237色の旋律

星ふくろう

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 ちょうど休憩時間が終わり、その日はマッジに会うことはなくマイクは帰宅した。その週の金曜日は月末で、アルバイト代が手に入った。
 土曜日になってマイクはフレッドに、あの地域に行くことを告げるべきかどうか迷ったが、嘘はつきたくなかったから正直にしゃべることにした。
 フレッドは最初は駄目だと突き返そうかと思った。
 だが、雑誌社の配送部で一緒に働いている友人だと聞くと考えを少しばかり改めることにした。マイクのアルバイト先はどこの誰ともわからない人間を雇うような、適当な人選をする会社ではないと知っていたからだ。

「もし何かあれば、すぐに警官に助けを求めるんだ、いいね?」

 まだ14歳にしかならない息子を送り出していいものか、一抹の不安はあったがそう教えて送り出すことにした。
 マイクが大通りを越えて行くことを心配そうに見つめる警官の視線を背に浴びながら、彼はマッジが教えてくれた122ブロックまで足を運んだ。
 道の両脇にはガラの悪そうな黒人たちの集まるパブやバーが軒を連ねていて、一見すると飲み屋街のようにも見えた。どこからか懐かしいブルースを奏でるギターの音色が響いてきた。
 緑のビルは一件しかなく、入ろうとすると入り口の階段にたむろしていたニ、三人の黒人の若者に待てよ、と行く手を遮られた。

 マッジの友達です……、小さな声でマイクがそう告げると彼らは意外そうな顔をして笑い出した。
 マッジの友達?
 白人のお前が?
 俺たちが黒人なんだぜ?
 あいつが友達になるわけないだろ?
 そうあざけりを受けたが、同じアルバイト先の仲間です、とそう言うと待ってろと言われた。
 一人がビルの奥に引っ込んでいき、マッジを連れてきた。

「こいつ、お前の友達って本当か?」

 リーダー格の少年がマッジに問いかける。

「そうだよ、兄貴。今日、友達がくるって言ったろ? こいつ、ブルースが好きなんだよ。ギター買いたいっていうからさ……」

 ブルース好きの白人?
 それを聞いてその場にいた二人が笑い出したが、マッジの兄という少年に睨まれて黙った。

「ブルース、好きなのか? 何が好きなんだ?」

 意外にも真面目な顔をして聞いてくるから、マイクはラジオで繰り返し何度も聞いた曲名をいくつか挙げた。
 この曲はこれが切ない、この曲はここが男の情けなさを歌っていてギターがそれを更に心に響かせる、この曲のこのフレーズはどうしても弾けるようになりたい。そうマイクは大まじめに彼に伝えた。

「待ってろ」

 マッジの兄は弟と仲間をそこに残すと、一旦、ビルの中へと消えた。

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