237色の旋律

星ふくろう

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「人はね、ある程度のお金があれば生活ができるんだ。毎日の食事や衣服も帰るし、住むところにも困らない」

 でも、とフレッドは続ける

「それが出来ない人たちもいるんだ」

 例えばあそこにいる彼らのようにね、とフレッドは指差したりはしないが通りの向こう側でたむろしているバイカーや浮浪者たちをそっと見た。
 マイクは父親の肩越しにおそるおそる同じものを見る。

「じゃあお父さん、あの人たちはどうやって生活しているの? 自分のお金で好きなものを買えないんでしょ?」

 フレッドは少し考えて言った。

「マイク、去年の感謝祭(クリスマス)の時に従兄弟のオスカーがきて一緒に祝ったのを覚えているかい?」

 去年の感謝祭?
 マイクの記憶では、オスカーは今年、ミドルスクールの3年になれたと自慢していて年上で、いつもマイクの大事なおもちゃを横取りしては数時間帰してくれない嫌なヤツだった。

「うん……。オスカーは僕のおもちゃをいつも取り上げるんだ。飽きるまで返してくれない。嫌いだ」

 よしよし、とフレッドはマイクの頭を撫でてやる。

「でもね、マイク。オスカーは自分で持ってないから、マイクが持ってるのを羨ましがって遊びたいだけかもしれないよ? ケイトとリチャード(オスカーの両親)はとても厳しいからね」

 うーん、とマイクは考える。

「だったら……」

 何だい? とフレッドは優しく聞き返した。

「オスカーは僕に貸してって言えばいいのに。自分の家にはないから遊びたいんだって」

 フレッドは喜んで微笑んだ。

「そうだね、マイク。それが普通なんだ。でもね、オスカーはそれが出来ない。なぜかわかるかい?」

 マイクは困った顔をした。
 それは多分、オスカーが年下のマイクを子分のように扱って、頼み事をするなんて自分のプライドが許さない。
 そんなふうに考えているからだとフレッドにそっと耳打ちした。そっとだ。

「いい子だね、マイク。それはね、大人も同じなんだ。でも、オスカーのしていることは大人の世界ではとてもいけないことなんだよ。ほら」

 とフレッドは立ち上がり、交差点に立ち並ぶ警官たちを指差した。

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