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「隠された貴族様とやらの、身勝手なものを叩き潰せ。
 そう言っているんだ」
「だが、どうやってだ。
 この新聞社でそんな記事でも出してみろ?
 一流経済記事の会社がゴシップネタで倒産するぞ!?」
 お前は本当におろかものだな、レオン。
 スローン卿は再度、ため息をついた。
「なあ、その買った爵位は何のためにある?
 敵はどこにいる?
 なぜ、対決しない?
 お前は、愛を語り合ったんだぞ?
 あちら側の不貞かもしれん。
 だが、それなら不貞を働いた相手も叩き潰せ。
 これまでやってきた、事業のようにだ」
 スローン卿はカレンダーを指差す。
「大司教猊下がまだいらっしゃるぞレオン。
 次の礼拝の時、国王陛下も来られる。
 決闘にはいい場所だろう?」
「君は僕より、本当に策士だな。
 そして、勝ち目のない大義だ‥‥‥」
 ふん、そうスローン卿は笑った。
「勝ち目のない大義?
 レオン、世論を動かすのはどこだ?」
 よく見ろ、お前のいるここを。
 どこだと思っている?
 この国で三番目に大きな新聞社だぞ、と。
「だが、どうする気だ?」
「夕刊に少し程度、気になる記事が載ったところで誰も気にせんよ。
 それも二週間程度前ならな?」
 噂はそうやって周るもんだ、レオン。
 行って来い、愛を信じるなら。
 彼女も没落貴族とはいえ、侯爵令嬢。
 神殿にはいくさ。
 
 そう、うまくいけばいいけどな、スローン卿?
 レオンは半信半疑でその日、あれから会っていなかったギース侯爵家を訪れた。
 事前で手紙をやりとりし、マキナ嬢が名義人となっている工場の売却の件を含めて話がしたい。
 そう伝えていた。
 そしてレオンはある贈り物をしていた。
 レース生地をふんだんに使用した、流行の礼装。
 背中が大きく開いた、それでいていやらしくない。清楚かつ洗練された青のドレス。
 あの女大公よりもより目立つように、上流階級の間で流行っている極楽鳥の羽をあしらった帽子と共に。
 ただ、彼女の肩には薄い生地の上着を着せて。
「お久しぶり‥‥‥」
 目を伏せ、自分はここにはいるべきではありません。
 そうマキナ嬢は言う。人ではありませんから、と。
「そうか。
 なら、一日くらい、僕の美しい貴婦人を演じてみないか?」
 え?
 そう、彼女の理解が及ばないことをレオンは言った。
「愛にはいろんな形がある。これはスローン卿からの受け売りだがね。
 なら、僕にも愛の形があっていいはずだ」
 そう、レオンは少女に言った。
 元婚約者に。
「なにをなさるおつもりですか‥‥‥?」
「何をする?
 何もしない。
 ただ、確かめにいくだけだ。
 さあ、行こうか?」
 馬車は神殿へと付いていた。
「どうぞ、僕の愛する人レディ
 レオンは腕を差し出した。そこに片腕を絡ませて、困惑しながら侯爵令嬢は神殿へと足を運ぶ。
 礼拝が終わり、国王夫妻と大司教が話している時だ。
 レオンはわざと、三人に歩みより、挨拶をした。

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