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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第四話 騎士の称号
しおりを挟む放逐という言葉で括られたシルドの旅立ちだが‥‥‥
彼のなかにはそれはそれで物悲しさとまだ見知らぬ土地への期待感と。
あの鬼嫁から解放された。
そんな、思いも‥‥‥少しばかりはあったのかもしれない。
それは明らかに自分たち二人も参加したユニスの十年の計。
その一員としての自覚というか、シルドの若さとしての甘えだったのかもしれない。
ただ、どこかこころの底の方で、ほっと一息入れれたのは事実だった。
シルドが乗る馬と、近習などとエイシャは言っていたがその恰好や馬術をみれば彼らが真っ当な騎士だということは見分けがついた。
ただ、普段の鎧から軽い革製の簡素な物へと装備を変え、剣も値の張るものは身につけていない。
馬すらも、老齢にいった。
のんびりと旅をするには良いが合戦向きではない。
そう言ったもので構成されていた。
自分と騎士が乗る騎馬を含め、荷物を積んだ馬が全部で六頭。
騎士が三人。そして従僕が一人。しかし、従僕は歩きでフードを被ったまま。
馬を引いてくれるのはありがたいが、フードを被ったままなのは帝国の慣習か?
さて、誰が青い狼で、誰が闇の牙で。
誰が馬術と怒涛の津波のような騎馬と槍と組み合わせた緑の風の騎士なのか。
帝国内に名だたる騎士団の面々である、最初はそう思って数時間を無言で過ごしていたがどうもその気配がない。
騎士団にはそれぞれのクセというものがある。
馬の扱い、剣の扱い一つにしてもそうだ。
しかしーー
「どうも貴卿らには‥‥‥大公軍よりの映え抜き。
そのようにしか僕の目には映らないが。
他の騎士団からの派遣ではないのか?」
これが開口一番の会話だったから、その場にいた他の四人は笑いだしてしまった。
二十歳を少し超えたシルドよりは年長。
三十代の黒髪の騎士がまず、声を上げた。
「これは失礼、大公様。
我等はつい、数か月まえまであのブルングド大公様の領地で王国と槍の穂先を交えていたハーベスト大公閣下の直属の軍。どこの騎士団の下にも所属はしておりません。
申し遅れましたが、わたしはアルム。
サーバス・アルム。とそう申します」
「これはアルム卿。
それは失礼を‥‥‥」
なるほど、それで彼らは他の精鋭の名の知れた騎士団の騎士のごとく並外れた鋭気を放っていたのか。
いつかエイシャがあの執務室で言っていたことがある。
「名の知れた騎士団の方々はそれはお強いでしょうね。
でも、旦那様?
旦那様も銀鎖の影の一師団を率いておられたことがありますでしょ?
名が高い騎士団と、常に前線で矛先を敵と交わらせていた騎士たち。
果たして、どちらが有能無能は別にして。
戦い慣れているでしょうか?」
と。
「参ったな、これは。
僕はあの妻にはどうにも‥‥‥」
一人何やら困るシルドを見て、四人は顔を見合わせた。
「失礼ですがー‥‥‥。
お仲に不和でも?」
そうアルム卿が声をかける。
今回の旅の件も、都合よく追い出されたのですか?
そんな意味合いも含んでいた。
シルドは苦笑してそれを否定する。
「まさか。
僕ほどあの妻を愛している者はいませんよ、皆様」
と。
四人はその返事に不思議そうな顔をした。
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