、お願い、ですか?
命令ではなく?」
「ええ、そんな契約を交わすとそれこそ、魂をささげねばなりませんから。
共存共栄。
こちらはお願いできる範囲できいて頂き、あちらは心地よく住んでいた頂く。
そういう内容です。
ところで閣下。
いま、その懐には大金貨二十枚。
ございますね?」
は!?
なぜそれをー‥‥‥。
そんな顔を男爵はする。
やはりそうか。
この三枚舌め。
シェリルは読みが正しかったことを確信した。
「あのアレクは、真実の瞳を持っていますから。
虚偽を言うと、魂までとは言いませんが閣下。
少しばかり寿命を失う可能性はございますね?」
そう言い、アレクを見ると、妖魔はその視線を男爵に向けた。
「な、なぜそんなことを!?」
「だって閣下。
見せ金として見せるだけ見せて、あとは分割とか。
そんなお話にするおつもりだったのでしょう?
どうせ、この古城を伯爵家に貸すなど格式ある家柄に相応しくない。
なんて、爵位はく奪の内示など出されるおつもりだったのでは?」
「そ、そんなことはーー」
妖魔ににらみつけられ、男爵は真実を言わざるを得なくなってしまっていた。
「申し訳ありません‥‥‥もうこの国の財政は。
本当に、大変なのです」
ふうん、そこはほんとうなんだ。
でも、うちがそれを気にする必要はないのよね。
だって、それだけあればどこにでも行けるのだから。
父親と二人。
母上のエルフの里に逃げ込めばそこは妖精界。
人間は追って来れない。まあ、侍女役だけはしてやるか。
この時にみせた甘さが、後々に首を絞めることになるのだが。
シェリルはそのことにまだ気づいていなかった。
「では、男爵様。
大金貨二十枚。
そこに置いてお帰り下さい」
「え‥‥‥受けて頂けるのですか?
しかし、これ全部というのはあまりにもあこぎなーー」
どっちがあこぎですか。
最後は踏み倒すつもりだったくせに。
「アレクが案内します。
どうぞ、置いてお帰りを」
妖魔がのっそり、と男爵に近寄る。
彼は慌てて懐から大金貨二十枚をとりだし、それをテーブルに置いた。
「えっと‥‥‥はい、確かに二十枚。
頂きました。で、明日はどこに何時にお伺いを?」
その後、細かいやり取りをして、男爵は妖魔にくわえられ玄関まで運ばれて行った。
古城の玄関で待っていた馬車で逃げるように帰っていく
馬車の中で待機していた護衛の騎士が青ざめただけではない顔をする主人に話しかけた。
「旦那様、どうもあの妖魔になにかされたわけではないようですが?
なにか大事なものを取られたような顔をなされていますな」
と。元は外国の傭兵上がりだというその男は主人の様子を面白そうに伺っていた。
「ああ、まったく。
命か金か。
とんでもない、令嬢だ。あの御方は」
へえ‥‥‥あの虎の子を吐き出させたか。
この守銭奴に。
なかなかやる令嬢らしい、アンダーソン侯爵家の娘は。
その傭兵、ライルは面白そうに微笑んだ。
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