いつか出会う君たちへ

星ふくろう

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第五話 紅河と連環惑星

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 とりあえず、お茶飲もうか?
 と、明日香が熱い紅河のお茶を淹れてくれた。
 暑い中に熱いのを飲ませるのか。
 魔導で空気中の水蒸気を冷やせばいいと思うのだが、そこはしないらしい。

 紅河の人間は冷たい物を嫌うのよと、明日香は言っていた。
 出会った頃の明日香は、一切、冷たい飲み物などを受け付けなかった。
 真夏になり、湿気のあまりにもひどい瀬戸内海気候に、音を上げて遠矢の部屋を頻繁に訪れるようになった。
  もとい、涼みにくるようになってからはアイスコーヒー、アイスクリームと冷たい物はダメなんじゃなかったのか? と思う勢いで順応していた。
 母親の紅河宮廷魔導士、ニーエ・シェナ氏が学院に講師として招聘されてからは、その気も多少の治まりを見せていたがまあ、それはいい。

「苦いなこれ」

「文句言わない」

「はい」

「じゃあ、始めようか。
 とりあえず、私たち紅河の歴史からね。
 まず、私たちの祖先は地球人。
 それも、アジア圏。今の地球の地理で言うなら、ベトナムの北部地方に住んでたと言われてる」

 いきなりの人類宣言に遠矢は驚きを隠せない。

「証拠として秦の始皇帝の支配があったなどの文献が残ってる。もうボロボロの状態だけどね。
 でも、私たちがこのヤオ、線という惑星にやってきてから約3千年の歴史があるの」

「それってつまり」

「うん、多分ね。
 ご先祖様たちは時間と空間を越えて少しだけ過去に連れて来られた。
 なんでそうなったのかなんて、誰もわからない。
 でも、これは事実なの」

 あれ、ちょっと待て。
 確かに人類と紅河人の遺伝子塩基配列は酷似していると習ったけど。

「じゃ、そのフラウ(第三の瞳)はなんなんだ?」

「話に割り込まない」

「悪い悪い」

 これね。
 と、明日香は額を指差す。
 普段は褐色に近いその瞳は、明日香が不機嫌になれば朱く染まり、落ち込むと青く染まるのはよくよく観察するとわかってくる。
 犬の尻尾みたいなもんかと、明日香の機嫌バロメーター代わりに役立っているのは秘密だ。

「フラウは、最初は無かったの」

「無かった?」

「そう。ご先祖様たちは最初はフラウを持ってなかったの。
 人数も多分、数千人くらい。
 その頃地上はツヴァイクがどこにでもいて、ご先祖様たちは何度も戦争を繰り返したと言われてるし。
 ただ、このヤオにご先祖様たちを導いた人。
 それは神仙に連なる人だったとも天帝の意思だったとも言われていて」

 神仙? 
 天帝?

 西遊記で読んだような、つまりは神様になった人間?

「とおクンも本とかで読んだことあるでしょ? 黄帝・道教・老子。
 そういう古代の伝説の存在。彼らのことも伝わってる。
 私たちは道(タオ)と呼ばれる神仙術を使うことで圧倒的な脅威だったツヴァイクと戦い、最初に舞い降りた土地を守ろうとしたの」

「神話を聞いてるような感じだな」

「そう。神話なの。
 神話では私たちはいまの王都ではなく、さっき抜けてきた支柱よりはるか東。
 もともと住んでいたベトナムの大地とよく似た土地に住んでいたと言われてる」

「それがなんで地下に潜ったんだ?」

 とおクンは本物に会ったことがないから分からないけど、とこれまで見せたことのない恐怖を覗かせて明日香は話を続ける。

「ツヴァイクは強いの。
 始祖と呼ばれたご先祖様たちは、いまの私たちの使う魔導よりもっと強い力を持っていたと言われてる。
 そのご先祖様たちでもツヴァイクとは互角には戦えなかった。ツヴァイクの王都はいまは大陸西方にあるけど、彼らもその頃は大陸の東部に近いところに生息していたの」

「そして、北部に移動してきたってことか」

「うん。何千年もかけてね。
 その間、紅河には二回、別の種族との出会いがあったの」

「それは、ツヴァイクとティトか?」

「ううん、違うよ。
 一つはティト。彼らは東北の森林地帯で生きていた種族だった。
 森に住み、世界の裏側に行き来でき、私たちが使うタオとはまた違う魔導を使う種族。  
 地球だと、エルフって呼ばれたりしてるよね。
 長寿で、知恵と寡黙と誠実を重んじる種族。でも、ティトもまた、ツヴァイクの食糧だったの」

「ちょっと待ってな、明日香。
 神仙術とティトの使う魔導の違いってなんなんだ?」

 頭の中が混乱してきた。
 学院で習った魔導は言葉によって自然現象に干渉し、奇跡を起こす。
 その為に必要な術式や数式に近い解式を教えられた。
 でも、ここで話されてきた神仙術やティトの魔導は全く異質な気がする。

