91 / 150
新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第十話 その2
しおりを挟む
そうねえ、エイシャの脳裏に浮かぶのはあの日。
王国の自分に与えられた子爵領へとたどり着き、馬車から馬小屋のような屋敷に荷物を数人がかりで運び込んだ時に北鹿の角師団の従僕たちも新しい主を迎えに来ていた。
その時に名乗りあって以来ではないだろうか?
「あの日ね。
わたしが、本当にこの人についていって大丈夫なのかしら。
そうぼやいてた以来でしょう?」
「そんなぼやきは忘れた!!
ちゃんと大公になっただろう?」
「なったけど、勝手に離縁されて、勝手に戻ってきた渡り鳥みたいなのもあなたですよ?」
うまい言い様をするな、妻よ。
口喧嘩で勝てるきはまったくしなかった。
「まあ、あの夜から何度も肌を合わせているのに、いっこうに抱きにこず。
こうして迫っても抱きしめて終わらせる。
女としてのプライドはもうズタズタですわね‥‥‥」
誰か適当な騎士からの求愛を受けてみようかしら?
あの書物の内容も刺激的で楽しそうですわ。
そう、菫色の瞳で睨みつけるエイシャの悪戯めいた顔もまたシルドは好きだった。
「ねえ、プロムと呼ぶなら、オーベルシュ。
あなたはどうしてそこまで責任を感じて過ごしているの?
その心の闇は、まるで銀色の鎖に縛られているみたい。
ミレイアと呼ばれた身なら‥‥‥真紅の炎ではその鎖は溶けないの?」
「その炎で焼かれたからこうしているんだけどな、僕は。
エルムンド一人に全部を任せるのは、心苦しいものもある」
王国のこれからの政務のことを言っているのだろう。
また、政治の話ですか。
エイシャのため息は重い。
「逆にあなたは用済みですわよ、旦那様。
王国は第四王子の海軍が壊滅。
なのに、国王奪還を他の海軍も陸軍も魔同師団に至るまで。
それどころか、大臣や諸貴族に至るまで大きな一枚岩が出来ている。
そんなところに二人も大きな狼がいれば、いつかは崩壊するわ」
どうせ、エルムンド様の最終目標は大元帥のその上ですもの。
あの方は下民からの成り上がり方が、気迫が違う。
「いつかは僕とエルムンド派に別れる、か。
貴族勢と文官勢になるだろうなあ。そして、あれは王になるかもしれん」
「なるかしら?
あっさりと引き下がって、ふらりとどこかに行くでしょうよ。
旧友の窮地を救いに来ないような、そんな薄情な義父上様ではないもの」
「十年後、だな。
三人、いや、あれも誰かを妻に迎えているかもしれんな。
二組の夫婦で暮らせれば、それでいい」
ふん。
そんな夢ばっかり語るんだから。
実現していくのがあなただけど‥‥‥
そんなところに惚れているのは秘密だが。
王国の自分に与えられた子爵領へとたどり着き、馬車から馬小屋のような屋敷に荷物を数人がかりで運び込んだ時に北鹿の角師団の従僕たちも新しい主を迎えに来ていた。
その時に名乗りあって以来ではないだろうか?
「あの日ね。
わたしが、本当にこの人についていって大丈夫なのかしら。
そうぼやいてた以来でしょう?」
「そんなぼやきは忘れた!!
ちゃんと大公になっただろう?」
「なったけど、勝手に離縁されて、勝手に戻ってきた渡り鳥みたいなのもあなたですよ?」
うまい言い様をするな、妻よ。
口喧嘩で勝てるきはまったくしなかった。
「まあ、あの夜から何度も肌を合わせているのに、いっこうに抱きにこず。
こうして迫っても抱きしめて終わらせる。
女としてのプライドはもうズタズタですわね‥‥‥」
誰か適当な騎士からの求愛を受けてみようかしら?
あの書物の内容も刺激的で楽しそうですわ。
そう、菫色の瞳で睨みつけるエイシャの悪戯めいた顔もまたシルドは好きだった。
「ねえ、プロムと呼ぶなら、オーベルシュ。
あなたはどうしてそこまで責任を感じて過ごしているの?
その心の闇は、まるで銀色の鎖に縛られているみたい。
ミレイアと呼ばれた身なら‥‥‥真紅の炎ではその鎖は溶けないの?」
「その炎で焼かれたからこうしているんだけどな、僕は。
エルムンド一人に全部を任せるのは、心苦しいものもある」
王国のこれからの政務のことを言っているのだろう。
また、政治の話ですか。
エイシャのため息は重い。
「逆にあなたは用済みですわよ、旦那様。
王国は第四王子の海軍が壊滅。
なのに、国王奪還を他の海軍も陸軍も魔同師団に至るまで。
それどころか、大臣や諸貴族に至るまで大きな一枚岩が出来ている。
そんなところに二人も大きな狼がいれば、いつかは崩壊するわ」
どうせ、エルムンド様の最終目標は大元帥のその上ですもの。
あの方は下民からの成り上がり方が、気迫が違う。
「いつかは僕とエルムンド派に別れる、か。
貴族勢と文官勢になるだろうなあ。そして、あれは王になるかもしれん」
「なるかしら?
あっさりと引き下がって、ふらりとどこかに行くでしょうよ。
旧友の窮地を救いに来ないような、そんな薄情な義父上様ではないもの」
「十年後、だな。
三人、いや、あれも誰かを妻に迎えているかもしれんな。
二組の夫婦で暮らせれば、それでいい」
ふん。
そんな夢ばっかり語るんだから。
実現していくのがあなただけど‥‥‥
そんなところに惚れているのは秘密だが。
0
お気に入りに追加
1,834
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
あなたが望んだ、ただそれだけ
cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。
国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。
カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。
王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。
失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。
公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。
逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。
心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる