始まりの聖女の物語

星ふくろう

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「あなたが、魔王ね‥‥‥」
 その言葉は凛として魔王城の玉座の間に響いた。
「そなたが、聖女カイネ、か。忌まわしき人間の王族の犬め!」
 魔王フィオナが段上から多くの仲間の魔族を殺してきたであろう、聖女を見下ろして呪いの言葉を吐く。
 それは、強い魔力を帯びていてカイネの周りを守っていた聖騎士たちを苦しめた。
「オルブ、行きなさい、あなたなら動けるはず!」
 大神ダーシェの加護を受けたカイネの言葉は、聖騎士オルブの魂を鼓舞した。
 カイネの露払いとして常に戦闘を走り戦い続けてきた、聖騎士オルブがまず動いた。
 それに続くように青の三日月団の聖騎士たちが、魔王の近衛兵たちを次々となぎ倒していく。
 中には強い魔力をもって聖騎士を数人倒す魔族もいたが、次々に押し寄せる人間族の兵士の剣や槍に倒れていった。
 魔王城の玉座の間は、魔族の青い血と人間族の赤い血で染まり、不気味などすぐろい色で床を彩った。
 混戦に次ぐ混戦、そして乱戦を重ねる中、親衛隊が魔王にこの場からの撤退を促すが、フィオナはそれを無視してその場に残り、仲間たちの。
 同族であり、血族である同胞たちの勇ましい戦いを最後まで見届けるつもりだった。


 
 同時刻、天上界。
 
 例の円卓の上で、大神ダーシェと海神エストは互いの軍勢の駒の配置がいいだの、ああ、これはまずいだのと言い争っていた。
「まったく、役立たずの魔族め。あれだけの勢力を手にしておきながらー‥‥‥」
 とエストはぼやきはじめる。
「まあ、人間たちとはこうも醜いものだと毎回のように思うが、しかし、国交を結んでいた相手の国にまで攻め込むとは」
 とダーシェは人間の薄情さにあきれていた。
「仕方あるまい。もともと、魔族と人間族は敵対関係。そこに聖女が現れて聖戦の大義名分を掲げられたのではな」
 と、エストが言う。
「まあ、人間同士が殺し合うよりは、他種族の土地を奪い、奴隷を得る方が。打算的と言えば打算的ではるが効率の面から言えば、悪くはないな」
 ダーシェはまあ、いいだろう、とエストを見てニヤリと笑った。
「どうだ、海神殿。今回はわたしの勝ちのようだな?」
 しかし、エストはまだあきらめてはいないようで、
「いやいや、まだ王の駒は討ち取られてはいないぞ大神殿」
 と言ってのける。
「ふむ。しかし、そろそろ決着が着くようだな」
 水鏡に映るのは、聖女カイネが魔王フィオナの魔法攻撃を決死の思いで受け止めて跳ね除けーー
「ああー!」
 と悲し気な声をあげたのはエストだった。
 水鏡の中では、大神ダーシェが聖女カイネに与えた、聖剣デュランダルが閃き。
「はっはー! わたしの勝ちだな! 海神殿!」
 とダーシェが歓喜の声を上げた。
 それは聖剣を持つ、聖女カイネが魔王フィオナの首を一閃し、討伐を果たしたからだった。
「カイネ様!!」
 オルブが歓喜の声を上げた。
 聖剣をその手にした聖女は見事、魔王の首をはね、討伐を果たしていた。
「みな、よくぞここまでわたしに従って戦ってくれた。見よ、ここに魔王は討ち果たした! 聖戦は、大神ダーシェの御加護は、我らに勝利をもたらしたのだ! 大神ダーシェに栄光あれ!」
 聖女は魔王の座していた玉座に立ち上がり、もはや物言わぬその首を片手に掲げて聖戦の終了を告げた。
 オルブを始めとした、青の三日月団の聖騎士たちが男泣きに泣き、生き残った魔族はもはや戦う気力を失い投降を始めた。
 しかし、人間族はそれを認めず、奴隷とする予定だったものも含めて、北の大陸全土の魔族を追いつめた。
 掃討戦という名の、種族を根絶やしにする大量虐殺を敢行した。
 そして半年後。
 聖女カイネは魔王フィオナの塩漬けにした首を手土産に、王都ベィネアへと帰参する。
 そこで待っていたのは盛大な歓待式と、大神ダーシェの神殿での聖女への祝福の儀式。
 各国の騎士団や軍隊は北の大陸で解散し、王都ベィネアへは青の三日月団だけが戻る形となった。
 常に先陣を務めた青の三日月団の聖騎士たちは数を減らしていた。
 当初、十万からいたその一大勢力は三万まで数を減らしており、その全員が王都に入ることはできなかった。
 一部、歓待式に参加するために選ばれたオルブ以下、二千人の聖騎士たちが先を行く。
 聖女として使命を果たしたカイネは、傍らにいだく、フィオナの首を見るたびに満足感を味わっていた。
 そうして青の三日月団は王都への入場を果たし、カイネは魔王の塩漬けにした首を奉納するために一人、ダーシェの神殿の階段を上がっていく。
 神官はそれを出迎え、そして、カイネは聖女として大神ダーシェから新たな神託を受けるはずだった。


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