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プロローグ

殿下! 頭‥‥‥ダメですね!

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「はあ。まだ旦那様とお呼びする気にはなれませんから、遠慮しておきます」
「失礼な女だ」
「あなたに言われたくありません! まったく、侯爵様のお屋敷に乗り込んでくるなんて信じられない。もしも集まっている皆様の怒りを買ったらどうなると思っているんですか?」
「皆様? いや、別に? 僕が国王になるのは決定してるし、そんな人間に逆らう者などいないだろ?」
「はあ‥‥‥本当にあなたってバカ。どうしようもない、バカだわ。底なしのバカ王子」
「なんだと―――っ!?」
「ああ、もう! 大きな音出さないでください、耳が痛い!」
「それは‥‥‥すまん」
「もうっ!」

 このクソガキ! 
 こっちが折れて殿下だのあなただのって呼んでやってるのに、それしか言えないの?
 周りが見えてない、配慮も出来ない、おまけに――まともな取り巻きも連れていない。
 どうしてこんなのが王太子殿下になったかな!?

「なんだどうした? なぜそう不機嫌なのだ? お前はいつもそうだ。不機嫌なまま笑顔一つ見せず、僕をののしって蹴ろうとする。こんなご婦人は見たことが無い‥‥‥」
「だからってね、あなたの気分に合わせて、はいはいってうなづくような女がいいなら、そっちに行けばいいじゃない! 人を自分の思うがままにしたいからって、仲間を人質に取るような卑怯な王族。この四百年で見たことないわよ!」
「それが王族の特権だ。お前だって王族の一員、好き勝手してきた覚えはあるだろう?」
「減らず口だけは叩けるのね。そんなセリフ吐くより、わたしに固執するのいい加減やめなさいよ。あなたには断罪はできても、わたしを殺せる者がいないのは明白なのに」
「だから、勇者を用意した。これで、僕も自由の身だ」
「ですから! 書類一枚用意すればそれで済むじゃないですか。どうしてそんなに殺したいのよー、もうやだ‥‥‥」

 それは簡単だ、とナバルは自慢げにうなづいていた。
 先に要件を話してからうなづくのよ、そういう時は! 
 心でいちいち突っ込んでやらないといけないの、この王子バカは! 

 アリスはいらいらしながら、手を出すのを自制する。
 猫もどきはまだこちらをじっと見守っていた。
 そんなこと聞くまでもないだろう、頭の悪い奴だ。王子は説明してやろうと胸を張っていた。

「簡単だ。それでは僕の威厳に傷がつく。断罪し、その愚かさを世間に知らしめることこそ、僕の顔が立つ。そういうものだ」
「それはね、殿下。厚顔無恥って言うんですよ。この人、もう本当にやだーっ」
「失礼なやつだな、アリスよ。まあそんなことはどうでもいい。明日には決着がつくのだから」
「どうでも良くないわよ、この陰湿な性格誰かなんとかしてよ‥‥‥」

 まあ、頑張れと猫もどきが尾を振って応援する。
 あいつ、部屋に戻ったら尻尾の毛をむしってやるんだから!
 しかし、そんなアリスの嘆きは王子には届かない‥‥‥


「それよりも、ここに呼んだ理由だ。二人きりで話したいとは何事かな? もう、お前を抱く気は失せたぞ」
「‥‥‥こっちだってそんなこと願い下げですよ。どうして国王陛下に会わせて頂けないのでしょうか」
「それは‥‥‥お前がグレイエルフだからだ。会わせるわけにはいかない」
「へえ。そうですか。これでも、このアリス・ヒンメル。グレイエルフ六氏族の一氏族ヒンメルの名を持つ女なのですよ。意味をご理解していますか?」
「いいか、アリス。例えお前がグレイエルフの王族の出身であっても、この国では平民以下だ。そんな下賤な女を会わせたとあっては陛下にお叱りを受けるじゃないか‥‥‥」
「だったら、どうして愛をささやいたのですか? お前が好きになったこの人生を捧げてもいいから、どうか側にいてくれないか、なんて。言い出したのは殿下ですよ? わたしは歌を披露したらさっさと帰国するつもりだったのに」

 そうだなあ、と王子は考えこんでいた。普段ならその軽すぎる行動を理由づけるために機転が回る頭は、今夜に限っては不調らしい。
 蹴りの威力が強すぎたかしら?
 アリスは一瞬、不安になりながらその答えを待った。

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