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第一部 クローディアと氷の精霊王
御姉様、婚約者をくださいな?
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マクシミリアンとは現場が重なる時もあったが基本的に、クローディアは地下にいた。
だから、その期間の彼の外見の変化を良く知らない。
ただ、作業員からの反応はすこぶる良くて、悪い噂は一つもなかった。
「まあでもあれよね。
いきなりこんな過酷な重労働やらされたら、音をあげて逃げるでしょ。
所詮、甘やかされて育った王子様だし‥‥‥」
そう思って夏が来て、秋が来た。
しかし、神殿の中にある作業員が現場に出ているかどうかをつけた帳簿をたまに覗き見するが、彼が休んだ日は一日も無かった。
これはまさかのまさかー‥‥‥?
もしかしたら、外見までイケメンになっているかもしれない!?
でも、わたしこの作業とか神殿のこともあるしなあ。
今更、王族なんて‥‥‥お父様は喜ぶだろうけど。
そんなことを思っていたある日。
クローディアは秋のあの日が来たことに気づいた。
神殿では、毎年、秋になると豊穣の祝いの儀式を行う。
そこで使われる氷の炎を、氷の精霊王様の城まで頂きに行くのが慣例となっていた。
「冷たいのに燃える炎。
変なの」
昨年までは聖女様が行っていた。
しかし、彼女は後任が決まる前に他国に嫁いでしまった。
「なんて無責任な聖女様、まあ、後任決まるまではどうなっても聖女様でいるようにするって神託あったらしいしーいっか」
それなら、もう永続的に子供を産んでも聖女様でいれるようにすればいいのに。
氷の精霊王様の城は結界の外にある。
野生の獣もたくさんいるし、この時期は熊なんかもエサも求めて危険極まりない。
そんな中、クローディアは一昨年、たまたま仕留めることのできた魔獣、氷雪熊の毛皮を着こんで精霊王様の城まで向かっていた。
真っ白な大地に、黒い二足歩行の毛皮を着こんだというよりは、ぬいぐるみを着こんだ。
そう表現したほうがいいような、本当なら熊の口の部分から顔を出したモッコモコの少女が一人。
なぜか雪に沈みこまないまま、滑るように歩いて数時間。
氷の精霊王様の城につき、その毛皮を誰に貰ったと精霊王に問いかけられ、自分で狩りましたと答えたら彼はふーん、と興味なさそうにうなづいていた。
氷の炎を専用の箱に入れて、また、ポフポフとクローディアは帰途につく。
この魔獣はあまりにも凶悪すぎて‥‥‥毛皮を着ているだけで、襲い掛かる獣はいないから安心だった。
そんなこんなで秋の儀式も終わり、冬のクローディアの誕生日。
屋敷で祝いなさいと、妙に親切な神官長の言葉にしたがって帰宅したクローディアが見たものは――
「おお、わたしのクローディアが帰って来たぞ!!」
「はっ?
ちょっと、あなた誰――まさか、マクシミリアン‥‥‥様!?」
「ああ、そうだが?
どうかしたのか?」
「いえ、そのあのー‥‥‥痩せて――いらっしゃる?」
「そうだ、苦労したがいいものだな、労働とは!
汗を流して稼ぐということは素晴らしい体験だった!!」
「はあ‥‥‥」
マジかよ!?
中身イケメン、外側豚!
それが、外側めちゃくちゃさわやかな紳士でしかも好青年で。
まあ、痩せてもあんまりイケメンではなかったけど。
これなら、まだいいかな。
作業員して扱われるの慣れたなら、わたしにでもコントロールできそうだし。
適当に、王子妃なろうかな――
そう思っていた時だ。
マクシミリアンはある、一枚の書類をテーブルの上から持ってきた。
テーブルの上?
家族が先に見ている?
一瞬、嫌な予感がクローディアにはしていた。
数年ぶりに会う妹の、いやにニヤニヤとした微笑みも気になっていた。
奴はー‥‥‥妹は王子がそれを姉に見せる瞬間を狙って冷酷なハンターのように言葉の弾丸をぶち込んできたのだから。
「まずは、これを見て欲しい。
クローディア」
「はあ‥‥‥次代の聖女は――はあ!!??
