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第三章 いざ、ダンジョン攻略へ
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階段をあがりながら、ふとアリスティアは夫に声をかけていた。
「ねえ、アルバート?」
この状況はダンジョン攻略よりまるで、新婚旅行だな。
そう思いながら、アルバートは振り返る。
「どうしたんだい、アリスティア?」
妻は、なんだかとても言えない秘密を打ち明けるような。
そんな顔つきをしていた。
どうしたんだろうか?
アルバートはなんとなく、不安を抱いた。
アリスティアはまた何か自分で言えないことを抱え込んでいるのではないか、と。
自分たちは似た者同士だな、そうアルバートは思い始めていた。
そして飛び出る、意表を突く言葉。
「あなた、人を殺したことは‥‥‥ある?」
ズルっ、と階段からずり落ちそうになったアルバートは、慌てて数段下にいる妻に駆け寄る。
彼は魔眼でなにかのトラップがないかを確認しながら、先行していたからだ。
「いきなりなにを言い出すんだい!?
どうしたのさ、アリスティア。
リアルエルムからもらった記憶に共鳴するものでもあったのかい!?」
それならなんとかして、共鳴を解かなきゃ君まで心が苦しんでしまう。
慌てふためく夫に、アリスティアは冷静に言った。
「ううん、違うの。
そんな心配なんて要らないのよ、アルバート。
それに関しては問題は無いの」
「なら、なんでそんなことを言い出すのさ!?」
アルバートは抱いていた不安が途端に大きく膨らみ始めたことに気づいた。
アリスティアは‥‥‥少なくとも数人は殺して来たのだ。
その事実に。
彼は気づいてしまった。
アリスティアはアルバートの胸に頭を預けて、さみしそうに理由を語る。
「だって、あの時言ったじゃない。
エイシャ様をあなたが医務室で倒した時に。
祖国から送り込まれた暗殺者アリスティア様、って」
わたしーと、彼女が詳細を話だそうとした時だった。
アルバートが無理矢理、その唇を奪ったのは。
えっ!?
そう、アリスティアは困惑する。
だって、自分は汚い殺し屋で、彼に愛される資格なんてないのに、と。
そう本気で心の底では思っていたからだ。
彼を振り払おうとしても、魔族の自分を抑えつけるその力がどこから出てくるの?
そう言いたくなるほどに、夫は乱暴に妻を抱きしめていた。
長い長い、口づけの後に、ようやく満足したのかアルバートはアリスティアから顔を放した。
「‥‥‥言うな」
「え?
だって‥‥‥」
短い、けれど夫して初めて発した命令に、アリスティアはどう反応していいかわからなかった。
「あるよ。
あるから、僕は汚い。
だけど、君は言うな。
君の過去には興味なんてない。
いまのアリスティアが、僕の妻だ。
僕だけの、アリスティアだ。
だから、言うな‥‥‥僕も、過去には戻らない」
約束する。
必ず、最後まで、死ぬまでそばにいる、と。
アルバートはそう言うと、アリスティアに背を向けて階段を登り始めた。
君はなにも言わなくていい。
全ては僕が背負うから。
アルバートの背中は、そう語っている。
アリスティアにはそう見えた。
「ねえ、アルバート?」
この状況はダンジョン攻略よりまるで、新婚旅行だな。
そう思いながら、アルバートは振り返る。
「どうしたんだい、アリスティア?」
妻は、なんだかとても言えない秘密を打ち明けるような。
そんな顔つきをしていた。
どうしたんだろうか?
アルバートはなんとなく、不安を抱いた。
アリスティアはまた何か自分で言えないことを抱え込んでいるのではないか、と。
自分たちは似た者同士だな、そうアルバートは思い始めていた。
そして飛び出る、意表を突く言葉。
「あなた、人を殺したことは‥‥‥ある?」
ズルっ、と階段からずり落ちそうになったアルバートは、慌てて数段下にいる妻に駆け寄る。
彼は魔眼でなにかのトラップがないかを確認しながら、先行していたからだ。
「いきなりなにを言い出すんだい!?
どうしたのさ、アリスティア。
リアルエルムからもらった記憶に共鳴するものでもあったのかい!?」
それならなんとかして、共鳴を解かなきゃ君まで心が苦しんでしまう。
慌てふためく夫に、アリスティアは冷静に言った。
「ううん、違うの。
そんな心配なんて要らないのよ、アルバート。
それに関しては問題は無いの」
「なら、なんでそんなことを言い出すのさ!?」
アルバートは抱いていた不安が途端に大きく膨らみ始めたことに気づいた。
アリスティアは‥‥‥少なくとも数人は殺して来たのだ。
その事実に。
彼は気づいてしまった。
アリスティアはアルバートの胸に頭を預けて、さみしそうに理由を語る。
「だって、あの時言ったじゃない。
エイシャ様をあなたが医務室で倒した時に。
祖国から送り込まれた暗殺者アリスティア様、って」
わたしーと、彼女が詳細を話だそうとした時だった。
アルバートが無理矢理、その唇を奪ったのは。
えっ!?
そう、アリスティアは困惑する。
だって、自分は汚い殺し屋で、彼に愛される資格なんてないのに、と。
そう本気で心の底では思っていたからだ。
彼を振り払おうとしても、魔族の自分を抑えつけるその力がどこから出てくるの?
そう言いたくなるほどに、夫は乱暴に妻を抱きしめていた。
長い長い、口づけの後に、ようやく満足したのかアルバートはアリスティアから顔を放した。
「‥‥‥言うな」
「え?
だって‥‥‥」
短い、けれど夫して初めて発した命令に、アリスティアはどう反応していいかわからなかった。
「あるよ。
あるから、僕は汚い。
だけど、君は言うな。
君の過去には興味なんてない。
いまのアリスティアが、僕の妻だ。
僕だけの、アリスティアだ。
だから、言うな‥‥‥僕も、過去には戻らない」
約束する。
必ず、最後まで、死ぬまでそばにいる、と。
アルバートはそう言うと、アリスティアに背を向けて階段を登り始めた。
君はなにも言わなくていい。
全ては僕が背負うから。
アルバートの背中は、そう語っている。
アリスティアにはそう見えた。
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