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「確かに言われてみればそうだが‥‥‥。
 なら町工場で働いている平民と変わらない女を側に置く気か?
 いやそれよりも、お前。
 爵位の差はどうするんだ?
 子爵と侯爵令嬢では身分の差が‥‥‥」
「おいおい、機械式帆船が動くこの時代だぜ?
 今時、そこまでややこしくは言わないさ。
 貴族院に‥‥‥な?」
 多額の献金をすれば、か。
 なるほどな。
 スローン卿はそこまでは納得した。
 しかし、そんな大金を支払ってまであの少女を得る価値はどこにあるのか。
 それが理解できなかった。
「なあ、レオン。
 親友として聞くから押しえてくれないか?
 あのマキナ嬢のなにが‥‥‥いいんだ?」
 爵位か?
 他にはないあの美貌か?
 利発さか?
 若さか?
 幾つかの質問をかさねるが、子爵はどれにも首をふる。
「前にな‥‥‥覚えているか?
 昨年の秋ごろにとある男爵閣下の持ち物だった工場が売りに出されていただろ?」
 秋?
 あの事業に失敗して資産を失い、持っていた物を競売にかけられた男爵閣下が確かにいた。
 スローン卿は記憶を手繰り寄せる。
「それとどう関係がある?」
「あの男爵閣下な、なかなかせこい人物だった。
 売る前に、名義をあのマキナ嬢に書き換えたんだ。
 侯爵令嬢の資産だと値は三倍にも跳ね上がる。
 契約書を交わした後にやられたんだよ‥‥‥」
「詐欺もいいとこじゃないか!?
 ならなんだ?
 契約金の三倍も払ってあの工場ごと‥‥‥」
 レオンは困ったような顔をした。
「ある意味、人身売買に近いことをしてしまった。
 もうこうなるなら、婚約をな。
 そう思い申し入れた‥‥‥」
 お前は馬鹿か‥‥‥!?
 その言葉が喉元まで出かかっていた。
 どこまでお人よしなんだ、お前は、と。
 しかし、とスローン卿は思いなおす。
 それであっても、彼が。
 この旧友が幸せを手に入れれるなら、それは友として喜ばしいことだ。
「まあ、それでいいなら。
 おめでとう、というしかないな」
 この日はそれから数時間の会話を済まして、マキナ嬢はお菓子を弟たちに、と。 
 箱に包んで喜んで持ち帰っていった。
 本当にこれでいいものか?
 スローン卿はどうももやもやしたものを抱えてその日を終えたことを覚えている。


 レオンはマキナとの婚約に向けて準備を進めている間。
 彼は暇を見つけては運動と称して、例のポーターの仕事に励んでいた。
 仲間も出来たりして、彼らの家に呼ばれ朝まで飲んだり、親方のおごりでどこかの王都内の安宿を借り切って仲間たちと飲むことも数度あった。
 ある仲間がこんな話をしだした。
「最近の上流階級の奥様方の間じゃ、あれが流行りだそうだな?」
 あれ?
 その意味ありげな単語に、妙な怪しい雰囲気をかぎつけて周りの連中も集まってきた。
「女性同士で楽しむんだとさ。
 中には、金のある侯爵夫人が、没落貴族の令嬢の若い子を集めて教育するんだとさ」
「教育?
 なんの教育だよ?」
 そりゃ‥‥‥なあ? 
 彼は酒も入っていたが、品性のない男ではなかったからうまい言い様が出来なかった。
 すると、別の人物がそこに口を出す。

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