8 / 12
8
しおりを挟む
ちょうど休憩時間が終わり、その日はマッジに会うことはなくマイクは帰宅した。その週の金曜日は月末で、アルバイト代が手に入った。
土曜日になってマイクはフレッドに、あの地域に行くことを告げるべきかどうか迷ったが、嘘はつきたくなかったから正直にしゃべることにした。
フレッドは最初は駄目だと突き返そうかと思った。
だが、雑誌社の配送部で一緒に働いている友人だと聞くと考えを少しばかり改めることにした。マイクのアルバイト先はどこの誰ともわからない人間を雇うような、適当な人選をする会社ではないと知っていたからだ。
「もし何かあれば、すぐに警官に助けを求めるんだ、いいね?」
まだ14歳にしかならない息子を送り出していいものか、一抹の不安はあったがそう教えて送り出すことにした。
マイクが大通りを越えて行くことを心配そうに見つめる警官の視線を背に浴びながら、彼はマッジが教えてくれた122ブロックまで足を運んだ。
道の両脇にはガラの悪そうな黒人たちの集まるパブやバーが軒を連ねていて、一見すると飲み屋街のようにも見えた。どこからか懐かしいブルースを奏でるギターの音色が響いてきた。
緑のビルは一件しかなく、入ろうとすると入り口の階段にたむろしていたニ、三人の黒人の若者に待てよ、と行く手を遮られた。
マッジの友達です……、小さな声でマイクがそう告げると彼らは意外そうな顔をして笑い出した。
マッジの友達?
白人のお前が?
俺たちが黒人なんだぜ?
あいつが友達になるわけないだろ?
そうあざけりを受けたが、同じアルバイト先の仲間です、とそう言うと待ってろと言われた。
一人がビルの奥に引っ込んでいき、マッジを連れてきた。
「こいつ、お前の友達って本当か?」
リーダー格の少年がマッジに問いかける。
「そうだよ、兄貴。今日、友達がくるって言ったろ? こいつ、ブルースが好きなんだよ。ギター買いたいっていうからさ……」
ブルース好きの白人?
それを聞いてその場にいた二人が笑い出したが、マッジの兄という少年に睨まれて黙った。
「ブルース、好きなのか? 何が好きなんだ?」
意外にも真面目な顔をして聞いてくるから、マイクはラジオで繰り返し何度も聞いた曲名をいくつか挙げた。
この曲はこれが切ない、この曲はここが男の情けなさを歌っていてギターがそれを更に心に響かせる、この曲のこのフレーズはどうしても弾けるようになりたい。そうマイクは大まじめに彼に伝えた。
「待ってろ」
マッジの兄は弟と仲間をそこに残すと、一旦、ビルの中へと消えた。
土曜日になってマイクはフレッドに、あの地域に行くことを告げるべきかどうか迷ったが、嘘はつきたくなかったから正直にしゃべることにした。
フレッドは最初は駄目だと突き返そうかと思った。
だが、雑誌社の配送部で一緒に働いている友人だと聞くと考えを少しばかり改めることにした。マイクのアルバイト先はどこの誰ともわからない人間を雇うような、適当な人選をする会社ではないと知っていたからだ。
「もし何かあれば、すぐに警官に助けを求めるんだ、いいね?」
まだ14歳にしかならない息子を送り出していいものか、一抹の不安はあったがそう教えて送り出すことにした。
マイクが大通りを越えて行くことを心配そうに見つめる警官の視線を背に浴びながら、彼はマッジが教えてくれた122ブロックまで足を運んだ。
道の両脇にはガラの悪そうな黒人たちの集まるパブやバーが軒を連ねていて、一見すると飲み屋街のようにも見えた。どこからか懐かしいブルースを奏でるギターの音色が響いてきた。
緑のビルは一件しかなく、入ろうとすると入り口の階段にたむろしていたニ、三人の黒人の若者に待てよ、と行く手を遮られた。
マッジの友達です……、小さな声でマイクがそう告げると彼らは意外そうな顔をして笑い出した。
マッジの友達?
白人のお前が?
俺たちが黒人なんだぜ?
あいつが友達になるわけないだろ?
そうあざけりを受けたが、同じアルバイト先の仲間です、とそう言うと待ってろと言われた。
一人がビルの奥に引っ込んでいき、マッジを連れてきた。
「こいつ、お前の友達って本当か?」
リーダー格の少年がマッジに問いかける。
「そうだよ、兄貴。今日、友達がくるって言ったろ? こいつ、ブルースが好きなんだよ。ギター買いたいっていうからさ……」
ブルース好きの白人?
それを聞いてその場にいた二人が笑い出したが、マッジの兄という少年に睨まれて黙った。
「ブルース、好きなのか? 何が好きなんだ?」
意外にも真面目な顔をして聞いてくるから、マイクはラジオで繰り返し何度も聞いた曲名をいくつか挙げた。
この曲はこれが切ない、この曲はここが男の情けなさを歌っていてギターがそれを更に心に響かせる、この曲のこのフレーズはどうしても弾けるようになりたい。そうマイクは大まじめに彼に伝えた。
「待ってろ」
マッジの兄は弟と仲間をそこに残すと、一旦、ビルの中へと消えた。
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる