聖女である御姉様は男性に抱かれたら普通の女になりますよね? だから、その婚約者をわたしに下さいな。

星ふくろう

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第一部 クローディアと氷の精霊王

反省のない王子たち

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「せっ、聖女‥‥‥様!?」
「なぜ、ここにおいでになられたんですか??」
「いまはまずいのです、王子たちが!!」

 とまあ、クローディアが氷の精霊たちが人間にも見える姿となり、クローディア自身は威嚇になるからとあの氷雪熊の毛皮を脱がずに王宮に出向いた時。
 見知った王宮付きの神官や武官たちがそう、制止の声をかけてきた。
 いまはまずいんですよ。
 その一言を、クローディアは面白そうに繰り返してニヤけていた。

「知っているわよ。
 凍ったんでしょ?
 夫婦で」
「それはー‥‥‥そんな真似ができる人なんて一握りなんですよ!?」
「だから、どうしたの?
 犯人が誰かとわかった?」
 
 意地悪くクローディアは問い返す中、彼らの止めるのも聞かずに王宮の正門を潜っていた。
 駄目ですよ、あなた様の立場が悪くなります!!
 そういう騎士もいないことはなかった。
 中には神殿から派遣されている作業員たちも、現場があるらしく彼女の顔を見かけては歩み寄ってきた。
 しかし、まず出る言葉は、

「聖女様。
 その毛皮はやめましょうよ‥‥‥。
 どっからどう見てもーねえ?」
「なによ?
 温かいのよ、これ。
 いまは季節も冬だし。
 なにか問題でもあるの?」
「ですからー‥‥‥。
 そんな魔獣の口から、しかも聖女様の髪は真紅だし。
 顔なんて突き出していた日には、誰か襲われたかと誤解されますよ?」
「あら、そうなの?
 別にいいわよ。
 王様がこれを見て驚くのが楽しみだわ」
「そんな問題発言、やめてくださいよ。
 怒られるのは俺たちなんですよ!?」

 騎士たちや衛士たちが悲鳴を上げる。
 その様が楽しくてクローディアは鬱憤を晴らすのに丁度良かった。
 楽しいなんて言ったらだめだけど、これは良いわ。
 一生神殿で祈ってればいいのだ?
 あのセリフを言ったその厚かましい顔を見に行ってあげる。
 凍り付いた王子様?
 
「フフ、怒られたりしないわよ?
 だって、わたしはこの王国を救いに来たんだから」
「救いに!?
 ‥‥‥どういうことですか?」
「だからーまあ、王様にお会いしてからね、それを話すのは‥‥‥」
「ああ、いや、それは――」

 騎士の一人は顔を曇らせて語尾を濁らせた。
 なによ?
 まさか会えないとかっていうつもり? 
 クローディアは同じく顔を曇らせる。

「王はー‥‥‥」
「王様は?」
「王は、あなた様ではお会いになれません、聖女様」
「はあ!?
 王子を助けにきた精霊王様の代理を負い返す、と?」
「いえ、ですから!
 その代理が問題なのです‥‥‥」
「意味が分からないわねー。
 助けたくないの?」
「王子をお助けしたいのは我らも同様です。
 ただ、その身分が‥‥‥」

 身分?
 聖女なのに?
 クローディアは呆れた、そんなため息をついた。
 いまさら、身分?
 子供が大事じゃないんだ、と。

「聖女じゃ不足なんだ?」
「はあ、せめて大神官でなければ‥‥‥」
「なら、女侯爵クローディアではだめなの?
 実家は公爵。
 わたしは、女侯爵を名乗れるのよ?」
「いえ、それでもまだー‥‥‥せめて、大臣か、内政官でなければ。
 どのような貴族様でも、簡単にはお目通りかないません」
「だって!!
 あなたは?
 なら騎士団長は!?
 いい加減にしなさいよ?
 たかだか、公爵令嬢だって馬鹿にするならこの王宮ごと凍らそうか!?」
「ですから!!
 そのお言葉がすでに反逆を暗に示していましてー‥‥‥こうして聖女様だということも踏まえてお願いしていますことをどうかー‥‥‥」
「理解しません。
 身分が大事か、息子が大事か。
 すぐに王様に掛け合ってらっしゃい!!!」

 おい、とんでもねー迫力だな。 
 ジェスロは同行しているラッセルやゼノにそっとささやいていた。
 この御方が王妃様になった日にはーなあ?
 と、ひそやかに三人で呟いていた。
 将来、氷の精霊王様は王妃様にかなわなくなる日も近いだろう、と。

「そこ!!
 なにか言われましたか?」
「は!?
 いえ、何も‥‥‥ええ、何も。
 ただ、そろそろ精霊王様のお言葉を伝えたほうが良いのではないか、と。
 そう、申しておりました」

 お言葉?
 クローディアはきょとんとする。
 ああ、あれか。
 思いだしたのはあれだ。
 王子が、聖女様は神殿で祈っていればいいのだ。
 そう、精霊王の代理人のクローディアを馬鹿にしたことが許せない、と。
 あの発言を怒りにして、王子を凍らせたのだと言えばいいのではないですか?
 そう、ジェスロは伝えていた。

