41 / 88
Eighth Chapter...7/26
白い靄、深い闇
しおりを挟む
コツコツという不規則な音で目が覚めた。
どうやらオヤジが朝から仕事に打ち込んでいるらしい。
精が出るなと感心しつつ、俺はゆっくりとベッドから起き上がる。僅かにぐらりと世界が傾いだ。
事件の夜に殴られてから、鈍痛は続いていたのだが、気分の悪さはそれだけが原因ではないらしい。どうも目の調子が怪しくなっている気がする。
……白い靄。夜、時たまにしか見えなかったそれは、出現の頻度を増してきているようだった。
何か意味があるのかと考えもしたが、これは流石に不具合のようにも思える。診てもらいたいところだが、さて、内密に検査してもらえるかどうか。オヤジを通して信頼できる人に予約を取り付けられたらいいが。……診てもらうなら双太さんってとこか。
着替えなどを済ませて、居間に向かう。その頃には作業の音も止み、オヤジは台所に立っていた。普段の家事は全部やってくれるらしく、とても助かる。
「おはよう」
作業場から戻ってきたオヤジと挨拶を交わし、そのまま朝食ができるのを待つ。五分と経たずちゃぶ台に料理が置かれ、俺たちは箸をつけ始めた。
「なあ、オヤジ。俺の目のことってオヤジは分かるのか?」
「む……仕組みについてなら答えられるが、それだけは最先端なんでな。何もかもと言われると、俺や病院の人間にも答えるのは難しいかもしれん」
「へえ……」
そんな代物なのか、この■■は。
――あれ?
何だろう。
俺は何を考えていたっけ……。
「問題でもあるのか?」
「ん……まあ、ちょっと視界が霞んだりな」
「ふむ。お前さえ良ければ、牛牧に相談くらいはできるが……」
「こういうのって診れるのか?」
その問いに対しては首を振り、
「いや、牛牧の分野ではない。ただ、彼なら色々と取り計らってくれるだろう」
「なるほど。双太さんに声をかけてくれるなら安心って感じはするしな」
一番いい落とし所をすぐ考えてくれるから、オヤジは頼りになる。しかし、この目の不調はすぐに治るだろうか。今後の捜査に支障をきたすと困る。
朝食を済ませた後、オヤジはすぐに牛牧さんへ連絡を取ってくれた。また折り返すと言われてから十分ほどして電話のコールが響き、牛牧さんから得た回答は了解だった。
双太さんには内密に伝達してくれたらしく、診察客の比較的少ない午後ニ時前後なら恐らく大丈夫とのことだ。生徒の診察も入っていないそうで、道中でなければ見つかることもないだろう。
オヤジに感謝を述べつつ、病院に行けるようになったことから今日の方針を検討する。
「双太さんからそれとなく病院の裏を探りつつ、院内の調査もしたいところだな」
「大抵の場所には鍵でも掛かっているだろう。ただ、怪しいことだけでも分かればまずは収穫だ」
「ああ……探れる範囲で頑張るさ」
これまでは気付きもしなかった深き闇。
それはきっと、巧妙だったからではなく、誰もが知ろうとしなかったからでしかない。
手掛かりは必ずどこかに転がっている。
そう信じて、俺は探偵の真似事に尽力するしかないのだ。
どうやらオヤジが朝から仕事に打ち込んでいるらしい。
精が出るなと感心しつつ、俺はゆっくりとベッドから起き上がる。僅かにぐらりと世界が傾いだ。
事件の夜に殴られてから、鈍痛は続いていたのだが、気分の悪さはそれだけが原因ではないらしい。どうも目の調子が怪しくなっている気がする。
……白い靄。夜、時たまにしか見えなかったそれは、出現の頻度を増してきているようだった。
何か意味があるのかと考えもしたが、これは流石に不具合のようにも思える。診てもらいたいところだが、さて、内密に検査してもらえるかどうか。オヤジを通して信頼できる人に予約を取り付けられたらいいが。……診てもらうなら双太さんってとこか。
着替えなどを済ませて、居間に向かう。その頃には作業の音も止み、オヤジは台所に立っていた。普段の家事は全部やってくれるらしく、とても助かる。
「おはよう」
作業場から戻ってきたオヤジと挨拶を交わし、そのまま朝食ができるのを待つ。五分と経たずちゃぶ台に料理が置かれ、俺たちは箸をつけ始めた。
「なあ、オヤジ。俺の目のことってオヤジは分かるのか?」
「む……仕組みについてなら答えられるが、それだけは最先端なんでな。何もかもと言われると、俺や病院の人間にも答えるのは難しいかもしれん」
「へえ……」
そんな代物なのか、この■■は。
――あれ?
