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第一章 婚約破棄と新たなる幸せ
第三十一話 幸福の宣告
しおりを挟むもう否定をしても仕方ない。
そう、諦めた顔のシルド様でした。
そして、彼はバカ息子から侯爵家令息としてのお顔を。
どうやら、取り戻されたようでした。
「ユニス殿。
今宵の、このシルドの婚約破棄をあなたに申し出た件。
この場にて、お詫びを申し上げたい。
あなたに死ぬ決意をさせたこと、そして帝国、ひいては大公家やご実家の伯爵家への非礼の数々。
どうか、お許し願いたい」
と、彼は一番最初に出会い、言葉を交わした時のあの顔に。
王国の武人としての顔になられていました。
「はい、シルド様。
そのお言葉を頂けて、わたしは嬉しく思います。
また、あの、ですね‥‥‥」
と、わたしはわざと、何かを言いづらそうな顔をします。
「あの、とは?
なにか?」
「はい、実は。
あの後、このテラスにて殿下にーー」
「皇太子殿下に御助けになられたのでは‥‥‥???」
と、シルド様は要領を得ないという感じになられました。
「はい、そうなのですが。
その前に、殿下に」
「皇太子殿下に?」
「はい、大公家の恥をそそぐために死を選ぶのであれば。
それ以上の地位の者が、わたしを望むことでもそれは回避できると言われまして。
そのーー」
「そ、それは、まさか‥‥‥!!???」
シルド様が信じられない、というお顔をなさいます。
「はい、イゼア皇太子殿下からお召しの下知をいただきました」
この場合のお召しの下知とは、王族・皇族が下位の貴族や平民から妻を求めることを意味します。
シルド様は殿下を少し見ていらっしゃいました。
「では、イゼア皇太子殿下。
なぜ、ユニス殿に身投げをお許しに‥‥‥!?」
と、この質問は意外でした。
まさか、ここでそのような反応をされるとはわたしは思ってなかったからです。
しかし、殿下はーー
「妻が死を選ぶなら、夫もそれにならう。
それもまた、夫婦の形ではないかな?
フレゲード侯爵子息殿」
イズバイアは平然として、こう言われました。
「それがあなたのユニス殿への、愛と、そう言われますか、殿下?」
「勿論です、子息殿」
「しかし、あなたは帝位継承を表明された身。
それをーー」
「軽率と、おっしゃるかな?」
「そうはいいませんが‥‥‥」
「一人の女性も守れずに、この広大な帝国を守るなどど。
まあ、時と場合ということもありますが。
我がエルムド家はいささか、情に走ることがありましてな。
そのために、そちらの、ルサージュ侯令息殿にはお世話をかける始末。
しかし、この婚約は伝令により、我が父、エルムド皇帝も御裁可くださいました。
どうか、ご安心を」
と、殿下はわたしのそばに歩み寄り、そっと抱きしめてそう言ってくれました。
シェイルズ様の笑顔の裏にある怒りが大きくなった気がしたことは。
殿下には言えませんでしたが‥‥‥
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