インペリウム『皇国物語』

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episode2 『ユーロピア共栄圏』

24話 小さな幸せのために(挿絵アリ)

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 ケンタウロスのハーフェルの牽引する馬車は更に速度を増していく。後方からしぶとく追従してくる野盗に対して弓矢での迎撃を行なうセルバンデス。馬車から野盗の駆る馬へ飛び乗り奪取したシャーナル皇女は騎馬と細剣で応戦。

 御者席でシャーナル皇女の使っていた弓矢を使うラフィークと各々応戦して入り乱れる様はまさに戦場そのもの。そんな中、ロゼットは馬車の荷物にあった花火の存在を思い出して近くに火元になるものを探す。馬車が跳ね上がった瞬間に荷物に紛れていた火打ち石が彼女の目の前を転がった。

「花火ありましたよね!?」とロゼットがラフィークに問うと「おいおい、まさか…」と彼が言い切る前に火打ち石で火種を作り導線に着火。

「おい! 駄目だ!! そいつはフローゼルで使う商品なんだぞ!!」

「そんなこと言っていられる状況じゃないでしょ!!」

 ラフィークの静止の声にロゼットは語気を荒げて反論。弓を扱えないロゼットにはこれくらいしか迎撃の術がない。着火させた花火を馬車後方から野盗に狙いを定める。

「ロゼット様! 危険ですお下がりください!!」

「私にもこれくらいのことは出来ます! 一人で無茶しないでください!」

 ロゼットとセルバンデスによる防衛が敷かれる中、シャーナル皇女は巧みに馬を扱い次々と野盗を討ち取っていく。

(これで三つ…残りは…)

 視線を他へと移した際に隙を突かれ、両脇から挟み込まれる形になる。だがー…その直後、片側の野盗の身体を大槍が貫きそのまま馬共々荒れた大地に叩きつけられる。

 勢いに乗ったまま野盗を貫いたから槍を一瞬にして引き抜き追ってくる姿を確認する。二足歩行で追ってくるその速度はケンタウロスに匹敵するかのような速さで蹄とは違う軽快な足音。

 刀剣のように鋭利で独特な形の鉤爪に鋭くそして澄んだ眼、その姿はまさしく太古に絶滅したとされている生き物そのものであった。

「恐竜…!?」

 夜の暗闇で正確な姿かたちは見えないがそのシルエットはまさしく恐竜そのもの。息を呑むように呟くロゼットに対してその恐竜に跨り先ほど引き抜いてきた槍を持った戦士は冷静に野盗を制しながらシャーナル皇女の元へと近づく。
 
 その姿もまた恐竜のような顔つきに鋭い目を持っていたがその風貌はどこか人間を感じさせるものでもあった。

「この先に橋がある! そこまでなんとか持ちこたえろ! 拙者も援護致す」

「援護感謝する!」シャーナル皇女は感謝の意志を表す。

 戦士はそう告げると今度は馬車の方へと駆けてゆく。

(リザードマン…なぜこんなところで?)





 ふと疑問に思うシャーナル皇女ではあったがこの際援護として加勢してくれるなら誰でも良かった。ともかくこの状況をなんとか切り抜けることだけに集中する。

 そしてロゼットの着火した花火からようやく火が噴出し、野盗に向けて甲高い音を出した後豪快な轟音を炸裂させる花火が何発も絶え間なく打ち込まれ続ける。

「わわっ! 凄っ…!? なにこれ…連射式の花火!?」

 制御がかろうじて利いているような状態にセルバンデスとラフィークが射るより早い連射速度で放たれ続ける花火に後続の野盗は驚嘆し怯み、大砲かと思わんばかりの勢いに次々と馬が興奮状態となって落馬していく。

「無茶苦茶撃ちやがって!! 連中なんてもの飛ばしてきやがる!? くっそ…!!」

 後続で身動きがとれず四苦八苦する野盗を横目に先ほどの戦士は今度はハーフェルに声をかける。

「ケンタウロス! この先の橋が見えるだろう!?」

「ああ、さっきから視界に入っている」

「その橋を爆破で落として進路を無くす!それまでにたどり着けるか?」

 橋を爆破するという会話に動揺するラフィーク。
 しかしハーフェルは「爆破前に越えればいいのだろう?」と冷静に返しそのままの勢いで橋に向かっていく。ラフィークに対して腹を括れと覚悟を決めさせるハーフェルに彼は答えそのままの勢いで突っ込めと改めて指示をする。

 恐竜の戦士は後方に乗っているロゼットたちの安否を確認するとロゼットのような娘が乗っていたことに驚きセルバンデスに彼女の身を守るように指示する。

「ありがとう! リザードマンさん!」と返すロゼット。

「拙者はドラゴニアンのアーガスト!」

 そう返ってきたために訂正し改めてロゼットはお礼を返した。戦士は一層甲高く響き渡る鳴き声を断続的に行ない、橋の向こう側にいる仲間に合図を送り始めた。

 橋を越えた先でその合図を聞いた戦士の仲間と思われる屈強な肉体を持つオークは爆破準備に取り掛かっていた。

 野盗も必死となって彼らに追いつこうとするがその差が縮まることはなく、シャーナル皇女と恐竜を駆るドラゴニアンのアーガストの連携によって駆逐されていく。馬車は爆破前になんとか橋を越えることが出来、シャーナル皇女とアーガストが橋を渡る最中アーガストの「飛べ!」という合図と共に爆破と同時に激しい音を立てて橋が崩れゆく。

