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第二話 ハッシュバルの森
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しおりを挟む「姐さん、旦那さんがこちらへ、と」
代金をカウンターにおいて、アリシアは少女と共に二階の奥へと案内された。
「どうぞ」
そう言われ、少女が左側に引いた扉をくぐろうとした時に視界の左下から何かがはしる。
「おやおや」
アリシアは刀をとっさに逆向きに鞘から引き上げて、刀身でそれを受けとめた。
「ここじゃあ、客に対して不意打ちを向けるのが礼儀なのかい?」
刀の持ち手を離し、素早く少女の手首を取ると、まるで魔法のように彼女の身体が宙を回転して床に背中から落とされる形になる。
ふわり、と力を抜いてアリシアは少女を引き上げてやるが、少女は何が起こったかを理解できないでいるようだった。
「いいかい、次にやれば。
理解したね?」
その笑顔が肉食獣のー、そう、自分がどう頑張ってもかなわないものだと理解して少女は顔を引きつらせる。
「で、旦那。
この子は、斬ってもいいのかい?」
まだ鞘に収まりきってない刃の部分に少女の首筋を押し当てる。
すくなくとも、傍目からはアリシアがそうさせたのではなく、少女が自分からその行動を取ったように見えたはずだ。
「いやいや、待ってくれ。
アリシアさん。
その子に命じたのは俺だ。
許してやってくれ」
部屋の奥で、先ほどまでの獣人たちよりも一際体格が大きい黒い虎人が静かに座っていた。
「そうかい。
なら、あんたは帰んな」
と、少女を通路側へ追いやり、アリシアは静かに虎人の前に立った。
「まあ、座ってくださいよ」
とロッソという名だと聞いていた虎人は勧める。
「今度は床から剣が出てくる、とかは無しだよ、旦那?」
「こいつは参りましたね」
ははは、と苦笑いをしながらロッソは自分の帯剣していた武器をテーブルに置いた。
向かい合うイスにアリシアは座る。
「で、旦那。
なんであんな真似を?」
ロッソはニヤリと笑い、アリシアが持ってきた酒とグラスを二つ。テーブルに置く。
「いえね、姐さん。
ここはラハールだ。
裏の世界じゃ奴隷市もあれば誘拐を生業にしてる連中もいる」
「で?
あんたもその片棒を担いでいる、と?」
ロッソはグラスに酒を注ぎながら言う。
「逆でさ。
こちとら、お上から頂いてる仕事の派遣所だ。
いかに裏の仕事を回すとはいえ、ね?
それはできませんやな」
「ああ、そういえば。
ここはあれだったね、奴隷禁止に参加してるんだったっけ?」
「そうそう」
ふうん、と怪しげにロッソを見るアリシア。
「なら尚更、あたしを狙う理由はないだろ?」
つまり、ロッソに復讐をしに来たのかと思ったのか?
そう聞いているのだ。
「いえいえ、逆でさ」
「逆?
旦那が奴隷商に誰かを売り飛ばしてその復讐を、あたしがしに来た。
そんな目算じゃなかったのかい?」
全然違いますよ、とロッソはため息をつく。
「おい、リザ。
入ってこい」
リザ?
後ろを見ると、ついさっきアリシアにいいように扱われた少女がいた。
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