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第一章 失われた竜使い
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「エリス。
命じるまではこれまで通りに振る舞うんだ。
僕に造反する行為も仕方ない。
僕がある言葉を言うまでは、ね?」
「はい‥‥‥御主人様
あの、お願いがー‥‥‥」
「願い?」
今更なんの願いだ?
もう僕に残された時間は少ないのに。
そう思いながらも聞いてみることにした。
「許可を。
どうか、旦那様と、アシュリーが用意してくれたというその場所で過ごす許可をー‥‥‥」
許可、か。
確かに、竜族が側にいれば母親も弟もある意味、最高の警護を得たことになる。
だが、それはアルバートの中では成立しない方程式だった。
「ダメだ」
「‥‥‥え?
だって、その為に居場所をってーー」
エリスの両目からは大粒の涙が溢れ出る。
なぜ、愛する人の側にいさせてくれないのですか、と。
「その愛は作り物だからさ、エリス。
君は作られた舞台の上でその役を演じていたにすぎない。
その身に宿した子すら、道具だったのだから」
「でもー‥‥‥」
「来週の」
そう、アルバートは告げる。
「来週の晩餐会」
「それが‥‥‥何か?」
言うべきか?
だが、その種が今度は新たな不和を生むことは間違いがない。
「さっき、堕胎の魔法があるといったな、エリス?」
「まさ、か‥‥‥」
「答えろ、あると言ったな?」
間に合わないというなら、その子をそれまでに取り出すだけだ。
その胎内から。
そうアルバートは悪魔にしかできない視線をひんやりとしたそれをエリスに叩きつける。
「あり‥‥‥ます。
晩餐会にも間に合います、今からでもー‥‥‥」
嘘は付けない。
そして、逃れることもできない。
憎しみが竜公女の心と血とその両方をたぎらせていた。
ここで竜に戻り、この男を殺してやりたい。
だがーそれはかなわない。
竜という、古代に作り出された種の制御機能がそう告げていた。
支配からは逃れられないと。
「‥‥‥このことがここにいる三人だけの秘密なら、僕もそれを守れたのにな」
残念だ。
駒を減らさなければならなくなるなんて。
「アデル」
「は‥‥‥?」
「僕が晩餐会でそれと唱えたらーー」
それはさっき命じたある言葉。
そして、最も、エリスが悲しむ命令でもある。
言われたその内容に、竜公女は恐怖し、助けを求め、そして、それはどこにもないと自覚し‥‥‥
ただ静かにうなづいた。
「なら、帰りなさい。
もう、遅いから」
失礼します、そういい再度飛び立とうとしたその背中に、何よりも冷たい言葉が突き刺さった。
「その子供はアシュリーの子だよ、エリス。
僕は、今夜以外、君を抱き寄せたことはない。
これは本当だ」
と。
竜公女は涙を流しながらその場を去って行った。
「さて、それが本当かどうかは。
僕のみぞ知る、か‥‥‥」
アルバートはそう言うと、深夜の訪問客が開け放したままの窓を閉めた、
命じるまではこれまで通りに振る舞うんだ。
僕に造反する行為も仕方ない。
僕がある言葉を言うまでは、ね?」
「はい‥‥‥御主人様
あの、お願いがー‥‥‥」
「願い?」
今更なんの願いだ?
もう僕に残された時間は少ないのに。
そう思いながらも聞いてみることにした。
「許可を。
どうか、旦那様と、アシュリーが用意してくれたというその場所で過ごす許可をー‥‥‥」
許可、か。
確かに、竜族が側にいれば母親も弟もある意味、最高の警護を得たことになる。
だが、それはアルバートの中では成立しない方程式だった。
「ダメだ」
「‥‥‥え?
だって、その為に居場所をってーー」
エリスの両目からは大粒の涙が溢れ出る。
なぜ、愛する人の側にいさせてくれないのですか、と。
「その愛は作り物だからさ、エリス。
君は作られた舞台の上でその役を演じていたにすぎない。
その身に宿した子すら、道具だったのだから」
「でもー‥‥‥」
「来週の」
そう、アルバートは告げる。
「来週の晩餐会」
「それが‥‥‥何か?」
言うべきか?
だが、その種が今度は新たな不和を生むことは間違いがない。
「さっき、堕胎の魔法があるといったな、エリス?」
「まさ、か‥‥‥」
「答えろ、あると言ったな?」
間に合わないというなら、その子をそれまでに取り出すだけだ。
その胎内から。
そうアルバートは悪魔にしかできない視線をひんやりとしたそれをエリスに叩きつける。
「あり‥‥‥ます。
晩餐会にも間に合います、今からでもー‥‥‥」
嘘は付けない。
そして、逃れることもできない。
憎しみが竜公女の心と血とその両方をたぎらせていた。
ここで竜に戻り、この男を殺してやりたい。
だがーそれはかなわない。
竜という、古代に作り出された種の制御機能がそう告げていた。
支配からは逃れられないと。
「‥‥‥このことがここにいる三人だけの秘密なら、僕もそれを守れたのにな」
残念だ。
駒を減らさなければならなくなるなんて。
「アデル」
「は‥‥‥?」
「僕が晩餐会でそれと唱えたらーー」
それはさっき命じたある言葉。
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ただ静かにうなづいた。
「なら、帰りなさい。
もう、遅いから」
失礼します、そういい再度飛び立とうとしたその背中に、何よりも冷たい言葉が突き刺さった。
「その子供はアシュリーの子だよ、エリス。
僕は、今夜以外、君を抱き寄せたことはない。
これは本当だ」
と。
竜公女は涙を流しながらその場を去って行った。
「さて、それが本当かどうかは。
僕のみぞ知る、か‥‥‥」
アルバートはそう言うと、深夜の訪問客が開け放したままの窓を閉めた、
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