伝説の湖畔の塔と三匹のエルフたち

星ふくろう

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第二話 ハッシュバルの森

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「おや、さっきの物騒な嬢ちゃんじゃないか。
 また遊んで欲しいのかい?」
 と軽口を叩いてやると、リザと呼ばれた少女は悔しそうな顔をする。
「まあ、そういじめないでやって下さいよ。
 こいつは、暗殺にかけてはうちでもそれなりの腕なんでね」
 暗殺?
「こんな小さな子を仕込むとはね……。呆れたもんだ」
「いえ、それはっ」
 声を上げる少女をロッソは片手で制する。
「いや、こいつはうちが買い上げたものでね、まあ仕込まれたのは別のとこですが」
 ああ、そういう事か。
 アリシアは理解する。
「ロッソの旦那が助けた、という訳かい?
 まあ、男の子にしては軽すぎたけどさあ」
 お?
 とロッソが驚いた顔をする。
「そこまで見抜かれてましたか」
「まあ、持てばねえ。
 ある程度は分かるもんさ。骨だの体格だのでね」
「さすがですね、まあ一杯」
 と勧めてくるグラスをあおると、アリシアはどうにも話がつかめないとロッソに言う。
「なんでこの子なんだい?
 なにかの試験かい?
 そんなに腕が立つか立たないかを選ぶほど、お高く止まるところなら、こちらから願い下げなんだがねえ」
 と、ロッソを睨んでやる。
 ロッソは嬉しそうに笑った。
「‥‥‥?」
 アリシアには理由が分からない。
「三日前ね。
 アリシアさんと同じダークエルフがね、漂着したんですよ。
 このラハールにね。いやもう、酷い有様だった」
「ダークエルフ?」
 アリシアは眉をひそめた。
 川上にあるのは、ハイエルフの国々だ。
「奴隷が逃げ出したってことかい?」
「そうかもしれませんね。
 まあ、会った方が早い」
 会った方が早い?
 どういう意味だ?
「ここにいるのかい?
 酷い状態だというのなら、もう死んでたんじゃないのかい?」
 いえいえ、とロッソは首を横にふる。
「まだ、息はあるんですよ。
 河の流れでいろいろとぶつけられて怪我も酷い。だが、死ぬ傷じゃあない。
 ただー」
 そこでロッソはくちごもる。
「あれは、まともなヤツのやることじゃない」
「つまりー」
 アリシアは頭の中で整理をする。
「あたしがそのダークエルフの復讐か取り戻しに来たと、力づくで。
 そう勘違いをした、という事かい?」
 同じ、ダークエルフだから?、と。
「そういうことでさ」
「残念ながら、それは大した見当違いだよ、旦那。
 あたしがここに来たのは、今日のつい数時間前なんだよ?
 そんなダークエルフの噂すら、耳にしてないやね」
「そうですかい……。
 まあ、噂になるようにはしてないんでね」
 噂になるようにはしてない?
「どういうことだい?」
「引き上げたのが、たまたま内に出入りしてる魚屋でね。
 まあ、うちは守ってる側なんですよ。あんな惨状ではね……」
 どうにも話が掴めない。
「まあ、見せて貰おうかね、そのダークエルフとやらにー」
 とりあえず話はそれからだ、とアリシアは席を立った。


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