 衝撃で巻き起こった煙の中からからシャーナル皇女の乗った馬がギリギリ飛び移り、恐竜の高い跳躍力を生かして飛び移るアーガスト。

 それに追従しようと飛び移ってこようとする野盗も何人かいたが飛び移ることが出来ずに次々と崖下へと落ちてゆく。

 燃えゆく橋であった跡地を野盗は眺めることしか出来ず。ロゼット達は橋を渡りきったあとに爆破したことに気づきアーガストに近くに小さな集落があるとそこへ案内されることとなった。

 ◇

 道中で私達は互いに挨拶を交わしていた。ドラゴニアンの『アーガスト・ドラゴニアス』と橋の爆破を行なった黒緑の体色に岩のように硬く屈強な肉体を持つオークの『マディソン・ゴンドワナ』の二人の戦士。

 彼らは元々このユーロピア大陸を渡り歩き、現在はドラストニア領地にて義勇兵として野盗の討伐を行なっているそうであった。二人の付き合いは長くアーガストさんのことをオークのマディソンさんは兄と呼び慕っている様子だった。

「この子はなんていう名前なんですか?」

 私は気になっていたあの恐竜について質問していた。近くで見て始めて知ったが後頭部から首にかけて長い毛並みのような体毛も生えていて爬虫類のような鱗に哺乳類や鳥類の持つ毛並みを併せている。

 こうして見ると私達人間と全く異なった生き物というわけではないんだなと感じる。

 澄んだ鋭い目つきをしているが平時は大人しく時折見せる首を傾げる動作がまた可愛く感じ瞬く間に虜となってしまっていた。

「拙者の相棒の『サルタス』、生まれた頃から世話をしているから拙者の言うことには忠実」

「地竜種ですな。小型のニクス族は数が少ないので非常に珍しいですね」

 セルバンデスさんは学者のような意見でサルタスのことを見ながら感想を述べていた。物知りのセルバンデスさんでも見たことのない実物を目の前にして好奇心が沸き立っているようにも見えた。シャーナル皇女も彼らを見てオークとドラゴニアンという組み合わせに珍しいと述べる。

「それを申されるのであれば貴殿らもであろう」と返すアーガストさんの言葉に合わせるようにマディソンさんも続ける。

「人間の大人と子供、ゴブリン、ケンタウロスときたら俺達から見ても異色な組み合わせだぜ?」


 それに対して「こっちにも事情があってな、とりあえず寝床が欲しいね」と気楽な声で返事をするラフィークさんの言葉の後に集落にたどり着く。

 集落は本当に僅かな人々の小さな集まりで簡素な木造建築の家々に十名ほどの人々によって構成されていた。

 アーガストさんたちが私達を連れて集落へ戻ってきたことで住民の人々は驚きを見せてはいたものの野盗の襲撃に遭っていたことを告げると大層心配してくださった。集落には子供も何名かいて私よりも年下で五、六歳ほどに見えた。

 集落の代表と思われるお年寄りが近年の野盗の増加に伴いこの地域の治安も穏やかではなくなってきているとセルバンデスさんたちの話声が聞こえてくる。

「我々も軍の人材を派遣させて治安維持も行なっていますが現状では皆さんにも苦しい思いを強いてしまい大変申し訳ない」

 私達がドラストニアの王都からやってきた使者だと知り、国の努力に対しても理解を示しているとの集落の人々は口々に言っていた。

 アーガストさんやマディソンさんのおかげで現状は何とかなっているとも話しており、フローゼルとの同盟間での問題棚上げにされていたためか関所では両国間でピリついた雰囲気が出始めて心を痛めていたそうで今回の訪問でそれが緩和されることを切に願うと。

 誰だって戦争なんてしたくない、それはみんな同じ気持ちだと改めて知らされた。大人たちの会話を少し遠くから眺めているところをマディソンさんの声が耳に入る。

「お前達みたいな小さな命を守るために俺達は戦ってるんだ。そんな難しい顔するんじゃなくてもっと堂々と自由にしてればいいんだよ。特に嬢ちゃんみたいな子はな」

堂々とした風貌でマディソンさんはそう語る。

「マディソンさんオークで大きな体と怖そうな顔なのに優しいんですね」

 ちょっとからかうように返すと「オークっつっても戦うことばかりが能じゃないんだぜ、覚えときな」と笑顔で返してくれる。

 私の考えていることがなんとなくわかっていたのかそう言ってくれるマディソンさんに笑顔で返す。小さな幸せのためにもみんな精一杯生きているんだと夜空を見ながらそう思う。

 なんとか寝床を借りることが出来各々今日の出来事に対して吐露しつつも身体を休めることにした。

 私はというとまだ就寝につけずに卵のことが気になり始めていた。肌身離さず持ちながら中から時折、音がしていることになんとなく気づいてはいたものの襲撃の最中でそれがより強くなり、もしや生まれるのではないかとアーガストさんの元へと持っていくことにした。

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