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Fourteenth Chapter...8/1
束の間の再会に
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「む……」
はたとオヤジの足が止まった。どうしたのかと近づいてみたが、オヤジはじっと前を見ている。
「何かあったのか?」
「いや……誰かがこの辺りを通ったらしいな」
どうやら草を踏み締めたような真新しい痕跡があり、それは三叉路の奥へと続いているようだった。
……この先にあるのは。
「ちょっと待っててもらってもいいか?」
「ああ、構わんが」
俺は礼を言い、なるべく早足で奥へ向かった。この先にあるのは秘密基地だ、いるとすれば龍美か玄人のどちらかだろう。
垂らされた蚊帳の中。見えた人影は少年のもの。
ああ、どれくらい久しぶりなんだろう。
そこには、パソコンを立ち上げ作業をしている玄人の姿があった。
玄人は、知らない間にパソコンを操作した痕跡があるからか、首を傾げたり、何だよと呟いたりしている。姿を眩ました俺や龍美のことを想起してくれているに違いない。
あいつには、心配をかけすぎてしまった。
「……玄人」
俺がその名前を呼ぶと、彼は驚きに身を震わせ、こちらを振り向いた。
「……虎牙」
その顔がとても弱々しいもので、けれど心からの安堵を示すものでもあって、俺は溢れ出す思いを隠すように、
「……っはー。相変わらず、情けない顔してやがんな」
なるべくいつもの調子を崩さないよう、あえて皮肉のような言葉を選んだ。
……玄人。置き去りにした過去を思い出す親友。性格も容姿も、あの日の外鯨に似て、胸がチクリと痛くなる。
それだけが悔いならば、せめてこの新しい生き方においてはずっと笑っていられるように。俺は玄人を気にかけてきた。
だからこの瞬間も、一番納得できる言葉を悩みながら紡いだ。
「……久しぶりだな」
玄人は、今までの我慢を全てぶつけるように言葉を重ねてきた。俺も精一杯、その言葉に答えを返した。俺や龍美が巻き込まれてしまった事件の深い部分は告げられないとしても、何とか理解してもらえるよう、誠実に。
必ず無事で帰るとだけは明言できなかったけれど……そうしたいとはもちろん心の底から思っている。そもそも、俺たちがうまく事を運べなければ、街そのものが危うい可能性も高いのだから。
代わりにと言っては何だが、玄人には満雀ちゃんのことを頼んだ。俺や龍美が事件と対峙している現状、そちらは玄人に任せるほかないだろう。玄人は悩ましげな表情をしながらも、最終的には分かったと頷いてくれた。
「俺が言いたくなったことはそれだけだ。じゃあ、またそのうち会おうぜ。ひょろいんだから、体調崩すなよ」
話すべきことは全て話し、俺は別れを告げる。こういう台詞も、あっさりしていた方がいい。ただ、玄人はそこで俺を呼び止め、
「何だ?」
「……ありがとう」
その感謝の言葉に、俺は胸が熱くなるのを確かに感じた。
「……おう」
照れ臭さが表情に出ないうちにと、俺は踵を返して彼の元を立ち去った。……俺だって感謝しているさ。お前は、消えないはずだった俺の傷を、僅かでも癒してくれる存在なのだから。
けれど、それは傷を広げる可能性もあるということであって。そんな未来だけは、今度こそあってはならないのだ。
秘密基地を抜け、待っていてくれたオヤジに感謝し、山を下りる。
一度だけ振り返ると、四人揃って歩いた日々の光景が刹那、蘇った。
はたとオヤジの足が止まった。どうしたのかと近づいてみたが、オヤジはじっと前を見ている。
「何かあったのか?」
「いや……誰かがこの辺りを通ったらしいな」
どうやら草を踏み締めたような真新しい痕跡があり、それは三叉路の奥へと続いているようだった。
……この先にあるのは。
「ちょっと待っててもらってもいいか?」
「ああ、構わんが」
俺は礼を言い、なるべく早足で奥へ向かった。この先にあるのは秘密基地だ、いるとすれば龍美か玄人のどちらかだろう。
垂らされた蚊帳の中。見えた人影は少年のもの。
ああ、どれくらい久しぶりなんだろう。
そこには、パソコンを立ち上げ作業をしている玄人の姿があった。
玄人は、知らない間にパソコンを操作した痕跡があるからか、首を傾げたり、何だよと呟いたりしている。姿を眩ました俺や龍美のことを想起してくれているに違いない。
あいつには、心配をかけすぎてしまった。
「……玄人」
俺がその名前を呼ぶと、彼は驚きに身を震わせ、こちらを振り向いた。
「……虎牙」
その顔がとても弱々しいもので、けれど心からの安堵を示すものでもあって、俺は溢れ出す思いを隠すように、
「……っはー。相変わらず、情けない顔してやがんな」
なるべくいつもの調子を崩さないよう、あえて皮肉のような言葉を選んだ。
……玄人。置き去りにした過去を思い出す親友。性格も容姿も、あの日の外鯨に似て、胸がチクリと痛くなる。
それだけが悔いならば、せめてこの新しい生き方においてはずっと笑っていられるように。俺は玄人を気にかけてきた。
だからこの瞬間も、一番納得できる言葉を悩みながら紡いだ。
「……久しぶりだな」
玄人は、今までの我慢を全てぶつけるように言葉を重ねてきた。俺も精一杯、その言葉に答えを返した。俺や龍美が巻き込まれてしまった事件の深い部分は告げられないとしても、何とか理解してもらえるよう、誠実に。
必ず無事で帰るとだけは明言できなかったけれど……そうしたいとはもちろん心の底から思っている。そもそも、俺たちがうまく事を運べなければ、街そのものが危うい可能性も高いのだから。
代わりにと言っては何だが、玄人には満雀ちゃんのことを頼んだ。俺や龍美が事件と対峙している現状、そちらは玄人に任せるほかないだろう。玄人は悩ましげな表情をしながらも、最終的には分かったと頷いてくれた。
「俺が言いたくなったことはそれだけだ。じゃあ、またそのうち会おうぜ。ひょろいんだから、体調崩すなよ」
話すべきことは全て話し、俺は別れを告げる。こういう台詞も、あっさりしていた方がいい。ただ、玄人はそこで俺を呼び止め、
「何だ?」
「……ありがとう」
その感謝の言葉に、俺は胸が熱くなるのを確かに感じた。
「……おう」
照れ臭さが表情に出ないうちにと、俺は踵を返して彼の元を立ち去った。……俺だって感謝しているさ。お前は、消えないはずだった俺の傷を、僅かでも癒してくれる存在なのだから。
けれど、それは傷を広げる可能性もあるということであって。そんな未来だけは、今度こそあってはならないのだ。
秘密基地を抜け、待っていてくれたオヤジに感謝し、山を下りる。
一度だけ振り返ると、四人揃って歩いた日々の光景が刹那、蘇った。
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