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第三章
異質な愛の胎動 2
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かいがいしく床掃除をする佳南を見て、樹乃は遠矢の部屋からもってきたあの雑誌に見入っていた。
後ろ姿やその容姿から、似たようなM女がいないかな。
そう期待したけど似たようなのが数人。でも、どこかが違う。
「ねえ、佳南?」
「はい、御主人様!?」
身体は正直だ。
あれだけ殴られて、あんな痛みまで与えられたらそりゃ恐怖も植え付けられる。
笑顔の下に恐怖を嬉しさを半々に隠して佳南は振り返った。
「なによ、そんなパンダみたいな顔にされても嬉しいの?
もっと殴られたい?」
「あ、いえ、そのーー申し訳ございません」
なんで土下座するかなあ、そう樹乃はぼやく。
「悪いことした自覚あるの?」
ベッドの上から質問してみる。
「え、それは・・・・・・騙していましたし、嘘もたくさん。
佳南、御主人様があのガレージ? で言われたように好きな物ができたら‥‥‥はい。
言われた通りです。
佳南、気になったら追いかけて、自分の良い様に手に入れようとします。
それも、清楚っぽく、優しくして手に入れていきます‥‥‥時々、自分が被害者になって。
あれを言われた時、心の底を見られているみたいで怖かった。
もし、ゆきなのことがバレたらって。思いました」
「よくしゃべるのね?
ペラペラと。その何割が嘘?」
「そ、そんな‥‥‥」
「誤魔化してもわかるよ、樹乃だって女だし。
そっくりなの真下でもう何年も付き合いあるのが住んでるもん。
佳南は頭良いよね、樹乃や七星より悪知恵も男の騙し方もうまい。
甘え方も上手。可愛いし、お姉さんだし、時々、宿り木を見つけては飛んでいく。
樹乃はゆきなみたいに捨てるなんて言わないし、しないけど。
でも、あんたがいま震えているように暴力で染めるよ? 樹乃の色に。
それが怖いよね? 七星だってあんなになるくらいだもん。
樹乃の拳は普通の佳南と同年代の男性より、痛いと思う。
いつかは死ぬ、そんな気がしてるんじゃない?」
ほら、笑顔が引きつってる。
逃げ出したいけどできないんだよね?
誰かに依存しなきゃ自分がいなくなるから。
「まあ、せっかく手に入れたおもちゃだし。
死ぬまで手放す気はないけど。
その前を繋いだのだって男寄せ付けないようにする為だし。
出来るの? 全部自分で孤独に用意して待てるの?
誰にも抱かれないで?」
「で、でき、ます‥‥‥やれます!!
佳南だって、御主人様に認められたい‥‥‥」
「あーそうなんだ。
御主人様って、誰?」
「え‥‥‥樹乃様です、けど」
ぽかんとした顔で佳南は返事をする。
天然なのかな?
「ねえ、佳南ってバカだよね、とか抜けてるとか言われること多くない?
友達とかから」
「それはーー」
あ、あるんだ。
七星の別バージョン的なやつか。なるほど。
樹乃は何となく納得した。
「それどれくらいで終わるの?」
「あ、すいません、もうすぐ。
どこに捨ててくれば?」
「いやーまだ下に家族いるから。
だから天然、か‥‥‥真正面の扉。トイレだからそこに捨ててきて」
「あ、はい‥‥‥」
恋愛バカの脳が変態になったやつだな、あれは。
樹乃はそう納得した。
「佳南、こいこい」
バケツなどをしまったのだろう。戻ってきたメス豚を呼び寄せる。
あーあ、首輪までしてそんなに嬉しそうに‥‥‥マジモノ恐るべし。
樹乃はため息をつきながら、正面立って、手は頭の後ろ、足、肩幅に開いて?
そう指示を出す。
「あー‥‥‥少し腫れてる。
あれだけピアスしてたんだし、処理の仕方はわかる?」
いじられて何感じてんだろ‥‥‥気持ちよさそうな顔するなよ佳南。
呆れながら、アルコール入りのウエットティッシュで拭いて化膿止めをさらに塗り込んでやる。
別の液で、また雑菌入らないといいんだけど。
そんなことを思いながら、ベッドの上から立ち上がると、部屋の椅子を引き寄せてそこに樹乃は席を移した。
「よっと」
「え、凄い‥‥‥」
軽々と佳南を持ちあげると、膝の上に座らせる。
「ご、御主人様!?」
「なによ?