何だろう。
俺は何を考えていたっけ……。
「問題でもあるのか?」
「ん……まあ、ちょっと視界が霞んだりな」
「ふむ。お前さえ良ければ、牛牧に相談くらいはできるが……」
「こういうのって診れるのか?」
その問いに対しては首を振り、
「いや、牛牧の分野ではない。ただ、彼なら色々と取り計らってくれるだろう」
「なるほど。双太さんに声をかけてくれるなら安心って感じはするしな」
一番いい落とし所をすぐ考えてくれるから、オヤジは頼りになる。しかし、この目の不調はすぐに治るだろうか。今後の捜査に支障をきたすと困る。
朝食を済ませた後、オヤジはすぐに牛牧さんへ連絡を取ってくれた。また折り返すと言われてから十分ほどして電話のコールが響き、牛牧さんから得た回答は了解だった。
双太さんには内密に伝達してくれたらしく、診察客の比較的少ない午後ニ時前後なら恐らく大丈夫とのことだ。生徒の診察も入っていないそうで、道中でなければ見つかることもないだろう。
オヤジに感謝を述べつつ、病院に行けるようになったことから今日の方針を検討する。
「双太さんからそれとなく病院の裏を探りつつ、院内の調査もしたいところだな」
「大抵の場所には鍵でも掛かっているだろう。ただ、怪しいことだけでも分かればまずは収穫だ」
「ああ……探れる範囲で頑張るさ」
これまでは気付きもしなかった深き闇。
それはきっと、巧妙だったからではなく、誰もが知ろうとしなかったからでしかない。
手掛かりは必ずどこかに転がっている。
そう信じて、俺は探偵の真似事に尽力するしかないのだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
『忌み地・元霧原村の怪』
潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。
渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。
《主人公は月森和也(語り部)となります。転校生の神代渉はバディ訳の男子です》
【投稿開始後に1話と2話を改稿し、1話にまとめています。(内容の筋は変わっていません)】
【恋愛】×【ミステリー】失恋まであと五分~駅へ走れ!~
キルト
ミステリー
「走れっ、走れっ、走れ。」俺は自分をそう鼓舞しながら駅へ急いでいた。
失恋まであと五分。
どうしても今日だけは『あの電車』に乗らなければならなかった。
電車で居眠りする度に出会う不思議な女性『夜桜 結衣』。
俺は彼女の不思議な預言に次第に魅了されていく。
今日コクらなければ、二度と会えないっ。
電車に乗り遅れた俺は、まさかの失恋決定!?
失意の中で、偶然再会した大学の後輩『玲』へ彼女との出来事を語り出す。
ただの惨めな失恋話……の筈が事態は思わぬ展開に!?
居眠りから始まるステルスラブストーリーです。
YouTubeにて紹介動画も公開中です。
https://www.youtube.com/shorts/45ExzfPtl6Q
ダブルの謎
KT
ミステリー
舞台は、港町横浜。ある1人の男が水死した状態で見つかった。しかし、その水死したはずの男を捜査1課刑事の正行は、目撃してしまう。ついに事件は誰も予想がつかない状況に発展していく。真犯人は一体誰で、何のために、、 読み出したら止まらない、迫力満点短編ミステリー
【恋愛ミステリ】エンケージ! ーChildren in the bird cageー
至堂文斗
ライト文芸
【完結済】
野生の鳥が多く生息する山奥の村、鴇村(ときむら)には、鳥に関する言い伝えがいくつか存在していた。
――つがいのトキを目にした恋人たちは、必ず結ばれる。
そんな恋愛を絡めた伝承は当たり前のように知られていて、村の少年少女たちは憧れを抱き。
――人は、死んだら鳥になる。
そんな死後の世界についての伝承もあり、鳥になって大空へ飛び立てるのだと信じる者も少なくなかった。
六月三日から始まる、この一週間の物語は。
そんな伝承に思いを馳せ、そして運命を狂わされていく、二組の少年少女たちと。
彼らの仲間たちや家族が紡ぎだす、甘く、優しく……そしてときには苦い。そんなお話。
※自作ADVの加筆修正版ノベライズとなります。
表紙は以下のフリー素材、フリーフォントをお借りしております。
http://sozai-natural.seesaa.net/category/10768587-1.html
http://www.fontna.com/blog/1706/
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
この満ち足りた匣庭の中で 二章―Moon of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
それこそが、赤い満月へと至るのだろうか――
『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。
更なる発展を掲げ、電波塔計画が進められ……そして二〇一二年の八月、地図から消えた街。
鬼の伝承に浸食されていく混沌の街で、再び二週間の物語は幕を開ける。
古くより伝えられてきた、赤い満月が昇るその夜まで。
オートマティスム、鬼封じの池、『八〇二』の数字。
ムーンスパロー、周波数帯、デリンジャー現象。
ブラッドムーン、潮汐力、盈虧院……。
ほら、また頭の中に響いてくる鬼の声。
逃れられない惨劇へ向けて、私たちはただ日々を重ねていく――。
出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io
この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。
二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。
彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。
信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。
歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。
幻想、幻影、エンケージ。
魂魄、領域、人類の進化。
802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。
さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。
私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。
【朗読の部屋】from 凛音
キルト
ミステリー
凛音の部屋へようこそ♪
眠れない貴方の為に毎晩、ちょっとした話を朗読するよ。
クスッやドキッを貴方へ。
youtubeにてフルボイス版も公開中です♪
https://www.youtube.com/watch?v=mtY1fq0sPDY&list=PLcNss9P7EyCSKS4-UdS-um1mSk1IJRLQ3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる