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「お久しぶりでございます。
 国王陛下、王妃様。ご機嫌麗しく。
 大司教猊下には神の恩寵がありますように‥‥‥」
 その挨拶に、国王はレオンが誰だったかをふと思い出す。
 平民から成り上がり、自分に膨大な富の分け前を寄付した青年、だったと。
「これは懐かしいなええー‥‥‥」
 そばの近習が、ウィンダミア子爵です、陛下。
 そう密やかに伝える。
「そうそう、ウィンダミア子爵。
 そちらはー‥‥‥?」
 これは近習もあまり知らない顔だった。
 レオンはマキナ嬢を連れて挨拶をする。
「こちらは、わたしの愛しき人でございます、陛下」
 と。
 マキナは動揺していた。
 自分はあの日、きちんと断ったはずなのに、と。

「ところで、陛下。大司教猊下。
 巷でのお噂をご存知でしょうか?」
 噂?
 その一言に、二人は嫌な顔をする。
 エレアザル女大公の秘密の花園、などといった怪文書が新聞の夕刊になぜか紛れ込み、市内の話題になりそれは国王の耳にまで届いていたからだ。
「噂ですか。
 愛とは形は違えどもその想いが永遠であれば美しく。
 主の御心にも届くでしょうが‥‥‥」
 大司教猊下はそう明言はしないが、面白くはない。
 言いたそうだった。
 では、とレオンは問いかける。
「その愛が対等ではなく、仮に人と獣のような。
 そのようなものであれば、それは永遠のものでしょうか?」
「いいや、子爵様。それは違います。
 それは愛ではない。
 ある意味、主従の愛にはなるでしょう。ですが、夫婦のあいではありませんよ」
 大司教猊下はそう言い、神殿の奥に座る女大公に視線を移す。
「陛下。
 そろそろ、遊びの時間も終わりの時ではありませんか?」
 その一言は、国王の顔を歪めさせた。
「そうですな、猊下。
 遊ぶの愛はもう終わる時間ですな」
 そう国王は言い、女大公に視線をやった。
 そろそろ、終わりにしろ。
 そんな強い視線を受けて彼女は視線を伏せる。
 三人の目上の人間に挨拶をした後、レオンは女大公に立ち寄って言った。
「さて、その愛はかりそめか。
 それとも、永遠か。
 お返事を頂きましょうか。大公閣下」
 と。
 女大公は優雅に立ち上がると、その飼い犬には目もくれず、レオンに言ってのけた。
「飽きれば買い替える。
 それが、愛玩の動物ですよ子爵殿」
 と。

 帰り際の馬車の中で、レオンはマキナから激しい平手打ちを喰らった。
 まあ、これは当然の怒りだろう。
 主人にお前は要らない。
 そう言わせたのだから。
 涙する侯爵令嬢にレオンは静かに言う。
「マキナ。
 それでも、僕との時間は。
 あなたと過ごした時間は。人と人との触れ合いでした。
 僕はまだ、あなたを愛していますよ」
「あなたはひどい御方です、レオン様‥‥‥
 このマキナから全てを奪っておいて、それでいながらー‥‥‥
 まだ人として愛しているなどと。
 女に戻れと。そうおっしゃるのですから」
「それは、かなわない望みですか?」
 いいえ。
 マキナは首を振った。
「あの神殿での去り際の時。
 すべてはかりそめだと。そう感じました。
 それでもまだ、人に戻る機会を下さるならば」
「それはだめですよ、マキナ嬢」
 下さる、はだめです。
 レオンはマキナを抱きしめて言った。
「勝ち取るのです。
 そのために、僕がいるのですから。
 愛しています、僕のマキナ」
 その言葉に、少女は背中を見せて言う。
「こんな焼き印がある女でも愛せますか?」
 と。
 青年子爵は余裕をもって答えた。
「EVER。
 永遠にのE。
 そう思えばよいではありませんか。
 二人の絆としてのE、だと」
 駄目ですか?
 押し切らないレオンはマキナの返事を待つばかりだ。
 たまらず、マキナは叫んだ。
「なぜ、言ってくれないのですか!?」
 何を?
 いや、そんな情けない返事はレオンはしなかった。
「だってもう何度も言っていますよ?
 僕は。愛しい人マイ・レディ、と」
 ね?
 これには少女は言い返せなかった。
 もう決まっていたからだ。
「わかりました。
 もうわたしの負けでございます、旦那様。
 お手を貸していただけますか?
 人へ這いあがるために」
「ええ、よろこんで。
 お帰り‥‥‥僕のマキナ」
 レオンはそう言い、少女を優しく抱きしめた。
 
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みんなの感想(1件)

オラクル
2020.05.05 オラクル

8話の次が10話、9話はどこに?

星ふくろう
2020.05.06 星ふくろう

これは失礼しました。9話で終了です。
10話を9話に訂正しておきました。ありがとうございました。

解除
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