不満?」
「ち、違います、こんなこと、メス豚にしたら‥‥‥」
「前の御主人様はしてくれなかったんだ?
樹乃はしたいからするの。
文句ある?」
佳南は顔を赤らめて首を振る。
「佳南、可愛い。
おいでー‥‥‥」
樹乃は佳南をそっと、抱きしめてやる。
あーらら、こりゃ自分から行っても都合よく捨てられる‥‥‥?
本当にそうか? 樹乃の中に生まれた不信感。
まさか、佳南が全部の黒幕?
うーん? こんな目に遭ってまで?
「で、メス豚。
何歳から調教してきたんだっけ?」
「あ、え?
なんですか、それ‥‥‥???」
「だって、佳南が全部の黒幕でしょ?」
「いえ、それは誤解すぎです、本当に‥‥‥」
「またまたあ。
じゃあ、もう一回バーナーのとこ行こうか?」
「うそ!?
そんなひどいっー‥‥‥でも、それが御主人様がされたいなら。
はい‥‥‥」
「ねえ、どれが本当なの?
なんで遠矢に固執してるのか、それだけ知りたい」
佳南はかなりの間、無言だった。
数分? いや十五分くらい?
樹乃がそろそろ飽きたなあと思いながら、それでも待つことにした。
もう、意味のない知恵比べしても佳南には勝てない。
佳南は力では樹乃に勝てない。それに樹乃は適当に嘘で塗り固めてもさっさと剥いでしまう。
そして、ここから無事に帰れる可能性は‥‥‥佳南の中では相当、低かった。
「正直に申し上げたら、そのーー」
「何もしない。でも」
「はい?」
「側にいたいなら、いていいよ。
好きなだけ」
「-‥‥‥捨てませんか?」
「捨てない。どうせ、捨てても戻ってくるでしょ?
違う?」
あんたの目、七星にそっくりなんだもん。
あの日の、全部を無くして、消えようとしたあの子に。
樹乃の目を見て、佳南はようやく決意したらしい。
ぽつりぽつりと話し出した。
「あの、高校を出てから大学に来る間に‥‥‥御主人様に出会ったのは本当です。
あの当時は、出会い系アプリで会って食事するだけでお金くれる人がたくさんいたから。
それ狙いで会いました。でも、その趣味を聞いて興味が湧いて、その。
佳南はさっきの通り、性欲と服従っていうか。犬になりたいって。
考えなくてもいい、可愛がれる犬になりたくて。
でも、その人にはたくさん、奴隷がいました。その内の一人が、ゆきなです。
ゆきなに調教されて来い、まともな奴隷になれれば抱いてやる。
そう言われて、もう三年‥‥‥こんな身体になって、言われました」
「何て?」
「もう、Yukina Slaveってタトゥー入れたんなら、要らないなって」
「そっか、で、そこから出てくるのが、この子?」
そう言い、樹乃は秋穂の例の雑誌を見せる。
見ていて、ふと気づいたのだ。
佳南は載っていない。でも、さっきのゆきなは? と。
名前そのままで掲載されて喜んでいる目線入りの二十代後半の女性。
ある意味、それは滑稽な光景だった。
「はい‥‥‥なんでその子だけそんな特別なんだろって。
聞いたら‥‥‥」
憐れだから? 違う。
若いから? 違う。
可愛いから? 違う。
心の闇が多きいからだ。たぶん。
樹乃はそんな気がした。あとは、実家のことも。
「で、なんて?
教えてくれなかったんじゃない?」
「え、なんでそれを??」
「知りたければ、遠矢と友紀に近づいて?」
佳南は涙を流しながらうなづいた。
「でも、その身体じゃ抱かれたくてもできないし、
心は壊れて行くし。いきなり、御主人様は逮捕されるし?」
「はい、それで、御主人様というかその人が捕まって、原因があの遠矢さんで‥‥‥」
「じゃあ、なんであの後も近付いてきたの?」
佳南は返事をする代わりに、マジックで塗りつぶされたタトゥーをそっと触った。
なるほど。
わかりやすい。
かたき討ちしたかった、か。
「それは、ゆきなの指示?
それとも、佳南の嫉妬から言い出したの?」
「いえ、でもある意味は、当たってます‥‥‥」
「半々だった、か。
で、あたしにーー本当に堕ちたの?」
黙り込む佳南。
またしばらくの沈黙が続く。
何をはかってるのかな?
