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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~

第五話 農家の絆

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 シルドの返事は、四人には意外だったらしい。
 誰もがあの女大公の、旦那様が他の女になびけば斬れ、そんな命令を受けていたからー‥‥‥
 そう‥‥‥この旅路はある意味、シルドの死出への旅路であり。
 下手をすれば自分たち全員の最後の任務かもしれない。
 そんな不安を抱えていたからだ。
 シルドの本心を明らかにするような、そんな核心を突く質問はいくらでもあった。
 それを聞くべきかどうか。
 誰もがこの始まって間もない旅路でそれを口にする勇気は‥‥‥持ち合わせていなかった。
 そんな中に、その大公様本人からの直々のお言葉だ。

「まさか。
 僕ほどあの妻を愛している者はいませんよ、皆様」

 これには四人とも頭をかしげない訳にはいかなかった。
 なによりその苦笑はなにを意味するのか。
 女房に家を追い出された男にしてはーー
 その笑顔は少しばかり明るすぎた。

 アルム卿が困ったようにシルドに相談する。
「大公様。
 この旅路の本当の目的はなんなのですか?」
 と。
 目的?
 目的も何もー‥‥‥
「いや、それは妻が申した通り。
 各村々や城塞都市を周り、その地に根付いて生きている方々の信認を得る。
 ただ、それだけですが?」
 そのあまりにも素直すぎる返事が猜疑心を呼ぶ。
 アルム卿の隣にいた赤毛の若い騎士が名乗りをあげた。
「大公様、わたくしめはギース、と。
 ギース・イルバンと申します。
 失礼ですが、発言をする許可を頂きたくーー」
 そんな勿体ぶらなくてもなあ。
 シルドはもう少しざっくばらんにいきたかった。
「実はな、イルバン卿」
「はい、大公様」
「僕は王国では銀鎖の影という騎士団の第三師団。
 そこの師団長を務めていた。数千の部下がいてな?」
 自慢話か?
 イルバン卿はそれでも話を深く聞いて見ることにした。
「そこではこんなに堅苦しいことはーまあ、そうだな。
 あれらとは十年以上の付き合いもあったが。
 なるべく、貴族だの爵位だの。
 まあ、戦争時における階級は大事だが。
 それ以外は、平民同士のように会話をするように頼んでいたのだ」
 頼んでいた?
 騎士団の団長が?
「それは・・・・・・なぜでございますか?」
 恥ずかしい話だがな?
 シルドは実体験を話し出す。
「僕の家は侯爵家だった。
 母親は正妻でな。だが、父上は愛妾の元に入り浸り、母上の死の葬儀にしか姿を見せない。
 そんなお人だった。
 僕はその時以来、爵位だの貴族だの。
 そんなものが大嫌いになったのだ」
「しかしー‥‥‥いまは大公殿下であらせられる」
 アルム卿が無印しているとばかりに口をはさんだ。
「だから、そこなのだよ‥‥‥」
 これでは話がまったくわからない。
 辻褄が合わなさすぎる。
 自分たちは小ばかにされているのか?
 四人がそう思いだした時だ。
「妻がな‥‥‥あの晩餐会の夜に、僕の起こした失態で一時期は奴隷にまでその身を落とされた。
 それは貴公らも、知らないことは無いだろう?」
 そのシルドの問いかけに、彼らは明言はしないがおもろしくなさそうな顔をした。
 あの晩餐会での珍事は、筒抜け。
 そういう事だ。
「あの帰り道だ。 
 王国から子爵位にまで落とされた時に妻に誓わされた」
 なにか面白そうな話になってきたな?
 イルバン卿と他数名がよく聞こうと馬を寄せてきた。
「で‥‥‥なんと誓わされたのですか?」
 たまらず、イルバン卿が質問する。
「六年。
 その間は貞淑な妻であります。
 ただし、大公位に返り咲きなさい。
 出来ない時はー‥‥‥」
 ほう?
 アルム卿が声を上げる。
 これは聴きごたえがありそうだと。
「共にその命の火を消しましょう、とな。
 だから、僕は全てを捨ててここに来た。
 大公になり、妻の愛を取り戻すために」
 そこまで言い、これはかっこをつけすぎたな。
 シルドは恥ずかしそうに照れるようにする。
「ならば、その足元を我らが固めれば宜しいのですな?」
 アルム卿が全員を代表してそうシルドに問う。
「是非。手助けを願いたい。
 助けてくれるか?」
 シルドの問いに四人の騎士はおかしげに笑いながら答えた。
 もちろんでございます、我等がシルド大公様、と。
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