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Sixth Chapter...7/24
説明会の日
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七月二十四日。住民に対して永射孝史郎が最後の説明会を開催する日だ。この日は登校の途上ですら、高齢の夫婦がいつ頃に出発しようかとか、自分たちに分かるだろうかと話しているのに遭遇した。都会では無関心な者も多そうな会だが、こうした小さな街ではちゃんと高い関心を集めているようだ。
玄人や龍美も家族に引かれるようにして参加していたし、不良なのは俺のとこくらいなのか。まあ、オヤジはどちらかと言えば事情を知っている側の人間には近いし、行かないのも納得ではあるが。
そう言えば、とスマホを取り出す。昨日龍美と玄人が、グループチャットで少しばかりやり取りをしていたようで、朝起きた時に通知を見て気付いたのだった。俺は寝る前には音を消すからな。
生憎この目のせいで画像はハッキリ確認できちゃいないが、またぞろ龍美が自動筆記現象に襲われたというもので、それに対して玄人が落ち着けと言う風に宥めていた。多分、ちょうど俺が白い靄を見ていたころか。
金縛り、自動筆記、エクトプラズム。三人揃って似た時間に謎の現象が襲うのは気持ち悪いが、そこにも何か裏があるのかもしれない。
街の人の声を聞き流しながら、少し遅めに学校へ辿り着く。すると、入ってすぐに玄人と龍美が真剣な表情で話し込んでいるのを見つけた。近づいている間に、こんなやりとりが聞こえてくる。
「……事実、金縛り現象は科学的にそう結論付けられてるしさ。自動筆記もその類に違いないんだ」
「疲れ、ねえ。ま、そうなのかもね。……そうだといいな」
朝っぱらから暗い顔、暗い声色をしているので、俺は敢えて茶化すように、
「おはようさん。どうしたよ、辛気臭い顔してよ」
「あんたは良いわねえ、お気楽で」
「昨日のアレか? お前もオバケとか妖怪とかは弱いんだな。へへ、覚えといてやるよ」
「覚えなくていいわよ!」
これで少しは調子を取り戻してくれるといいが。二人揃って、鬼の祟りを真剣に恐怖するのは見たくない。鬼の正体を暴くことは、二人の怯えを取り除くことになるはずだし、それもまた一つの目的になると言えるかもしれないな。
「……気にすんなよ。どうせ疲れてるだけだろ。それか、病んでるだけか……」
俺の言葉に、僅かだけ首を傾げた龍美だったが、すぐに合点がいって元気に言葉を返してくる。
気の迷いも一種の病だ。それを治す特効薬が真実というなら、それを俺が持ってきてやれたらいいのだが。
*
試験はいつも通りに終了し、放課後の遊び時間となる。俺にとってのいつも通りは散々な出来なので、多少はゲームで憂さ晴らしをしてやろうという気持ちもあった。ただ、そんなときに限って龍美と張り合いになり、仲良く二人で脱落してしまうのがオチなのだった。
というわけで、こちらも散々だったモノポリーゲームを終え、解散の運びとなる。帰り際、説明会の話が少し上がったが、どうやら病院関係者という都合上、双太さんも参加しなければいけないらしい。仕事というのは面倒なものだ。
皆と別れ、家に帰ったのは十二時半ごろ。オヤジもちょうど仕事を終え、昼食を作りかけているところだった。
食卓に料理が並び、箸を伸ばしながら、俺はそれとなくオヤジに切り出す。
「今日の説明会、他の奴もいくみたいでさ。せっかくだからってことで俺も行こうかと思ってるんだけど」
「……そうか。あまり参考にはならんだろうがな」
「やっぱオヤジも怪しいって感じてるのか?」
「というより、計画の本質が分からん。皮切りにはなるのかもしれんが、あの電波塔一つでいきなり環境が大きく変わるわけでもないはずだからな。無論、一つ認められれば次からも……というのはあるかもしれんが」
計画の本質、か。機械に詳しいオヤジが言うのだから誤りはなさそうだ。裏で並行しているらしい別の計画……それが電波塔と何か連動している? だとすれば、躍起になって稼働させようとする理由にも蓋然性が出てくるけれど。
「説明会じゃ上っ張りしか教えてくれない、か」
「恐らくはな。……まあ、暗くなってからの集まりだ、誰かに送ってもらうように」
「はいよ」
もちろん送ってもらうことなどできないわけで、オヤジにさらりと嘘を吐くのは流石に心苦しかった。しかし、眼前に重要なピースが転がっているのなら、取りに行かないという選択肢は選びたくないのだ。
説明会が始まるのは夜八時。それまでは長い時間暇になる。俺にとって遊び道具になるものは少ないし、玄人たちとも今は気軽に話し辛い。普通の家庭なら勉強しろとでも言われそうだが、生憎そういう家庭でもなし、オヤジはすぐ仕事に戻ってしまっていた。
それなら休んでおくかと、俺は布団に潜り込んで仮眠をとった。
これから先にすることへの罪滅ぼしにと、夕食は俺が当番を代わって作り、黙々と食べる。そうする間にも陽は少しずつ落ちていき、午後七時を過ぎたころには厚い雲も影響してかなり暗くなっていた。