「警察でも待ってるの?」
佳南がピクリと反応する。
うん?
ゆきなが通報した? あの画像があればそれもできるねー。
でも来ないけど。だって、兄貴がもう呼んでるもん。
「来ないよ?
それより、兄貴が下に刑事さん呼んでるけど。どうする?
ゆきなを売る? それとも黙って帰る?」
あれ?
反応が違う。なにか間違えたかな?
お、こっち向いた。なに怒ってんだろ?
そう樹乃が思った時だ。
「違います!!」
メス豚らしからぬ、強い声で否定してきた。
これは本気らしい。そう樹乃は思った。
「なにが違うの?」
平然として返事をするが、それは落ち着いている、ではなくて足がしびれだしたから‥‥‥
「佳南はもうゆきなを捨てたの!
いまは樹乃が御主人様なの。殴りたいならどうぞ?
死ぬまで殴ってよ‥‥‥もう、裏切りなんてしないって決めたの。
こんな居場所なんて、これまで知らなかったーー」
いやーそう抱き着かれても、樹乃さん困るんですけど。
適当に追い返すつもりだったのに。これ、帰らないやつじゃん。
樹乃は七星の一言を思い出した。
これ、フラグ立つ奴だ。
あいつ、どこかである程度知ってて逃げたな‥‥‥
そんな確信めいた気がしていた。
「あ、あの、御主人様‥‥‥下に刑事さんがいるって。
本当?」
逮捕されるのかと思っているらしい。
でも、樹乃は嘘はつかない。
「うん、本当。
でも、この前の事件の経過報告だけど。
ゆきなが来たら面白かったのにね?
樹乃はせっかく出来た、メス豚、まだ売る気はないよ?
売るなら、そうねーこの大きい胸、ばら肉にしてからかなー???」
自分はBなのに佳南はスタイルが良すぎる。倍以上あるくせに、この細さ。
ムンズっと思いっきり掴み合げてやる。
「いや、痛いっです‥‥‥」
「半分、樹乃に寄越せ、この胸ーー」
「そんな、無茶な‥‥‥」
「まあ、いいや。
じゃあ、今回の件は半分ゆきな、半分あんたなのね?」
佳南は素直にはい、と答えた。
まあ、嘘はついてなさそうだ。
あのガレージの件とかいろいろあるけど。まあ、不問にしてもらおう。
「で、ゆきなはどこ?」
「へ?
なんでですか?」
「あんた、まだ利用されたいの?」
佳南は悲しそうに俯く。
よしよしと撫でてやりながら、そのお腹のマジックをアルコールウエットティッシュで拭いてやった。
「あと腐れないようにしてきたら?
下に刑事さんいるよ?
被害者ですって、言ってみる?」
まあ、そうなったら樹乃も捕まるけど。
それは秘密にしておくことにした。
しかし、佳南はフルフルと首を横に振る。
「なんで?」
「あの画像、ゆきなに回ってるし、ガレージの件もそうなると話さないといけないし。
佳南がなんでこんなにボコボコにされたかも、言わないといけませんよ、御主人様?」
「なんか、いやーな笑顔するんだね、あんた。
そうゆうとこ秋穂とそっくり」
「あんな出来損ないと一緒にしないでください。
主を売るような真似はしません。売られないたり、捨てられない限りは、ね、樹乃様??」
あー嫌な悪魔みたいな笑顔するとこまでそっくり。
本当に苦手。
「い、いたいっ」
「まだメス豚の自覚ないみたいだから。
後ろの穴なら、腕も入るかなーーー???」
「いい!?
あのパイプだけで、許して、下さい‥‥‥」
「気持ち良かったんでしょ?」
恥ずかしそうにうなづく佳南。
「なら、後ろだけいじめてあげる。
というか、それ専門に躾けられたんでしょ?」
あーあ。顔が真っ赤。
この辺りは七星よりわかりやすい。
「とりあえず、お風呂入りにいかない?
あと、秋穂と面識あるの?」
これにはフルフルと首を振る。
「ふうん、じゃあ、よっと」
「え、あ、ちょ!?