「あのう‥‥‥精霊王の言葉とは?」

 側にいた神官長がこっそりとかつての部下であるクローディアに問いかけてくる。
 この狸オヤジ‥‥‥誰の臣下か理解しろよ、とクローディアは額に筋を立てていた。

「神官長様。
 精霊王様、でございます。
 あなた様は王国の神官である前に、精霊王様の臣下ではないですか‥‥‥」
「あ、いや。
 それは、うーん。
 わしは王様に仕えている身。
 精霊王様の神事を行いはするが、臣下ではないぞ?」

 はあ‥‥‥クビだ、このオヤジ。
 次の神託で絶対にクビにしてやる。
 こんな旦那様を呼び捨てにする部下なんか要らないわ。
 ここで一人、とある人間の運命が枝分かれしたのである‥‥‥

「では神官長様から王様にお伝えくださいな。
 王子がわたしとの婚約を勝手にしかも、誕生日に。
 おまけに聖女になった日に、妹に不貞を働いた情けない現実のある上に。
 更に、妹と結婚すると宣言し、聖女は神殿で祈っていればよいのだ、と。
 そう、精霊王様の代理人であるわたしを軽んじた発言が、精霊王様の逆鱗に触れました、と」
「は?
 だが、クローディア、お前は所詮、身分違い‥‥‥。
 平民の出だぞ!?
 それが一時期だけでも王子様の寵愛を受けれただけでもー‥‥‥幸せだったと。
 実家の存続、引いては繁栄のために身を引くのは当たり前ではないか!?」
「神官長様!?
 本気で言ってますか、それ!!??」
「本気だとも!!
 お前が、平民の卑しいお前がだ。
 聖女になれただけでも、どれだけ光栄か理解していないのか?
 お前は何年、神殿で教育を受けて来たのだ!?」
「光栄も栄光も名誉も要りません!
 そんなつまらないことよりも!!
 主は王だけではないでしょうが!
 あんたは、まず!!
 この王国の民が精霊王様のご機嫌を損ねずに、きちんと結界を維持して頂けるように粉骨砕身しなさいよ!
 この化けタヌキが――!!」
「化け‥‥‥タヌキ???
 お前、なんたる物言いー‥‥‥」

 物言いもクソもありますか! 
 聞こえてますか、見えてますか旦那様?
 これが、この王国の情けない真実ですよ?
 これでいいのですか?

 クローディアは心で問いかける。
 こんなバカな連中に自分の夫を奉らせて、あれだけ苦労して神殿のみんなとともに水源を探して来たのに。
 なんて愚かな神官なんだろう。
 もし、王様までこれならー‥‥‥。

「はあー本当に頭が痛くなるわ‥‥‥どきなさい、騎士の方々。
 いま被っているこの魔獣はわたしが自分で狩ったのです。
 あなたたちでは、誰一人勝てませんよ?
 ほら、のいてのいて――あーめんどくさい!!!」

 クローディアは叫びその声は意思を持ったかのように壁や床を、一面の薄氷を貼らせていく。
 結界内は暖かいはずなのに、この場だけは真冬のようで王の臣下や神官たちは肝を冷やした。
 これが‥‥‥聖女の能力、と。
 驚嘆し、脅威に感じていた。

「もういいわ、自分で行きます。
 わかるからー‥‥‥」
「お待ちを!?
 聖女様、お待ちを――!!」

 そんな制止の声なんて動き始めたクローディアには雑音でしかない。
 自分で昨夜仕掛けたのだ。
 どこに何があるのか、誰がどこで凍っているのか。
 クローディアには手に取るようにわかっていた。
 階段をフンフンっとのっしのっしと歩いていく彼女を止めれるものなど誰もいない。

「あーあったあった。
 何よ、見えないようにシーツなんかかけちゃって。
 ほら、起きなさいよばか殿下!!」
「あ―――――っ!!!???」

 クローディアは不安定なはずの王子夫婦が閉じ込められた氷塊を、ていっと横から勢いよくけたぐってやる。
 それはシーツの覆いをずるりっとはがしながら、大理石の床にめがけてその重量のおもむくまま――激突すると想像した王国の臣下たちが叫び声をあげたとき。
 どうやったのか、あまりにも勢いよく溶けた為にすさまじい水蒸気に覆われて王子とその妻。
 クローディアの異母妹は姿を現していた。

「こっ、これはー‥‥‥!?
 わたしはなぜ!?」

 あーあ、まだ気づいてないわ、この王子様。
 クローディアはあきれつつも、汚い物見せないでよと言いながらシーツを二人に被せてやる。
 妹は悲鳴を上げてそれに隠れ、王子はクローディアを見て――

「あ――っ!!!
 貴様!
 お前が、お前だな、このようなことをしたのは!? 
 聖女といえども許せん!!
 王族がなんたるか、知らしめてやるわ!!
 この馬鹿女が――っ!!!」
「あっそう‥‥‥。
 旦那様――?
 こんな事言ってますよ、この馬鹿王子。
 どうしますか――???」

 クローディアは呆れ半分、怒り半分で天に向かい叫んでみる。
 こんな王子なんて、永遠に葬ってやればいいのに。
 その呟きに、精霊王の配下は冷や汗を流すのだった。

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