――雨になりそうだな。
傘を持って行くことも考えたが、追跡の邪魔になりそうだ。ただでさえ人と同じように歩くのが困難なのに、余計なものがあるとまずい。
なるべく早めに引き上げようと、とりあえずは手ぶらで行くことを決め、俺はオヤジに声を掛けてから家を出た。
玄人や龍美も家族に引かれるようにして参加していたし、不良なのは俺のとこくらいなのか。まあ、オヤジはどちらかと言えば事情を知っている側の人間には近いし、行かないのも納得ではあるが。
そう言えば、とスマホを取り出す。昨日龍美と玄人が、グループチャットで少しばかりやり取りをしていたようで、朝起きた時に通知を見て気付いたのだった。俺は寝る前には音を消すからな。
生憎この目のせいで画像はハッキリ確認できちゃいないが、またぞろ龍美が自動筆記現象に襲われたというもので、それに対して玄人が落ち着けと言う風に宥めていた。多分、ちょうど俺が白い靄を見ていたころか。
金縛り、自動筆記、エクトプラズム。三人揃って似た時間に謎の現象が襲うのは気持ち悪いが、そこにも何か裏があるのかもしれない。
街の人の声を聞き流しながら、少し遅めに学校へ辿り着く。すると、入ってすぐに玄人と龍美が真剣な表情で話し込んでいるのを見つけた。近づいている間に、こんなやりとりが聞こえてくる。
「……事実、金縛り現象は科学的にそう結論付けられてるしさ。自動筆記もその類に違いないんだ」
「疲れ、ねえ。ま、そうなのかもね。……そうだといいな」
朝っぱらから暗い顔、暗い声色をしているので、俺は敢えて茶化すように、
「おはようさん。どうしたよ、辛気臭い顔してよ」
「あんたは良いわねえ、お気楽で」
「昨日のアレか? お前もオバケとか妖怪とかは弱いんだな。へへ、覚えといてやるよ」
「覚えなくていいわよ!」
これで少しは調子を取り戻してくれるといいが。二人揃って、鬼の祟りを真剣に恐怖するのは見たくない。鬼の正体を暴くことは、二人の怯えを取り除くことになるはずだし、それもまた一つの目的になると言えるかもしれないな。
「……気にすんなよ。どうせ疲れてるだけだろ。それか、病んでるだけか……」
俺の言葉に、僅かだけ首を傾げた龍美だったが、すぐに合点がいって元気に言葉を返してくる。
気の迷いも一種の病だ。それを治す特効薬が真実というなら、それを俺が持ってきてやれたらいいのだが。
*
試験はいつも通りに終了し、放課後の遊び時間となる。俺にとってのいつも通りは散々な出来なので、多少はゲームで憂さ晴らしをしてやろうという気持ちもあった。ただ、そんなときに限って龍美と張り合いになり、仲良く二人で脱落してしまうのがオチなのだった。
というわけで、こちらも散々だったモノポリーゲームを終え、解散の運びとなる。帰り際、説明会の話が少し上がったが、どうやら病院関係者という都合上、双太さんも参加しなければいけないらしい。仕事というのは面倒なものだ。
皆と別れ、家に帰ったのは十二時半ごろ。オヤジもちょうど仕事を終え、昼食を作りかけているところだった。
食卓に料理が並び、箸を伸ばしながら、俺はそれとなくオヤジに切り出す。
「今日の説明会、他の奴もいくみたいでさ。せっかくだからってことで俺も行こうかと思ってるんだけど」
「……そうか。あまり参考にはならんだろうがな」
「やっぱオヤジも怪しいって感じてるのか?」
「というより、計画の本質が分からん。皮切りにはなるのかもしれんが、あの電波塔一つでいきなり環境が大きく変わるわけでもないはずだからな。無論、一つ認められれば次からも……というのはあるかもしれんが」
計画の本質、か。機械に詳しいオヤジが言うのだから誤りはなさそうだ。裏で並行しているらしい別の計画……それが電波塔と何か連動している? だとすれば、躍起になって稼働させようとする理由にも蓋然性が出てくるけれど。
「説明会じゃ上っ張りしか教えてくれない、か」
「恐らくはな。……まあ、暗くなってからの集まりだ、誰かに送ってもらうように」
「はいよ」
もちろん送ってもらうことなどできないわけで、オヤジにさらりと嘘を吐くのは流石に心苦しかった。しかし、眼前に重要なピースが転がっているのなら、取りに行かないという選択肢は選びたくないのだ。
説明会が始まるのは夜八時。それまでは長い時間暇になる。俺にとって遊び道具になるものは少ないし、玄人たちとも今は気軽に話し辛い。普通の家庭なら勉強しろとでも言われそうだが、生憎そういう家庭でもなし、オヤジはすぐ仕事に戻ってしまっていた。
それなら休んでおくかと、俺は布団に潜り込んで仮眠をとった。
これから先にすることへの罪滅ぼしにと、夕食は俺が当番を代わって作り、黙々と食べる。そうする間にも陽は少しずつ落ちていき、午後七時を過ぎたころには厚い雲も影響してかなり暗くなっていた。
――雨になりそうだな。
傘を持って行くことも考えたが、追跡の邪魔になりそうだ。ただでさえ人と同じように歩くのが困難なのに、余計なものがあるとまずい。
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