わたし!?」
マクシミリアンは沈痛な面持ちで、うなづいた。
そして、あまりにもあっさりと言い捨てた。
「聖女は子供を産めば聖女でなくなるからな。
婚約する意味がないのだ。
そこで、お前の妹をその代わりにしようと思う」
「え‥‥‥っ!?」
「おめでとうございます、お姉様。
まさか、妾の子供である御姉様が‥‥‥庶民の血を引くいやしい身分の御姉様が。
王子様の妻、なんて。
過分な待遇、受けれるなんて思っていませんわよね?
ねえ、御姉様?
この婚約、お母様が正室の娘である、このわたくしに下さいな?」
ワナワナと手が震える。
怒りを押し殺して、このうっとうしい妹を張り飛ばしたくなった時。
黙って会話を聞いていた王子と、クローディアの父親が言った言葉を、彼女は生涯忘れないと誓った。
「クローディア。
お前は側室の子だ、我慢しなさい」
「お父様!?」
「そういうことだ、では新しい妻も決まったし。
喜ばしい夜ではないか、なあ、クローディア?
お前は神殿でこの国の幸せを祈ればいいのだ、あーはっはっは!!!」
中身、イケメンじゃなかった!!
殺してやりたいー‥‥‥けど、今はまずい。
ここで抵抗したら、無礼打ちに会いかねない。
死んだら復讐すらできない。
我慢‥‥‥我慢しろ、わたし。
口の奥で、あまりにも強く噛み締め過ぎたからか。
奥歯が割れるような鈍い音がしたことを忘れない。
よし、覚えてなさいよあんたたち。
氷の聖女が怒るとどうなるかー‥‥‥どうなるんだろっ――――!!!????
その夜は適当に胃が痛くなるのを我慢して誕生日を祝ってもらい、深夜にそっと屋敷を抜け出して神殿に戻ったクローディアは、例の毛皮を着こんで深夜の氷原を歩いていた。
向かう先は、もちろん、氷の精霊王の城だ。
前の聖女がいない今。
何ができるかを確認したかった。
そう、永遠に苦しめれるような復讐をする為に――クローディアは、てふてふと歩いて城までたどり着いた。
「あーつまり、何か?
妊娠・出産したら聖女じゃなくなるから――破談になり間抜けにも妹に王子を奪われた、と?」
そこまで言う事ないじゃない!!
氷の精霊王はどこまでも冷淡だった。
「なんとも間抜けな話だな。
それならば、聖女と王妃を兼任しますから養子を頂いてくださいでも‥‥‥良かっただろう?」
「あっ‥‥‥。
盲点ー‥‥‥でした。
でも、親は納得していましたし。
今更、平民の子供がどうこう言えるものでも――」
「しかし、復讐は成し遂げたい、と?
自分から抗議の声を少ししか上げずに、その場を治めて後からなあ。
お前、どこまで冷酷で残虐非道なんだ?」
「ぐっ!?
それはそうですけれど!!
こうして来たのですから、なにかお知恵だけでもー‥‥‥」
「いや、嘘だ。
まあ、そんなに気に入らないなら。
二人が結婚したその夜にでもだなー‥‥‥」
精霊王は少しばかりの知恵を授けた。
しかし、それは恐ろしい知恵だった。
「御姉様!
ありがとうございます‥‥‥うふふっ」
「ええ、おめでとうー‥‥‥」
このクソ妹を今すぐ!!
いえいえ、あと数時間。
待つのよ、クローディア。
ここは忍耐、忍耐。
もうすぐ、笑える日が来るわ――
そうして、王子と王子妃となった妹が初夜を迎えたその夜。
クローディアの計画は発動する。
あの時、クローディアは精霊王にお願いしていた。
永遠に溶けることのない、氷に閉じ込める方法を教えてくれ、と。
二人の憐れな生贄は、クローディアが初めて使った氷の聖女の能力の実験台になり――
翌朝、二人で抱き合ったままどうやっても解けない氷の塊の中で眠っていた‥‥‥
「あいつめ、本当にやりおったわ」
それを魔法で見ていた精霊王は女とは恐ろしいものだ。
そう言い、笑いながらクローディアの冷酷さに惚れるのだった。
だから、その期間の彼の外見の変化を良く知らない。
ただ、作業員からの反応はすこぶる良くて、悪い噂は一つもなかった。
「まあでもあれよね。
いきなりこんな過酷な重労働やらされたら、音をあげて逃げるでしょ。
所詮、甘やかされて育った王子様だし‥‥‥」
そう思って夏が来て、秋が来た。
しかし、神殿の中にある作業員が現場に出ているかどうかをつけた帳簿をたまに覗き見するが、彼が休んだ日は一日も無かった。
これはまさかのまさかー‥‥‥?
