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第七章 闇の希望と炎の魔神

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 このまま時間稼ぎをされたら、彼等は黙って無理矢理にでも自分だけを外界に連れ出そうとするような気がしてならなかった。
「時間稼ぎ‥‥‥、はダメみたいだぞ、カーティス?
 もう、いいだろう?
 お姫様は自分で行きたいらしい。
 あの魔の巣窟へな?」
 あーあ、ナターシャ。
 そう、後ろでいたカーティスがため息をつく。
 折角、助けてやれると思ったのに。 
 そうすれば、エバーグリーンへの貸しもできたんだが。
 どこまでも打算的な彼等にナターシャは呆れてしまったが、それもどこかで理解できた。
「竜王様御夫妻に、皆さん恐れを抱いているのね‥‥‥。
 魔の巣窟でもいいわ。
 わたしはアルフレッドに借りがあるもの。
 貴方方が貸しを作れると言われたように、それを返さなきゃ」
「やれやれ、本人がそう望むんじゃ仕方ないか。
 アルフレッドはあの先にいる。
 もうすぐ、見えて来るはずだ。
 でも、気を付けろよ?
 あそこにいるのは、この世界を二分した狂気の象徴だからな」
「狂気の象徴‥‥‥???」
 誰かがそっと言った。
 その名前は、真紅の魔女ミレイアだよ、と。
 あの魔女は暗黒神ゲフェトに捕らえられて、来るべき日の為に眠りについている。
 それを妨げないことだ、と。

 魔女ミレイア。
 真紅の髪を持つか、それとも魔法使いの最高位階である真紅の色のことを指しているのかいまは分からない。
 ただ、彼女がかつて大地を割り、火山を噴火させて地下の魔界から魔族を呼び出し‥‥‥人類の三割が住む土地を攻撃して聖者サユキと戦争になった。 
 その伝説だけはナターシャも知っていた。
「神様に魔女に精霊に‥‥‥いまから行く先には鏡の国の王妃様まで。
 世界は複雑すぎるわ」
「かもしれないな?
 で、いいのか‥‥‥?
 俺たちはもう行くぞ?
 来ないのか???」
 最後まで誘ってくれる彼等は、やはりどこかでアルフレッドを助けれないことに負い目を感じているようにナターシャは感じていた。
 去るならば、心おきなく天へと昇って欲しかったから、もうこの世に未練を残さないようにしてあげるのがわたしの役割かもしれない。
 ナターシャはそう思うと、彼等にある指示を下すことにした。
「ねえ、まだお姫様かしら?」
「‥‥‥?
 それはそうだが――??」
 怪訝な顔つきの怨霊たちに、ナターシャは微笑んで命令した。
「なら、最初で最後の命令です。
 お前たち、ご苦労様でした。
 どうか、遺恨を現世に残さずに天へと向かいなさい。
 死神様が迎えに来てくれることを、ナターシャは祈っています。
 さあ、わたしの能力を差し上げます。
 どうか、お元気でー‥‥‥」
 それを聞いて、怨霊たちどこか安心したようだった。
 重荷から解放されたように晴れやかな顔で彼等は光の中へと去って行く。
 振り返るとあのアルフレッドも嘆きの塔もなく、周囲にも髑髏の騎士も誰もいなかった。
「行ってしまった‥‥‥。
 わたしはどこに行けばいいんだろ?」
 そう不安に追われることもなく、やがてナターシャは深い眠りに誘われて気が付くと一人、孤独に暗闇の中を滑り落ちていく最中だった。
「えっ!?
 カーティス!!?
 ‥‥‥いない??
 でも、この速度、どうすれば!?」
 暗黒の中でどこかで手足を突っ張って勢いを殺そうとするが、つるつると滑るばかりで勢いは更に加速していく。
 それは斜めに落ちて行くだけではなく、途中で回転したり、上に高く舞い上がったりとナターシャはもう吐き気とめまい、そして速度への恐怖を抑えるので精いっぱいだった。
 そしてもう無理だと、何度目かの諦めを決めた時だ。
 世界にいきなり光が広がり始め、ナターシャは滑り落ちていたはずなのにどこか知らない世界、知らない部屋に立ち尽くしていた。
「え、待って、無理‥‥‥っ」
 唐突な光の襲来とともにやって来た盛大な嘔吐とめまいがナターシャを更に追い込んで行く。
 こんなとこを誰かに見られたら嫌だと心で思いながら、吐きたいが吐けないまま、少女はその場に倒れこんでしまった。

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