上 下
24 / 76
第一章 棄てられた死霊術師

「私怨」と期待の値幅

しおりを挟む
「悔しいじゃないのーうちから出した子たちは、神様に選ばれたのよ? 勇者はあの女神様の神殿から出てるけど――」
「神殿? 俺はこのギルドから全員出たものだとばかり‥‥‥まあ、いいか。で、ギルマスが走り回ってるってのも理解出来ないけど。何があった?」
「バクスター様は自分の子供たちを愚か者のように扱われて黙ってる人間じゃないわよ。それと、教会も動いてるって知らないの??」
「教会? さっき寄って来たけど。宣教師はもういい年齢の人だったぞ? 玄関先で挨拶程度の言葉を交わしただけだ」
「それすらも知らないのね‥‥‥いまの教会の宣教師は代替わりして、トップは三十代前の男よ」
「だが、どうして教会まで? ギルマスの好意はありがたいが‥‥‥意図がわからない」

 この大馬鹿!
 そう言い、イライアはアーチャーの頭を書類の束で二度、三度とはたいた。
 それは重さからして打撃に近かったが‥‥‥

「あなたは公人。それも、教会で一時期を過ごした関係者でしょ? 教会だってある意味あなたに期待をしていたのよ。聖女もばかよね‥‥‥二大組織を敵に回すんだから」
「まるで俺とシェニアはその二大組織の後ろ盾でこれまでやってこれた。そんな言い草だな? 誰の助けも受けてないのにな」
「あなたが知らないだけよ。みんながどれだけ期待して憧れて、それが孤児たちや黒札や‥‥‥これで魔王討伐まで行けていればうちの対応も出来たのよ!」
「対応?」

 そのあとに告げられた内容は、アーチャーには迷惑だったが‥‥‥それでも責任を少しばかり感じさせるものだった。

「そう、対応! あなたがこの国を救った英雄にでもなってくれれば、うちの子たち。黒札をつけてるあの子たちの待遇改善を要求するとことだって出来たのよ!その為にわざわざ‥‥‥経費の負担なんてしてきたのに。あなた自身が全部ぶち壊してくれるなんてね!!!」
「本当に都合がいいっていうか、あれだな。妥協で生きているようなもんだな、この総合ギルドは‥‥‥裏で駆け引きすることは否定しないけどな、イライア。せめて、教えておくべきじゃなかったか?」
「教えてたわよ! シェニアにはね‥‥‥きちんと導くように言い含めてたのに。あれだけ側で親密にしてて出来ないなんて‥‥‥あの、役立たずっ」
「はあ‥‥‥? おい、待てよ。ずいぶんな言い方だな? あいつが俺の側にいたのはその裏の事情を知っていたとしても無関係だと俺は信じてるんだがな? 恋人だったその気持ちまで、任務が関わってくる。そんな言い方じゃないか」
「かもしれないわね? 本人に聞いてみたら? 五年前にここに登録するまで、どこで何やってたか」
「イライア‥‥‥仲間だろ? 同じハイエルフじゃないのかよ? いきなりそう言いだすなんて、何考えてんだ? 常識疑うぞ??」
「うるさいわよっ! 人間同士だって、私たちよりもっとひどいじゃない。仲間なんて平気で裏切るくせに‥‥‥」

 私怨でもあるのか?
 付き合いきれん。
 アーチャーはそろそろ本題に入らないか、と切り出した。

「済まないが、俺が次にどこに行くかは聞いてるんだろ?」
「え? まあ‥‥‥それが納得いかないからみんなが動いてる――」
「いや、いいんだ。それでいい」
「はあっ!? あなた、正気なの? 魔界よ? 魔族の聖地なのよ!?」
「なあ、イライア。人間は簡単に裏切るかもしれないな? あなたの時間の中ではそうだったかもしれない。でも、俺は家族の仇を討ちたいんだ。魔王の居場所を突き止めたい。これはいい機会だと思ってる。違うかい?」
「違わない‥‥‥わね。それは合理的な判断だけど、でも、間違ってるわ。あなたの実力じゃ、力不足……魔力が足りないわよ‥‥‥」

 痛いところを突くなあ、このハイエルフ。
 本当に毒舌だよ‥‥‥
 そう冷や汗をかきながら、アーチャーはいいんだよ、と苦笑した。
 
「良くないでしょ!? わざわざ死地に行かせるなんて、そんなこと――」
「あのな、イライア。矛盾しすぎだ。俺はこの宝石を売って資金が欲しい。貴族様ってのはなんだかんだで金かかるみたいだからな‥‥‥」
「行く‥‥‥つもりなの、あなた?」
「ああ、その気だよ。でもあれだな、そうなるとシェニアにはもう少し待ってもらわないとダメだな。さすがにハイエルフは地下には来ないだろうし‥‥‥考えが甘かったか。飛空艇で南の大陸に行くにしても、俺は赤の位階以上じゃないしな‥‥‥資格がない」
「恋にぼけてる男って間抜けねー」
「ほっとけ。で、換金できるのか? その書類の補填にって取り上げだけは許して欲しいもんだが。それとも同額になる仕事を回して貰えないか??」

 出来る訳ないでしょう‥‥‥イライアは困った顔になってしまった。
 まあ、そうだろうな。
 目論見を全部壊してくれた相手に今更頼まれても、応じる訳がない。
 あなた、自尊心ってものはないの? そう言われてしまう始末だ。
 アーチャーも苦笑するしかなかった。
 そろそろ潮時だな‥‥‥もう、俺の居場所はここにはない。
 それがアーチャーの結論だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処理中です...