高いところ、怖い‥‥‥」
そんなとこも七星そっくり。
「はい、行くよー」
「でも服、服は!?」
「二階にも風呂あんのよ、うちは」
たっぷり可愛がってやる‥‥‥
ドSに目覚めそう。はあ。
佳南を担ぎ上げて、べとべとになった髪を早く洗いたい。
そう思う樹乃だった。
後ろ姿やその容姿から、似たようなM女がいないかな。
そう期待したけど似たようなのが数人。でも、どこかが違う。
「ねえ、佳南?」
「はい、御主人様!?」
身体は正直だ。
あれだけ殴られて、あんな痛みまで与えられたらそりゃ恐怖も植え付けられる。
笑顔の下に恐怖を嬉しさを半々に隠して佳南は振り返った。
「なによ、そんなパンダみたいな顔にされても嬉しいの?
もっと殴られたい?」
「あ、いえ、そのーー申し訳ございません」
なんで土下座するかなあ、そう樹乃はぼやく。
「悪いことした自覚あるの?」
ベッドの上から質問してみる。
「え、それは・・・・・・騙していましたし、嘘もたくさん。
佳南、御主人様があのガレージ? で言われたように好きな物ができたら‥‥‥はい。
言われた通りです。
佳南、気になったら追いかけて、自分の良い様に手に入れようとします。
それも、清楚っぽく、優しくして手に入れていきます‥‥‥時々、自分が被害者になって。
あれを言われた時、心の底を見られているみたいで怖かった。
もし、ゆきなのことがバレたらって。思いました」
「よくしゃべるのね?
ペラペラと。その何割が嘘?」
「そ、そんな‥‥‥」
「誤魔化してもわかるよ、樹乃だって女だし。
そっくりなの真下でもう何年も付き合いあるのが住んでるもん。
佳南は頭良いよね、樹乃や七星より悪知恵も男の騙し方もうまい。
甘え方も上手。可愛いし、お姉さんだし、時々、宿り木を見つけては飛んでいく。
樹乃はゆきなみたいに捨てるなんて言わないし、しないけど。
でも、あんたがいま震えているように暴力で染めるよ? 樹乃の色に。
それが怖いよね? 七星だってあんなになるくらいだもん。
樹乃の拳は普通の佳南と同年代の男性より、痛いと思う。
いつかは死ぬ、そんな気がしてるんじゃない?」
ほら、笑顔が引きつってる。
逃げ出したいけどできないんだよね?
誰かに依存しなきゃ自分がいなくなるから。
「まあ、せっかく手に入れたおもちゃだし。
死ぬまで手放す気はないけど。
その前を繋いだのだって男寄せ付けないようにする為だし。
出来るの? 全部自分で孤独に用意して待てるの?
誰にも抱かれないで?」
「で、でき、ます‥‥‥やれます!!
佳南だって、御主人様に認められたい‥‥‥」
「あーそうなんだ。
御主人様って、誰?」
「え‥‥‥樹乃様です、けど」
ぽかんとした顔で佳南は返事をする。
天然なのかな?
「ねえ、佳南ってバカだよね、とか抜けてるとか言われること多くない?
友達とかから」
「それはーー」
あ、あるんだ。
七星の別バージョン的なやつか。なるほど。
樹乃は何となく納得した。
「それどれくらいで終わるの?」
「あ、すいません、もうすぐ。
どこに捨ててくれば?」
「いやーまだ下に家族いるから。
だから天然、か‥‥‥真正面の扉。トイレだからそこに捨ててきて」
「あ、はい‥‥‥」
恋愛バカの脳が変態になったやつだな、あれは。
樹乃はそう納得した。
「佳南、こいこい」
バケツなどをしまったのだろう。戻ってきたメス豚を呼び寄せる。
あーあ、首輪までしてそんなに嬉しそうに‥‥‥マジモノ恐るべし。
樹乃はため息をつきながら、正面立って、手は頭の後ろ、足、肩幅に開いて?
そう指示を出す。
「あー‥‥‥少し腫れてる。
あれだけピアスしてたんだし、処理の仕方はわかる?」
いじられて何感じてんだろ‥‥‥気持ちよさそうな顔するなよ佳南。
呆れながら、アルコール入りのウエットティッシュで拭いて化膿止めをさらに塗り込んでやる。
別の液で、また雑菌入らないといいんだけど。
そんなことを思いながら、ベッドの上から立ち上がると、部屋の椅子を引き寄せてそこに樹乃は席を移した。
「よっと」
「え、凄い‥‥‥」
軽々と佳南を持ちあげると、膝の上に座らせる。
「ご、御主人様!?」
「なによ?
