4 / 20
沙雪が消えた夜
4
しおりを挟む「あー、おい。しっかりしろ、おいっ」
大きな肉球の柔らかい手で頬を軽くたたかれる光景を記憶の片隅に感じがら。
沙雪は自分の意識が遠のいていくことを彼女は感じていた。
一言、信じなくてごめんなさい、と恋人に心中で詫びを入れながら……
「あー、困ったぞ。
どうすればいいんだ、あーもう!
圭祐のバカがもっときちんとボクのことを、沙雪に伝えていないからこうなるんだ。
あいつがもう少し努力してボクの声に耳を傾ければ、こんなことは避けれたのにー!」
その金色の猫? のような生物。
ブラウニーはそう言いながら光の渦の床に少女をそっと横たえて心配そうに顔を覗き込んだ。
「困ったなあ。
あいつがいないとボクは力が使えないんだ。
このままじゃ流されてしまう」
かと言って、あいつを迎えに行ってる間に、この子がどこかに行くか分からないし。
とブラウニーは頭を悩ませる。
「まあ、仕方ない。
目覚めるまで待つか。
ボクの力がもてば、の話だけどな……」
それからどれくらいの時間が経過しただろう。
少女は猫が自分と恋人のことを石頭だの、ボクが苦労するだのと悪口を言ってるのを耳にしていらっとしたことを覚えている。
そこから少しだけ寝たような感覚になり、そして目が覚めた。
「起きたか」
目を開けると飛び込んできたのは大きな、猫の。
そう糸目に近いような目の猫だった。
あのブタ猫。
また今日も現れたんだ。
圭祐がたまにそういってメールを寄越すのを思い出した。
ブタ猫……
たしかによく見ると、三頭身くらいで、大きなまんまるな猫がそこにいる。
もしかしてブタ猫だからブーちゃんなのかな?
そう思いながら、沙雪はだまって彼の顔を両手でつかんだ。
両の頬を軽く持ちあげたり、掴んでぐいっと横に引いてみたり。
さすがにヒゲに手を出すと怒りそうだからそれはやめた。
「おい……」
糸目の猫は少しだけ抗議の声を上げる。
猫は裸ではなかった。
どこで見つけてきたのか全身を、ジーンズ生地のオーバーオールで包み、足元にはオシャレにもティンバーランドのブーツを履いている。
この足でも合うサイズがあるんだ。
彼女は不思議に思いながら、自宅で飼っている猫と同じように、ぎゅっと抱きしめてみた。
「わっ、すごい。
ブーちゃん、ふっかふか」
シャワーでも浴びたら全身が細くなるのだろうなと思いながら、再び抱きしめてみる。
「よく、モフモフとかいう表現みるけど全然違うね。
ふかふかってのが正しいんだ……なるほど」
「あのな、なるほどじゃないだろ」
猫、もといブラウニーが放しなさい、と少女に言う。
「あ、ごめんなさい」
「まったく。
さすが、圭祐が見初めた女性だと思ったよ……」
呆れたようにブラウニーが言う。
ん? 褒められてるのかな?
そんな顔を沙雪がするが、褒めてない、とブラウニーは否定した。
「こんな事は言いたくないがな。
えーと、沙雪さんボクはブラウニーだ。
挨拶は最初にしたけど」
「あ、そうだよね。
ごめんなさい。橘沙雪です」
「うん、知ってるよ。
ボクは圭祐が産まれてからずっとあいつの傍にいたから」
ブラウニーがそう告げると、沙雪は何かを考えこみはじめた。
「あのだな、さきちゃん?でいいか?
沙雪ちゃんだと、どうにも呼びにくい」
どうにもつかみどころのない子だな、と思いながら彼は声をかける。
「あれ、でもブーちゃんがいるってことは……さき、死んだのかな?」
いや、とブラウニーは首を振る。
「まず、死んでない。
次に、ここは簡易的な空間だ。
さきちゃんはあの濁流。覚えて無ければそれでいい」
うーん、と少女は考えて記憶はある、と伝えた。
「そうか。
なら、その状況から助けるために、特別に作った空間だと思ってくれたらいい」
「特別な空間……?」
「そう
それで申し訳ないけど、すぐには地球には帰れない」
地球には?
「ここって宇宙なの?」
「うーん、似てるが違う。
例えるなら、マンションの部屋と部屋の間にある壁の中にいるようなもんだ」
「じゃあ、どこに行くの?」
「近いが遠い。
地球と似た世界に行く。
そこで少しだけ待ってて欲しいんだ。
「待つってどれくらい?」
それは……、とブラウニーは困った顔をする。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。



セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

竜王の花嫁は番じゃない。
豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」
シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。
──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる