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第二話 ハッシュバルの森
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しおりを挟むこのプライバルという名前の大陸は東西に広く、南北に大きな山脈が控えた扇形の地形になっている。
海岸線から山脈部分への平野部が中央は広く、裾野に近い辺境にいけば少なくなる形状だ。
大陸は中央に砂漠地帯が広がって家、東西を隔ててそれぞれの地域に独自の文化をそだてる素養になっていた。
高山地帯も並走するこの奥に、ハイエルフたちの国々が広がる大森林が広がっている。
東の裾野には密林が広がり、そこは肌の色が褐色から黒に近いダークエルフが。
西の裾野には黄色に近い肌のグレイエルフがいる。
最奥の高山地帯には魔族の帝国やドワーフ族の王国ある。
彼らが資源の元になる鉱物を数千年に渡って掘り進めた坑道が幾万もの迷宮になっている。
平野部分が少ないから運河も少なくない。
つまり、大陸は幾つかの運河によって分断されていて、それぞれが独自の文明・文化を熟成してしてきたといっていい。
プライバル以外にも6つの大陸が周辺には広がっているが、大掛かりな交易はグレイエルフか人間族たちの領分だ。
グレイエルフは流浪の民と言われていて、光と闇の神々の相の子と称されるほどにどちらにも似ていない。
肌の色で、という意味でだが。
黄色人種に近い肌をもち、黒から赤に近い髪を持つ。
瞳の色も似たようなものだ。
彼らは二大陣営のどちらにも属さず、故郷をもたない旅の民として数千年の歴史を大陸中を彷徨い、交易を主体とした独自のネットワーク作り上げた。
神を奉じず、実存主義と呼ばれる実験と検証、数字などの形に残る物。
そしてその裏にある、生きること、自身が存在することへの証明。
つまり、自分の力で生きること。
それが彼らの信念であり、行動原理だ。
ハイエルフは少し理解に悩む相手だ。
彼らは神秘主義者だ。金色の髪と、緑の瞳を持ち、陶磁器のように白い肌をもつ。
光の神を信じていて(エルフはどの種族も千年単位で生きる)。
死ねばどこかに永遠の幸せを与えられる国に行けると信じている。
最高神は光の神であり、その代理人である大司教は神のこの世における全権委任者だと信じている。
それに従って生きている。ダークエルフ・グレイエルフは下位の種族で、ドワーフや人間族もその枠内だ。
各種族を奴隷とすることをおかしいと考えない。
むしろ、多くの奴隷を持つことは資産であり、資産は権力の象徴だ。
だから彼らは隣国に戦争をしかけ、奴隷を獲得する。
そうやって高山地帯にあるドワーフの国々と長い争いを繰り広げてきた。
彼らにとっては世界の真理を知ることは禁忌であり、数学や哲学は嫌悪の対象だ。
無論、想像を掻き立てる創作や誌を論じることも嫌われている。
なぜなら、神は光であって、形ではないからだ。
絵に描くことも、言葉に残すことも許されない。
神が伝えたとされる「光の論」と呼ばれる宗教のが全てだ。
同じ文化を継承し、同じ料理を食べ、同じ土地を持つ。
光の神の教えを伝えるために戦争をし、奴隷を多く持つ。
それが、ハイエルフの常識だった。
ダークエルフは暗黒神の末裔だと言われてきた。
美しい黒い肌に暗い髪に青い瞳を持つ。
はるかな過去には豊富な金鉱脈の土地を持ち、大陸の半分を支配したとも言われた。
その文明は現代には残っていない数学や天文学、鉱物の加工技術などを誇りーー
はるかな第六大陸にまで到達するほどの航海術を残したと言われている。
残念ながら現在は密林と砂漠に守られた一部の土地に追いやられた少数民族だ。
彼らは黒曜の宝石とも呼ばれ、ハイエルフの貴族の間では高額で売買される。
しかし、ハイエルフや人間族の奴隷商の多くはその捕獲に失敗しているようだ。
ダークエルフは現代では希少な世界を操る法則を伝承すると言われている。
それは魔法と呼ばれたり、奇跡と呼ばれたりするものだ。
ハイエルフの一部の高位司祭や、グレイエルフが伝える治癒術。
ドワーフやコボルトが使う土の精霊との対話術など。そういった類の特殊な魔術を使うと言われている。
だが、ハイエルフの奴隷狩りが多く行われている昨今では‥‥‥
彼らが自治領から外で出てくることはとても少ないし、それ以外の場で見かけることも殆どない。
秘密の多い種族。
この大陸ではそう呼ばれていた。
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