もしかしたら、外見までイケメンになっているかもしれない!?
でも、わたしこの作業とか神殿のこともあるしなあ。
今更、王族なんて‥‥‥お父様は喜ぶだろうけど。
そんなことを思っていたある日。
クローディアは秋のあの日が来たことに気づいた。
神殿では、毎年、秋になると豊穣の祝いの儀式を行う。
そこで使われる氷の炎を、氷の精霊王様の城まで頂きに行くのが慣例となっていた。
「冷たいのに燃える炎。
変なの」
昨年までは聖女様が行っていた。
しかし、彼女は後任が決まる前に他国に嫁いでしまった。
「なんて無責任な聖女様、まあ、後任決まるまではどうなっても聖女様でいるようにするって神託あったらしいしーいっか」
それなら、もう永続的に子供を産んでも聖女様でいれるようにすればいいのに。
氷の精霊王様の城は結界の外にある。
野生の獣もたくさんいるし、この時期は熊なんかもエサも求めて危険極まりない。
そんな中、クローディアは一昨年、たまたま仕留めることのできた魔獣、氷雪熊の毛皮を着こんで精霊王様の城まで向かっていた。
真っ白な大地に、黒い二足歩行の毛皮を着こんだというよりは、ぬいぐるみを着こんだ。
そう表現したほうがいいような、本当なら熊の口の部分から顔を出したモッコモコの少女が一人。
なぜか雪に沈みこまないまま、滑るように歩いて数時間。
氷の精霊王様の城につき、その毛皮を誰に貰ったと精霊王に問いかけられ、自分で狩りましたと答えたら彼はふーん、と興味なさそうにうなづいていた。
氷の炎を専用の箱に入れて、また、ポフポフとクローディアは帰途につく。
この魔獣はあまりにも凶悪すぎて‥‥‥毛皮を着ているだけで、襲い掛かる獣はいないから安心だった。
そんなこんなで秋の儀式も終わり、冬のクローディアの誕生日。
屋敷で祝いなさいと、妙に親切な神官長の言葉にしたがって帰宅したクローディアが見たものは――
「おお、わたしのクローディアが帰って来たぞ!!」
「はっ?
ちょっと、あなた誰――まさか、マクシミリアン‥‥‥様!?」
「ああ、そうだが?
どうかしたのか?」
「いえ、そのあのー‥‥‥痩せて――いらっしゃる?」
「そうだ、苦労したがいいものだな、労働とは!
汗を流して稼ぐということは素晴らしい体験だった!!」
「はあ‥‥‥」
マジかよ!?
中身イケメン、外側豚!
それが、外側めちゃくちゃさわやかな紳士でしかも好青年で。
まあ、痩せてもあんまりイケメンではなかったけど。
これなら、まだいいかな。
作業員して扱われるの慣れたなら、わたしにでもコントロールできそうだし。
適当に、王子妃なろうかな――
そう思っていた時だ。
マクシミリアンはある、一枚の書類をテーブルの上から持ってきた。
テーブルの上?
家族が先に見ている?
一瞬、嫌な予感がクローディアにはしていた。
数年ぶりに会う妹の、いやにニヤニヤとした微笑みも気になっていた。
奴はー‥‥‥妹は王子がそれを姉に見せる瞬間を狙って冷酷なハンターのように言葉の弾丸をぶち込んできたのだから。
「まずは、これを見て欲しい。
クローディア」
「はあ‥‥‥次代の聖女は――はあ!!??
