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Twelfth Chapter...7/30

そして急転

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 それから一時間と経たずして、事態は動く。
 突然玄関のチャイムが鳴り、訪問客を確かめるために向かったオヤジは、そこで珍しく驚きの声を上げた。まあ勿論、俺ですら何となく察せられるほどの感情発露でしかなかったが。
 不意の訪問者は、牛牧さんともう一人。それは、人工呼吸器を外され意識を失っていると連絡を受けたはずの蟹田さんだった。
 呆気に取られている俺たちに、蟹田さんはいつもの調子で笑いながら、

「はは、事情は聞き及びだろうけど……良い機会だと思ってね。ここまで出張ってきてしまったんだ」
「驚かせてすまんな。蟹田くんがどうしてもと言うもんで」
「ああ、いや……しかし、詳しい説明がほしいものだ」
「俺はある程度分かるけどよ……まあ、落ち着いて話すべきだろうな」

 四者四様のコメントのあと、俺たちは居間で状況説明を受けることになった。

「僕がこの街で探偵のようなことをしているのは、虎牙くんには既に話したと思う」
「通信技術の悪用について調べてるんすよね?」
「ああ。元々病気を患っていた頃に牛牧さんと出会った繋がりで、あの病院へねじ込んでもらったわけだけど……病気というのは昔の話でね。今は呼吸器なんて必要のない、健康な体なのさ。病人という設定上、色々とそれらしい生活を牛牧さんと一緒に考えて、実行していたんだよ。おかげさまで、事件が起きるまではバレていなかったように思う」
「なるほどね。想像以上に狸だったわけだ」

 持病があるというところは本当かと思っていたが、それも昔の話だったとは。……まあ、完全に健康というわけでなく、日常生活に支障がない、ということかもしれないが。
 少なくとも、人工呼吸器は完全にパフォーマンスだったと。

「ま、そういうわけで。理魚ちゃんに人工呼吸器を外されてしまった俺だけど、特に大事はない。ただ、これを良い機会だと捉えてね。大事があったことにしようと判断したのさ」

 蟹田さんは、不意の訪問者が人工呼吸器を外してきたとき、驚きの中で即座に今後のことを考えたらしい。
 この行動が偶発的なものでないなら、自分は既に怪しまれ、狙われている可能性が高い。だとすると、何事もなかったとするより、犯人の狙い通り行動不能に陥ったとする方が動きやすくなるのではないか。
 意識を失ったことにして、牛牧以外の立ち入りを謝絶する。そしてその裏で動き回ることができれば、今よりずっと行動範囲が広くなるのではないか……と。

「で、こうして君を訪ねてきたというわけ。今は牛牧さんも同行してもらったから病室を空けちゃってるし、用件を伝えたらすぐに帰るつもりだけどね」
「はあ……何というか、大変すね」

 これまでも、病室のベッドの上であれやこれやと思案していたのだろう。それほどの執念で、彼はこの街の裏事情を追い続けていたのだ。

「で、本題なんだが。昨日は保留していた鬼封じの池の廃墟調査、あれに同行させてもらおうと思ってね。構わないかい?」
「そりゃもちろん。俺から頼んだことっすから」

 やはり、ここに来た用件はそれだったか。予想はついていたが、ハッキリ言われると安堵できる。

「他に誘っていた人はいるのかな」
「オヤジには来てもらおうと思ってました。ただ、蟹田さんが来ない可能性を考えてだったから……」
「なるほど、それはありがたいですね。ついでなんですけど、もうちょっと人が増やせればいいなと思っていて」
「増やすんすか?」

 その発言には少し驚く。なるべく少人数で行動したいのではと考えていたからだ。確かに一人では分からないことも大勢でなら、ということはあるが、大体似通った知識を持っているだろうし……。

「技術分野というのはかなり細分化されているものだよ。だから、可能性は少しでも高い方がいい。もう、行けるチャンスは今しかないしね」
「まあ、素人には何も言えないっすけど」

 古い軍事施設だ。流石の蟹田さんでも解明できないことが多いと心配しているのかもしれない。というか、それは当然あるんだろう。
 ただ、それ以外にも思惑があると感じるのは、邪推だろうか。

「虎牙くん、君が知っている技術関係に詳しい人間をとりあえず集めてくれると助かる。あ、もちろん久礼さんは別としてね? 可能な限り人を集め、廃墟の調査に行こう。そこでなるべく多くの情報が得られることを願ってるよ」
「……そうっすね。俺もそう願ってます」

 ならば、候補は後一人。あの人が来てくれれば、廃墟には俺を含めて四人という大所帯で向かうことになる。
 それくらいの労力を割くのなら、どうか。
 見合うだけの収穫はほしいものだ。
 参加者と日程が決まったらまた教えてほしいとのことで、蟹田さんはそこで引き上げる運びとなった。牛牧さんとともに軽く頭を下げ、玄関から去っていく。
 その背を見つめながら、俺は期待と不安に胸が高鳴るのをハッキリと感じていた。
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