不満?」
「ち、違います、こんなこと、メス豚にしたら‥‥‥」
「前の御主人様はしてくれなかったんだ?
樹乃はしたいからするの。
文句ある?」
佳南は顔を赤らめて首を振る。
「佳南、可愛い。
おいでー‥‥‥」
樹乃は佳南をそっと、抱きしめてやる。
あーらら、こりゃ自分から行っても都合よく捨てられる‥‥‥?
本当にそうか? 樹乃の中に生まれた不信感。
まさか、佳南が全部の黒幕?
うーん? こんな目に遭ってまで?
「で、メス豚。
何歳から調教してきたんだっけ?」
「あ、え?
なんですか、それ‥‥‥???」
「だって、佳南が全部の黒幕でしょ?」
「いえ、それは誤解すぎです、本当に‥‥‥」
「またまたあ。
じゃあ、もう一回バーナーのとこ行こうか?」
「うそ!?
そんなひどいっー‥‥‥でも、それが御主人様がされたいなら。
はい‥‥‥」
「ねえ、どれが本当なの?
なんで遠矢に固執してるのか、それだけ知りたい」
佳南はかなりの間、無言だった。
数分? いや十五分くらい?
樹乃がそろそろ飽きたなあと思いながら、それでも待つことにした。
もう、意味のない知恵比べしても佳南には勝てない。
佳南は力では樹乃に勝てない。それに樹乃は適当に嘘で塗り固めてもさっさと剥いでしまう。
そして、ここから無事に帰れる可能性は‥‥‥佳南の中では相当、低かった。
「正直に申し上げたら、そのーー」
「何もしない。でも」
「はい?」
「側にいたいなら、いていいよ。
好きなだけ」
「-‥‥‥捨てませんか?」
「捨てない。どうせ、捨てても戻ってくるでしょ?
違う?」
あんたの目、七星にそっくりなんだもん。
あの日の、全部を無くして、消えようとしたあの子に。
樹乃の目を見て、佳南はようやく決意したらしい。
ぽつりぽつりと話し出した。
「あの、高校を出てから大学に来る間に‥‥‥御主人様に出会ったのは本当です。
あの当時は、出会い系アプリで会って食事するだけでお金くれる人がたくさんいたから。
それ狙いで会いました。でも、その趣味を聞いて興味が湧いて、その。
佳南はさっきの通り、性欲と服従っていうか。犬になりたいって。
考えなくてもいい、可愛がれる犬になりたくて。
でも、その人にはたくさん、奴隷がいました。その内の一人が、ゆきなです。
ゆきなに調教されて来い、まともな奴隷になれれば抱いてやる。
そう言われて、もう三年‥‥‥こんな身体になって、言われました」
「何て?」
「もう、Yukina Slaveってタトゥー入れたんなら、要らないなって」
「そっか、で、そこから出てくるのが、この子?」
そう言い、樹乃は秋穂の例の雑誌を見せる。
見ていて、ふと気づいたのだ。
佳南は載っていない。でも、さっきのゆきなは? と。
名前そのままで掲載されて喜んでいる目線入りの二十代後半の女性。
ある意味、それは滑稽な光景だった。
「はい‥‥‥なんでその子だけそんな特別なんだろって。
聞いたら‥‥‥」
憐れだから? 違う。
若いから? 違う。
可愛いから? 違う。
心の闇が多きいからだ。たぶん。
樹乃はそんな気がした。あとは、実家のことも。
「で、なんて?
教えてくれなかったんじゃない?」
「え、なんでそれを??」
「知りたければ、遠矢と友紀に近づいて?」
佳南は涙を流しながらうなづいた。
「でも、その身体じゃ抱かれたくてもできないし、
心は壊れて行くし。いきなり、御主人様は逮捕されるし?」
「はい、それで、御主人様というかその人が捕まって、原因があの遠矢さんで‥‥‥」
「じゃあ、なんであの後も近付いてきたの?」
佳南は返事をする代わりに、マジックで塗りつぶされたタトゥーをそっと触った。
なるほど。
わかりやすい。
かたき討ちしたかった、か。
「それは、ゆきなの指示?
それとも、佳南の嫉妬から言い出したの?」
「いえ、でもある意味は、当たってます‥‥‥」
「半々だった、か。
で、あたしにーー本当に堕ちたの?」
黙り込む佳南。
またしばらくの沈黙が続く。
何をはかってるのかな?
「警察でも待ってるの?」
佳南がピクリと反応する。
うん?
