上 下
3 / 5

第三話

しおりを挟む
「いい、アテッサ。あなたが欲しがってあげたそれら、指輪だったり服だったり、なんでもいいですが。それらは私が女神様の司祭だったり神官長になったり、神殿の持つ地位があったから叶ったものなのです」
「だって……変ですよ、それ?」
「何が変なのですか」
「お姉様が手にした物を妹のわたくしに譲ることの何がおかしいのですか?」
「あげられる物は譲りましたよ。私が身に付けていなければ効果を表さない護符などもあなたが欲しがって止まないから、特別にあげたではないですか」
「それなら!」

 と、愚妹は名案を思い付いたかのように顔をぱあっと明るくさせて言いやがりました。
 最高の名案だというかのように。

「お姉様が身に付けていなければ効果を成さない護符でも、わたくしにくださるのですから! 聖女の地位ですらも譲っていただけるはずです!」

 ……と。
 ついでにふふんっ、と鼻を高くして付け加えてきやがりました。

「わたくしは眉目秀麗、どこをとっても完璧無比な美しさを誇りますが、しかし……」
「なっ。なんですか、アネット……」
「お姉様は王国でも最下層の民が持つ黒髪に黒目。幼い頃につけた左眼の焼け跡とどれ一つとっても美しさと高貴さ、とは無縁の存在ですから」
「その心の醜さを見抜くような誰かに出会った時、あなたの立場や評価はすべて失われるかもしれませんね、アテッサ。いい加減になさい」
「嫌ですわ、負け犬になるなんて――耐えられませんもの。ああ、違いましたわ。正しい評価を奪っていく泥棒猫からそれを奪い返すことは正しいことだと思いますの。お姉様はどう思われますか?」
「あなたがっ! 今すぐ滅びればいいと思っているわ」
「……まあ、怖い……」

 傍らから見れば姉妹の仲良いひそひそ話。
 その内側を覗けばこんなどうしようもない泥沼のような会話だと、誰が想像するでしょう。
 居並ぶ諸侯や有力者たちの視線はもちろん、本日の主役たる私にではなく妹に注がれていくのは看過できないものがありましたが……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切だった友達に媚薬を盛ったら、怖いくらい溺愛されています。彼が勧めてくれたお茶からも同じ香りがしていたのは気のせいかな。

下菊みこと
恋愛
媚薬を盛ったらとんでもなく愛されたお話。 マルスリーヌは友人、エルキュールに媚薬を盛る。エルキュールと結婚して、多額の結納金を実家に納めてもらうためだ。けれど肝心のエルキュールは、媚薬を入れた紅茶の香りを嗅いだだけで飲んでないのに媚薬が効いてしまった。マルスリーヌは困惑するも開き直るしかなかった。 小説家になろう様でも投稿しています。

愛するお嬢様を傷付けられた少年、本人が部屋に閉じこもって泣き暮らしている間に復讐の準備を完璧に整える

下菊みこと
恋愛
捨てられた少年の恋のお話。 少年は両親から捨てられた。なんとか生きてきたがスラム街からも追い出された。もうダメかと思っていたが、救いの手が差し伸べられた。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

悪役令嬢に転生しましたがモブが好き放題やっていたので私の仕事はありませんでした

蔵崎とら
恋愛
権力と知識を持ったモブは、たちが悪い。そんなお話。

悪役令嬢(濡れ衣)は怒ったお兄ちゃんが一番怖い

下菊みこと
恋愛
お兄ちゃん大暴走。 小説家になろう様でも投稿しています。

義母の秘密、ばらしてしまいます!

四季
恋愛
私の母は、私がまだ小さい頃に、病気によって亡くなってしまった。 それによって落ち込んでいた父の前に現れた一人の女性は、父を励まし、いつしか親しくなっていて。気づけば彼女は、私の義母になっていた。 けれど、彼女には、秘密があって……?

悪役令嬢に転生したので、人生楽しみます。

下菊みこと
恋愛
病弱だった主人公が健康な悪役令嬢に転生したお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...