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Epilogue...2018/8/1
来訪者
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その静かな世界に、今年も夏は訪れる。
何もかもが埋もれた時間を止めたままの箱庭。生者の気配など感じられないその箱庭に、けれども生き続ける者がいた。
満生総合医療センター跡。郊外にしては場違いなほど大きな病院として注目を浴びたこともあった施設跡の中に、地下へ続くエレベーターが存在する。あれ程の災害が起きたにも関わらず、病院周辺の電気系統は現在も生きており、エレベーターもまた稼働していた。
箱は、深く地下へと潜る。
やがて軽快な音が到着を示し、扉は開かれた。
医療との関連性を見出せないような、不可思議な装置が並ぶ地下室。そこは幾つもの区画分けがされ、それぞれのスペースで何やら研究がなされていたことを想像させる。
そして、メインホールと思われる場所には、高度な認証システムの導入された重厚な扉が待ち構えていた。
かつては侵入者を固く拒んでいたセキュリティ。ただ、今だけはその機能も解除されている。それは一時の邂逅のため。奇異な事象を共有する者たちの道が、交わるため。
マイクロチップによる認証システムは、合わせて三つ存在する。扉の先にはまた扉。三つの扉を抜けてようやく、彼らは地下に秘匿された最も重要な地点へと辿り着くのだった。
そこには、集中治療室のように多くの医療器具と、真ん中に大きなベッドが置かれていた。そして、ベッドの中で静かに眠る一人の女性と、隣でそれを見守る一人の男が、まるで一枚の絵であるかのように静止したままでいた。
「……初めまして」
部屋に足を踏み入れた彼は、ベッドを覗き込むやつれた男に挨拶する。その声でようやく気付いたのか、男はゆっくり彼らの方を向き、軽く会釈をした。
「ああ……初めまして。まさか、来てもらえるとは」
「僕らとしても、この件を放置してはおけないと思ったものでして」
彼は相手を安心させようと微笑んで、ゆっくりと近づいていく。寄り添うように佇んでいた女性も、その後に続いた。
「この人が……」
「……そう。彼女が目覚めなくなってから、もう六年が経つ。長かったような短かったような、とても虚な日々だったよ」
「……なるほど」
彼は眠り姫を見つめたまま、小さく頷いた。
「……杜村双太さん、で間違いないですね。そしてこちらが……久礼満雀さん」
「ああ。君たちも、どんな子だろうかと想像を巡らせていたけれど……一目で分かったよ。乗り越えてきた子たちなんだと」
杜村は、弱々しいながらも笑みを浮かべた。それは、彼が僅かでも希望を抱いている証に違いなく。
二人は告げる。ここに来た意味を。ここで為すべきことを。
これまでの旅路を振り返りながら。
「遅ればせながら、こちらも自己紹介を。僕は遠野真澄、彼女は光井明乃です。この満生台に起きている事象――記憶世界の解放のため、力添えをしに参りました」
――そして物語は、終幕に向かって動き始める。
Third episode
-Ghost of miniature garden-
The end.
And
Continue to the Final episode
-Dream of miniature garden-
Thank you for reading.
何もかもが埋もれた時間を止めたままの箱庭。生者の気配など感じられないその箱庭に、けれども生き続ける者がいた。
満生総合医療センター跡。郊外にしては場違いなほど大きな病院として注目を浴びたこともあった施設跡の中に、地下へ続くエレベーターが存在する。あれ程の災害が起きたにも関わらず、病院周辺の電気系統は現在も生きており、エレベーターもまた稼働していた。
箱は、深く地下へと潜る。
やがて軽快な音が到着を示し、扉は開かれた。
医療との関連性を見出せないような、不可思議な装置が並ぶ地下室。そこは幾つもの区画分けがされ、それぞれのスペースで何やら研究がなされていたことを想像させる。
そして、メインホールと思われる場所には、高度な認証システムの導入された重厚な扉が待ち構えていた。
かつては侵入者を固く拒んでいたセキュリティ。ただ、今だけはその機能も解除されている。それは一時の邂逅のため。奇異な事象を共有する者たちの道が、交わるため。
マイクロチップによる認証システムは、合わせて三つ存在する。扉の先にはまた扉。三つの扉を抜けてようやく、彼らは地下に秘匿された最も重要な地点へと辿り着くのだった。
そこには、集中治療室のように多くの医療器具と、真ん中に大きなベッドが置かれていた。そして、ベッドの中で静かに眠る一人の女性と、隣でそれを見守る一人の男が、まるで一枚の絵であるかのように静止したままでいた。
「……初めまして」
部屋に足を踏み入れた彼は、ベッドを覗き込むやつれた男に挨拶する。その声でようやく気付いたのか、男はゆっくり彼らの方を向き、軽く会釈をした。
「ああ……初めまして。まさか、来てもらえるとは」
「僕らとしても、この件を放置してはおけないと思ったものでして」
彼は相手を安心させようと微笑んで、ゆっくりと近づいていく。寄り添うように佇んでいた女性も、その後に続いた。
「この人が……」
「……そう。彼女が目覚めなくなってから、もう六年が経つ。長かったような短かったような、とても虚な日々だったよ」
「……なるほど」
彼は眠り姫を見つめたまま、小さく頷いた。
「……杜村双太さん、で間違いないですね。そしてこちらが……久礼満雀さん」
「ああ。君たちも、どんな子だろうかと想像を巡らせていたけれど……一目で分かったよ。乗り越えてきた子たちなんだと」
杜村は、弱々しいながらも笑みを浮かべた。それは、彼が僅かでも希望を抱いている証に違いなく。
二人は告げる。ここに来た意味を。ここで為すべきことを。
これまでの旅路を振り返りながら。
「遅ればせながら、こちらも自己紹介を。僕は遠野真澄、彼女は光井明乃です。この満生台に起きている事象――記憶世界の解放のため、力添えをしに参りました」
――そして物語は、終幕に向かって動き始める。
Third episode
-Ghost of miniature garden-
The end.
And
Continue to the Final episode
-Dream of miniature garden-
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