「うーん。それは私もよくわからないの」

 おい、ここまで話しておいてそれを言うか。

「じゃあ、ティトの魔導ってのはなんなんだ?」

「ティトはね、妖精と話をするの」

「妖精。それは夢の中の存在じゃなかったか?」

「違うよ。
 妖精は万物に宿る存在。意思を持っていて、火や水や土なんかに存在する。
 でも、こっちにはいないの。別の世界。物理原則の異なる存在の住人。かな」

「難しいな。まあ、見えない神様みたいなもんから力を借りるってことか。
 じゃ、神仙はどう違うんだ?」

「神仙はね、この世界の大きな力。龍脈や動脈と呼ばれる星を動かす力を借りて、奇跡を起こすの。
 世界を超えるか、世界の力を借りるか。
 それが大きな違い」

「なるほど」

 冷え始めたお茶のお替りを要求しながら、相槌を打つ。

「自分で淹れてよ、いろいろ教えたんだから」

 私のもお願い。と指先で合図をする。

「はいはい、お姫様」

 忘れていた。紅河は女性優位。
 男は奉仕する側なのだ。これも訓練訓練‥‥‥。

「では、続きをお願いします」

「宜しいワトソン君」

 お前、いつからホームズになった。
 と、遠矢は心の中で、突っ込みを入れながら聞き耳を立てる。

「分かりやすくティトの技を精霊術とするね。
 で、この世界の力の神仙術と世界の外の精霊術。
 この2つを合わせることでツヴァイクに対抗できないかと古代の人々は考えたのよ」

「まあ、そりゃそうだわな。でも俺、一つ質問なんだけど」

「はい、何かな遠矢くん」

 そんな時だけ名前で呼ぶな。

「神仙術がいまの魔導術よりもはるかに強大な威力を持ってたならーー
 ツヴァイクを蹴散らすこともできたはずだろ?
 いくら数が少ないとはいえ、ツヴァイクはそんなに強かったのか?」

 それは違うのよ。
 明日香は首を振る。

「ツヴァイクはかつて地球に栄えた恐竜の子孫みたいなものなんだけど。あ、爬虫類じゃないから。
 恒温生物だから。でもね、繁殖力が半端ないの」

 あー……。
 数で負けたわけか。
 そりゃ勝てないわな。

「ツヴァイクは馬鹿じゃないの。
 大型から人型まで数種いて、馬を操る人間みたいなものかなー。
 字も操るし、言葉もしゃべる。
 私たちと同じように王家もあって、幾つもの国家にも分かれてる。
 中には紅河と同盟を組んでる王国もあるの。
 それにツヴァイクはーー」

「ツヴァイクは?」

「頂点に君臨しているオルガと呼ばれる種族は、重力を操るって言われてる。
 空に浮かんでた星があったでしょ?」

 あーあの青い星か。

「あの星はメイって言うんだけど。メイには魚竜なんか問題にならないくらい巨大な海生類がいるの。
 メイの人々は幾つかの大陸を天空に浮かべて、独自の文明を維持してる。
 天空回廊を使ってヤオに降り立った数名のツヴァイクが重力を操る方法を持ち帰ったって言われてる」

「なんで天空回廊?
 天空回廊は紅河の王都にあるんじゃなかったのか?」

 明日香は悲しそうな顔をする。

「さっき言ったでしょ。
 ツヴァイクのうち、幾つかの王国は紅河と同盟を結んでるって」

 同盟とそれとどう重なる?
 いまいち要領を得ないなと思いつつ、とりあえず最後まで聞いてみよう。

「言ってたな」

「紅河にも幾つかの王国があるの。
 王国というよりは、属州なんだけど。
 そうやって幾つもの王国があると、政略結婚なんてこともあると思わない?」

「そりゃー、、、あるだろうけど。
 異種族間で出来るのか、子供?
 地球だと、もし、人間と馬や豚なんかとセックスしても子供は生まれないぞ?」
 遺伝子的に不可能だろ、それ。

 と、地球的常識が遠矢の頭を支配する。

「じゃあ、もし、メイやヤオの幾つかの知的種族の原点が全部同じところから生まれたとしたら?」

「おい、その発想はなかったぞ。
 つまり、遺伝子配列は似たもので、子孫を異種族間で残すことも出来た、と?」

 うんうん、その通り、と明日香は嬉しそうに首を縦に振る。

「つまり、ツヴァイクの同盟外にある国家群は人類やティト以上の個体と重力操作。
 なんてとんでも技術をもっていて、食糧として人類やティトを捕食する、と」

 どうやって生きてきたんだ、この星の人類ーー。
 しかも、いま現在もその生存競争は行われてる訳で。
 俺、地球に生まれて良かった‥‥‥
 心底、そう思う遠矢だった。
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