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プロローグ
夏の深夜のプールとは……?
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こそっと昨年まで通っていた緑ヶ丘中学校の敷地内に侵入する影が一つ。
時間は深夜の23時。
月明かりも少ない、三日月の真夏のある夜の事。
この中学校はプールが本校舎とは離れた体育館の隣にあり、その横は市の施設もあるから合間の道は公道扱いになっている。
たまーに深夜に車が通り抜けるその道を、誰にも見られないようにして忍んで歩くその影の持ち主の顔を、たまたま雲間に顔を出した三日月が照らし出す。
まだ若い十五歳。
黒髪を肩より長く伸ばし、高校では文句が出るメッシュを左隅に入れている少女。
百七十センチに近い長身、痩せ型の体型、そして‥‥‥悪戯心に溢れた悪い笑顔。
黒い夏用の薄いブカブカのパーカーに裾の短いサイズの大きめのショーパン。
白いハイカットのコンバースが唯一、明るさを出している。
腕には小ぶりな流行りのモデルの時計に、耳にはピアスがいくつか。
そして、なぜか大きめのバスタオルを一枚両肩にかけていた。
「ふっふーん。
このプールは昼間解放してるから夜は警備かかってないんだよね。
ななせ知ってるもーんっ!」
と、悪だくみを口にしながら、身長を利用して建物とプールの合間のフェンスを音もなく跳び越える。
なかなか良い運動神経をしているようだ。
「さーって、と。
今夜は雲も多いし、月明かりもない。
絶好の‥‥‥貸し切りプールじゃないですかーー!?」
さっさと下着まで脱いで、水音がしないように水面に潜り込んだ。
誰かいたら、目を覆うような全裸でプールをのんびりと征服したかのようにゆったりと回遊するその様はまるでクジラの様。
「あーやっぱりいいよね、この夜の貸し切り。
ななせだけのプール。最高じゃん。
水音だけ気を付ければばれないし‥‥‥」
などどのんきに言いながら一時間ほど、パシャパシャやってたら何となく視界に入る赤い光が二つ。
クルクル回りながら遠くの方にそれがいるのが目に入る。
「げっ‥‥‥!!?
まさかの、誰よーななせの自由時間なのに!!?」
警察なんて呼ぶなんて!!
少女は自分がしている行為がすでに違法行為であることを忘れたかのように文句を呟く。
素早く逃亡しようとする――とは言っても見つけたのはプールの真ん中。
慌てて近くの縁から舗装されたプール場の通路に上がると、駆け出して服とバスタオルを回収する。
とりあえず、簡単にバスタオルで全身を拭いて、服を着るとスニーカーを履いてたら近くまで赤い光が見えた。
「ヤッバっ!
えっとスマホに財布。
忘れ物なし、と。
よし、ななせ、逃げます!!!」
宣言するように小声で呟くと、脱走経路の確認に抜かりはない。
三年間、通いなれた中学校だ。
隣の市の施設と体育館の間に狭い、子供一人くらいが抜けれるサイズの隙間がある。
「ふっふーん。ななせ、細いからね。
ここ通れるんだ!」
自分で不法行為を働いていて、自慢してもまったく意味がない。
周囲からは洗濯板と呼んで馬鹿にされるこの身体の便利さを思い知ったか!?
そんなことを自慢げに考えながら、細道は途中から民家のブロック塀へと変わる。
「よっ。
お邪魔しました――」
この民家の老夫婦は夜はさっさと床につくのも確認済み。
大通りに出る前にバスタオルで髪を巻き巻き。
そのまま、サイズの大きいパーカーのフードをかぶれば完璧。ただし、ブラとパンツはポケットの中。
少しでも腕を挙げればあまり、同級生の男子たちは喜ぶだろうけど‥‥‥
はっきり言って、悪戯にしてはやりすぎな彼女は大通りに入り、人込みに紛れて電車に乗る。
車内は冷房が効きすぎてて、濡れたままの髪が寒気を誘う。
「うー‥‥‥ヤバっ。
ななせ、風邪ひきますよ‥‥‥」
などど文句を言いながら、スマホで友達の樹乃に迎えをお願いする。
通信アプリにはでっかいドラゴンが、涙顔のスタンプと
(お願いします、ジュノさま!!ななせにお助けを!!!)