ゆきなが通報した? あの画像があればそれもできるねー。
でも来ないけど。だって、兄貴がもう呼んでるもん。
「来ないよ?
それより、兄貴が下に刑事さん呼んでるけど。どうする?
ゆきなを売る? それとも黙って帰る?」
あれ?
反応が違う。なにか間違えたかな?
お、こっち向いた。なに怒ってんだろ?
そう樹乃が思った時だ。
「違います!!」
メス豚らしからぬ、強い声で否定してきた。
これは本気らしい。そう樹乃は思った。
「なにが違うの?」
平然として返事をするが、それは落ち着いている、ではなくて足がしびれだしたから‥‥‥
「佳南はもうゆきなを捨てたの!
いまは樹乃が御主人様なの。殴りたいならどうぞ?
死ぬまで殴ってよ‥‥‥もう、裏切りなんてしないって決めたの。
こんな居場所なんて、これまで知らなかったーー」
いやーそう抱き着かれても、樹乃さん困るんですけど。
適当に追い返すつもりだったのに。これ、帰らないやつじゃん。
樹乃は七星の一言を思い出した。
これ、フラグ立つ奴だ。
あいつ、どこかである程度知ってて逃げたな‥‥‥
そんな確信めいた気がしていた。
「あ、あの、御主人様‥‥‥下に刑事さんがいるって。
本当?」
逮捕されるのかと思っているらしい。
でも、樹乃は嘘はつかない。
「うん、本当。
でも、この前の事件の経過報告だけど。
ゆきなが来たら面白かったのにね?
樹乃はせっかく出来た、メス豚、まだ売る気はないよ?
売るなら、そうねーこの大きい胸、ばら肉にしてからかなー???」
自分はBなのに佳南はスタイルが良すぎる。倍以上あるくせに、この細さ。
ムンズっと思いっきり掴み合げてやる。
「いや、痛いっです‥‥‥」
「半分、樹乃に寄越せ、この胸ーー」
「そんな、無茶な‥‥‥」
「まあ、いいや。
じゃあ、今回の件は半分ゆきな、半分あんたなのね?」
佳南は素直にはい、と答えた。
まあ、嘘はついてなさそうだ。
あのガレージの件とかいろいろあるけど。まあ、不問にしてもらおう。
「で、ゆきなはどこ?」
「へ?
なんでですか?」
「あんた、まだ利用されたいの?」
佳南は悲しそうに俯く。
よしよしと撫でてやりながら、そのお腹のマジックをアルコールウエットティッシュで拭いてやった。
「あと腐れないようにしてきたら?
下に刑事さんいるよ?
被害者ですって、言ってみる?」
まあ、そうなったら樹乃も捕まるけど。
それは秘密にしておくことにした。
しかし、佳南はフルフルと首を横に振る。
「なんで?」
「あの画像、ゆきなに回ってるし、ガレージの件もそうなると話さないといけないし。
佳南がなんでこんなにボコボコにされたかも、言わないといけませんよ、御主人様?」
「なんか、いやーな笑顔するんだね、あんた。
そうゆうとこ秋穂とそっくり」
「あんな出来損ないと一緒にしないでください。
主を売るような真似はしません。売られないたり、捨てられない限りは、ね、樹乃様??」
あー嫌な悪魔みたいな笑顔するとこまでそっくり。
本当に苦手。
「い、いたいっ」
「まだメス豚の自覚ないみたいだから。
後ろの穴なら、腕も入るかなーーー???」
「いい!?
あのパイプだけで、許して、下さい‥‥‥」
「気持ち良かったんでしょ?」
恥ずかしそうにうなづく佳南。
「なら、後ろだけいじめてあげる。
というか、それ専門に躾けられたんでしょ?」
あーあ。顔が真っ赤。
この辺りは七星よりわかりやすい。
「とりあえず、お風呂入りにいかない?
あと、秋穂と面識あるの?」
これにはフルフルと首を振る。
「ふうん、じゃあ、よっと」
「え、あ、ちょ!?
高いところ、怖い‥‥‥」
そんなとこも七星そっくり。
「はい、行くよー」
「でも服、服は!?」
「二階にも風呂あんのよ、うちは」
たっぷり可愛がってやる‥‥‥
ドSに目覚めそう。はあ。
佳南を担ぎ上げて、べとべとになった髪を早く洗いたい。
そう思う樹乃だった。
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