伝説の湖畔の塔と三匹のエルフたち

星ふくろう

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沙雪が消えた夜

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「例えば、満月の夜があるだろ?
 で、新月の夜もあるだろ?」
「うーん?」
「それらは定期的にくるだろ?」
「まあ、確かに」
「でも、次の世界と地球がいつ繋がるかはわからない。
 でも、必ず迎えに行く」
 必ず。
 その言葉の裏づけはどこにあるのだろう?
 沙雪は不安になる。
「でも、さきはブーちゃんのこと知らないよ?
 信じろって言われても……」
 ああ、確かにそうだ。
 たった今あったばかりの、こんな存在の言う事なんて誰が信じるだろうか。
 久遠なら……信じてくれたんだけどな。
 ブラウニーがそう思おうとした時、沙雪が言葉を続けた。
「でもね、ブーちゃんがけいくんと、ずっと一緒だったってのは信じる」
「え……?」
 あっけにとられるブラウニー。
「だってさ、けいくんってもう28歳にもなるのに、13歳から小説書いてるからとか言って。
 ずっと小説書いてるんだよ。
 さき、たくさん読んだの。これ、秘密ね」
「わかったよ、さきちゃん」
「ねえ、ブーちゃん。
 けいくんの作品の主人公って、ブーちゃんともう一人誰か、なんだろ。
 その誰かって、誰かにそっくりなの」
 ふふふっと沙雪は笑う。
「それって……」
 あいつ本人じゃないのか?
 だとしたらー。
 ブラウニ-は初めてそれを知った。
 彼は圭祐の趣味に興味などなかったからだ。
 一番く圭祐の傍にいながら、何も知らなかったことを恥ずかしく思った。
「ないしょね」
「もちろん」
 奇妙な連帯感がその空間にできつつあった。
 さて、と少女は立ち上がる。
「じゃあ、どんな世界なのかわからないけど。
 頑張ってみようかな」
 まったく。
 強がりなのか、能天気なのか。
 この少女のたくましさには頭が上がらない。
「ねえ、ブーちゃん」
「ん?」
「さきね、友達から本とか借りて読んだことがあるんだけど。
 今って異世界転生とかね、俺TUEEEチーレムとか流行ってるんだって 
 だから、さきも何か力が欲しいよ?」
 うーんとブラウニーは困った顔をする。
「どんな能力が欲しいんだい、さきちゃん?」
 うーん……と沙雪は考える。そして出てきた答えに頭を抱えた。
「沙雪TUEEEがやりたい!!」
 途端に出てきた話についていけずにいた。
 色々と沙雪の話を聞いてみてようやくその断片を理解できたが、さてどうしたものか。
 悩みながら解答を見つけようとするブラウニー。 
「沙雪TUEEEをもしやるなら、もしだよ。
 いまのさきちゃんを新しく行く異世界の法則が、関与できないような反発する力で囲えばいい。
 泡の中にさきちゃんを入れて、もっと大きな泡の中に組み込むんだ。
 中からは外に干渉して操れる。
 でも外からは、大きな泡の中からは内側の小さな泡には干渉できないようにする。
 これなら、記憶も残せるし、チート能力も使える。けどなあ……」
「けど?」
「そんな存在作ったら、言ってみればさきちゃんの外見で中身がゴ〇ラみたいなもんだろ? 
 そこに存在する質量や動くたびに消費するエネルギーをどっからもってくる? もしくはどこに逃がす?」
「だからそれは神様の奇跡で……」
「いや、物理法則を越える奇跡を使うのにも膨大な力を消費するからね?」
「じゃあ……」
「じゃあ?」
「さっき話してた、けいくんの小説の。身体を量子レベルまで粒子化して自分で自分を観測させたら?」
「まあ、時間の制限がその世界の時間軸とはズレるから、膨大な力も使えないことは無いな」
 問題はーー

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