(笑)
と、本文が書かれていて、その横には既読マークがある。
返信は可愛い猫のリボンをつけた子猫のスタンプが一つと本文が一つ。
スタンプには、
(ぬっコロ!!!)
本文には、
(あと20分で行く)
と書かれていて、今日も相棒はななせの尻拭いをさせられる羽目になる。
この問題児は、名前を秋津七星
七つの星、と書いてななせ、と呼ぶ。
まあ、自分のことを名前で呼ぶことから見ても相当のおバカなのは確かだ‥‥‥
改札にスマホをかざすと中のお財布アプリが精算を自動で行い、そこを通過して駅から外に出る。
県庁なんかもあり、大手の百貨店なんかもいくつかある市の中心部から数駅離れた田舎町。
そこに七星は住んでいる。
両親は離婚して片親だけど、もうずっと帰ってこない。
バイトしながら市の手当てを貰い、高校に通う日々。
そして、そんな彼女を駅前で待っていたのは一台のオートバイ。
古いタイプ、旧車と呼ばれそうなやつだ。
黒のタンクが印象的なそのバイクにまたがるのは、ななせと身長の変わらない少女。
黒いヘルメットを脱いで、彼女を待っていた。
「なーなせ。遅い。
なんでこんな時間に呼び出し?」
予備のヘルメットは常に後部に装備してある。
この手のかかる相棒がいつでも呼び出すからだ。
それも見計らったのように、暇な時に、そして唐突に!!
「ごめーん、樹乃。危うく捕まるとこでした。
ななせ、逃げるの頑張った!!!」
アホか、そう言って樹乃はヘルメットを放り渡した。
「樹乃、機嫌悪いーーななせ、悲しいよ?」
「あんたがあたしが暇な時狙って呼び出しばっかするからじゃん!!」
と至極当然の事を、樹乃は七星に言う。
それはそうだ。真夏とはいえもう深夜0時過ぎ。
警察などに見つかれば補導されかねない。そうなったら、高校も停学をくらう。
いくら、夏休みと言ってもこれは危険だ。樹乃にはため息しか出ない。
時間は深夜の23時。
月明かりも少ない、三日月の真夏のある夜の事。
この中学校はプールが本校舎とは離れた体育館の隣にあり、その横は市の施設もあるから合間の道は公道扱いになっている。
たまーに深夜に車が通り抜けるその道を、誰にも見られないようにして忍んで歩くその影の持ち主の顔を、たまたま雲間に顔を出した三日月が照らし出す。
まだ若い十五歳。
黒髪を肩より長く伸ばし、高校では文句が出るメッシュを左隅に入れている少女。
百七十センチに近い長身、痩せ型の体型、そして‥‥‥悪戯心に溢れた悪い笑顔。
黒い夏用の薄いブカブカのパーカーに裾の短いサイズの大きめのショーパン。
白いハイカットのコンバースが唯一、明るさを出している。
腕には小ぶりな流行りのモデルの時計に、耳にはピアスがいくつか。
そして、なぜか大きめのバスタオルを一枚両肩にかけていた。
「ふっふーん。
このプールは昼間解放してるから夜は警備かかってないんだよね。
ななせ知ってるもーんっ!」
と、悪だくみを口にしながら、身長を利用して建物とプールの合間のフェンスを音もなく跳び越える。
なかなか良い運動神経をしているようだ。
「さーって、と。
今夜は雲も多いし、月明かりもない。
絶好の‥‥‥貸し切りプールじゃないですかーー!?」
さっさと下着まで脱いで、水音がしないように水面に潜り込んだ。
誰かいたら、目を覆うような全裸でプールをのんびりと征服したかのようにゆったりと回遊するその様はまるでクジラの様。
「あーやっぱりいいよね、この夜の貸し切り。
ななせだけのプール。最高じゃん。
水音だけ気を付ければばれないし‥‥‥」
などどのんきに言いながら一時間ほど、パシャパシャやってたら何となく視界に入る赤い光が二つ。
クルクル回りながら遠くの方にそれがいるのが目に入る。
「げっ‥‥‥!!?