わたし!?」
マクシミリアンは沈痛な面持ちで、うなづいた。
そして、あまりにもあっさりと言い捨てた。
「聖女は子供を産めば聖女でなくなるからな。
婚約する意味がないのだ。
そこで、お前の妹をその代わりにしようと思う」
「え‥‥‥っ!?」
「おめでとうございます、お姉様。
まさか、妾の子供である御姉様が‥‥‥庶民の血を引くいやしい身分の御姉様が。
王子様の妻、なんて。
過分な待遇、受けれるなんて思っていませんわよね?
ねえ、御姉様?
この婚約、お母様が正室の娘である、このわたくしに下さいな?」
ワナワナと手が震える。
怒りを押し殺して、このうっとうしい妹を張り飛ばしたくなった時。
黙って会話を聞いていた王子と、クローディアの父親が言った言葉を、彼女は生涯忘れないと誓った。
「クローディア。
お前は側室の子だ、我慢しなさい」
「お父様!?」
「そういうことだ、では新しい妻も決まったし。
喜ばしい夜ではないか、なあ、クローディア?
お前は神殿でこの国の幸せを祈ればいいのだ、あーはっはっは!!!」
中身、イケメンじゃなかった!!
殺してやりたいー‥‥‥けど、今はまずい。
ここで抵抗したら、無礼打ちに会いかねない。
死んだら復讐すらできない。
我慢‥‥‥我慢しろ、わたし。
口の奥で、あまりにも強く噛み締め過ぎたからか。
奥歯が割れるような鈍い音がしたことを忘れない。
よし、覚えてなさいよあんたたち。
氷の聖女が怒るとどうなるかー‥‥‥どうなるんだろっ――――!!!????
その夜は適当に胃が痛くなるのを我慢して誕生日を祝ってもらい、深夜にそっと屋敷を抜け出して神殿に戻ったクローディアは、例の毛皮を着こんで深夜の氷原を歩いていた。
向かう先は、もちろん、氷の精霊王の城だ。
前の聖女がいない今。
何ができるかを確認したかった。
そう、永遠に苦しめれるような復讐をする為に――クローディアは、てふてふと歩いて城までたどり着いた。
「あーつまり、何か?
妊娠・出産したら聖女じゃなくなるから――破談になり間抜けにも妹に王子を奪われた、と?」
そこまで言う事ないじゃない!!
氷の精霊王はどこまでも冷淡だった。
「なんとも間抜けな話だな。
それならば、聖女と王妃を兼任しますから養子を頂いてくださいでも‥‥‥良かっただろう?」
「あっ‥‥‥。
盲点ー‥‥‥でした。
でも、親は納得していましたし。
今更、平民の子供がどうこう言えるものでも――」
「しかし、復讐は成し遂げたい、と?
自分から抗議の声を少ししか上げずに、その場を治めて後からなあ。
お前、どこまで冷酷で残虐非道なんだ?」
「ぐっ!?
それはそうですけれど!!
こうして来たのですから、なにかお知恵だけでもー‥‥‥」
「いや、嘘だ。
まあ、そんなに気に入らないなら。
二人が結婚したその夜にでもだなー‥‥‥」
精霊王は少しばかりの知恵を授けた。
しかし、それは恐ろしい知恵だった。
「御姉様!
ありがとうございます‥‥‥うふふっ」
「ええ、おめでとうー‥‥‥」
このクソ妹を今すぐ!!
いえいえ、あと数時間。
待つのよ、クローディア。
ここは忍耐、忍耐。
もうすぐ、笑える日が来るわ――
そうして、王子と王子妃となった妹が初夜を迎えたその夜。
クローディアの計画は発動する。
あの時、クローディアは精霊王にお願いしていた。
永遠に溶けることのない、氷に閉じ込める方法を教えてくれ、と。
二人の憐れな生贄は、クローディアが初めて使った氷の聖女の能力の実験台になり――
翌朝、二人で抱き合ったままどうやっても解けない氷の塊の中で眠っていた‥‥‥
「あいつめ、本当にやりおったわ」
それを魔法で見ていた精霊王は女とは恐ろしいものだ。
そう言い、笑いながらクローディアの冷酷さに惚れるのだった。
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