まさかの、誰よーななせの自由時間なのに!!?」
警察なんて呼ぶなんて!!
少女は自分がしている行為がすでに違法行為であることを忘れたかのように文句を呟く。
素早く逃亡しようとする――とは言っても見つけたのはプールの真ん中。
慌てて近くの縁から舗装されたプール場の通路に上がると、駆け出して服とバスタオルを回収する。
とりあえず、簡単にバスタオルで全身を拭いて、服を着るとスニーカーを履いてたら近くまで赤い光が見えた。
「ヤッバっ!
えっとスマホに財布。
忘れ物なし、と。
よし、ななせ、逃げます!!!」
宣言するように小声で呟くと、脱走経路の確認に抜かりはない。
三年間、通いなれた中学校だ。
隣の市の施設と体育館の間に狭い、子供一人くらいが抜けれるサイズの隙間がある。
「ふっふーん。ななせ、細いからね。
ここ通れるんだ!」
自分で不法行為を働いていて、自慢してもまったく意味がない。
周囲からは洗濯板と呼んで馬鹿にされるこの身体の便利さを思い知ったか!?
そんなことを自慢げに考えながら、細道は途中から民家のブロック塀へと変わる。
「よっ。
お邪魔しました――」
この民家の老夫婦は夜はさっさと床につくのも確認済み。
大通りに出る前にバスタオルで髪を巻き巻き。
そのまま、サイズの大きいパーカーのフードをかぶれば完璧。ただし、ブラとパンツはポケットの中。
少しでも腕を挙げればあまり、同級生の男子たちは喜ぶだろうけど‥‥‥
はっきり言って、悪戯にしてはやりすぎな彼女は大通りに入り、人込みに紛れて電車に乗る。
車内は冷房が効きすぎてて、濡れたままの髪が寒気を誘う。
「うー‥‥‥ヤバっ。
ななせ、風邪ひきますよ‥‥‥」
などど文句を言いながら、スマホで友達の樹乃に迎えをお願いする。
通信アプリにはでっかいドラゴンが、涙顔のスタンプと
(お願いします、ジュノさま!!ななせにお助けを!!!)
(笑)
と、本文が書かれていて、その横には既読マークがある。
返信は可愛い猫のリボンをつけた子猫のスタンプが一つと本文が一つ。
スタンプには、
(ぬっコロ!!!)
本文には、
(あと20分で行く)
と書かれていて、今日も相棒はななせの尻拭いをさせられる羽目になる。
この問題児は、名前を秋津七星
七つの星、と書いてななせ、と呼ぶ。
まあ、自分のことを名前で呼ぶことから見ても相当のおバカなのは確かだ‥‥‥
改札にスマホをかざすと中のお財布アプリが精算を自動で行い、そこを通過して駅から外に出る。
県庁なんかもあり、大手の百貨店なんかもいくつかある市の中心部から数駅離れた田舎町。
そこに七星は住んでいる。
両親は離婚して片親だけど、もうずっと帰ってこない。
バイトしながら市の手当てを貰い、高校に通う日々。
そして、そんな彼女を駅前で待っていたのは一台のオートバイ。
古いタイプ、旧車と呼ばれそうなやつだ。
黒のタンクが印象的なそのバイクにまたがるのは、ななせと身長の変わらない少女。
黒いヘルメットを脱いで、彼女を待っていた。
「なーなせ。遅い。
なんでこんな時間に呼び出し?」
予備のヘルメットは常に後部に装備してある。
この手のかかる相棒がいつでも呼び出すからだ。
それも見計らったのように、暇な時に、そして唐突に!!
「ごめーん、樹乃。危うく捕まるとこでした。
ななせ、逃げるの頑張った!!!」
アホか、そう言って樹乃はヘルメットを放り渡した。
「樹乃、機嫌悪いーーななせ、悲しいよ?」
「あんたがあたしが暇な時狙って呼び出しばっかするからじゃん!!」
と至極当然の事を、樹乃は七星に言う。
それはそうだ。真夏とはいえもう深夜0時過ぎ。
警察などに見つかれば補導されかねない。そうなったら、高校も停学をくらう。
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