26 / 88
Fifth Chapter...7/23
否応なしの日常
しおりを挟む
目が覚めると、俺は自分が拳を強く握りしめていることに気付いた。
……昔の記憶だ。もうあまり思い出すこともあるまいと考えていたが、夢はどこまでも無遠慮なようだった。
外鯨美波。中学時代の数少ない友人だった少年。
ある意味では彼が、俺の中学時代の全てを象徴していた。
「何でかねえ」
昨日までの体験が、嫌な記憶の呼び水になったのかもしれない。ここ数日の出来事は、驚きの連続だったが決して良いサプライズではなかった。
満生台の謎めいた構造と計画、そして三鬼村時代まで遡るだろう負の遺産……本当に、平和な街だと思っていたのが嘘のようだ。俺はまだマシな方で、玄人や龍美のショックはとてつもなく大きかっただろう。
あいつらも、嫌な過去が夢に出たりしているかもしれないな。
……まあ、いつまでも沈んだ気分でいたって、学校に行くのが遅れるだけだ。俺は布団から身を起こし、さっさと朝の身支度を済ませた。
朝食はオヤジの当番だったので、ありがたくいただく。寝付きが悪かったのが一目瞭然なのか、オヤジは眠れなかったかと訊ねてきたが、俺は答えを濁した。
昔のことなんて、オヤジも忘れてほしいに違いないのだし。
「考え込まないようにな」
「解ってるさ」
心配されることもすることも、そりゃ無い方がいいに決まっている。
普段通りの時間に家を出て、学校へ向かう。空は曇天だが、雨は止んでいた。季節はすっかり夏だが、長雨になることだってあり得たのでそこは良かった。ぬかるんだ道は大敵だ。
教室に着くなり龍美は俺たちを呼び、昨日の探検については他言無用だと念を押してくる。彼女自身も深入りするつもりはなさそうだ。それならそれでいいと、俺は欠伸を噛み殺しながら適当に相槌を打っていた。
玄人にも龍美にも、背負う必要性の感じられない問題だ。それはもちろん俺にとってもそうなのだが、まあ俺は意地が悪いからな。
とりあえず、表面上だけでも平和が戻るならそれで構わないだろう。
……とは思ったのだが。
「やっぱ、いないか」
話題は変わったのだが、相変わらず憂鬱そうな表情の玄人に龍美が反応して、
「理魚ちゃんのこと?」
玄人はこくりと頷く。
河野理魚、か。精神疾患のある彼女のことを、玄人は殊更に気にかけているように見える。決して仲がいいわけではないはずなのだが、どんな事情があるんだろうな。
深入りはしないが、いつか聞かせてもらってモヤモヤを解消したい気持ちはある。
……精神疾患か。彼女もまた、満生総合医療センターの世話になっているわけだ。身体的な問題だけでなく、精神的なものも含めて幅広い対応が出来ねば、満生台のスローガンは果たせないだろうしな。
ただ、あの子は治る気配もないし、対処療法くらいしか手立てが打つ手がないのかと気にはなるが。
「双太さんも理魚ちゃんのことくらい理解してるし、自宅で試験を受けるとか、そういう措置はとってるわよ」
「うん。そうだね」
……そうだな、試験だった。
綺麗さっぱり忘れていたわけではないものの、GHOSTやら日本軍やらに意識が割かれていたせいで何もしていない。まあ、どうせいつも捨て鉢で臨むのだし、今回もその姿勢に変わりはなかった。
とびきり面倒で、達成感もなく、ただ淡々と時間が過ぎゆくのを待つ試験。でもそれが、一番荒んだ心を落ち着けてくれるのかもしれない。
変な論理を組み立てながら、俺は試験問題がやってくるまでの猶予期間を、欠伸をしながらのんびり待つのだった。
……昔の記憶だ。もうあまり思い出すこともあるまいと考えていたが、夢はどこまでも無遠慮なようだった。
外鯨美波。中学時代の数少ない友人だった少年。
ある意味では彼が、俺の中学時代の全てを象徴していた。
「何でかねえ」
昨日までの体験が、嫌な記憶の呼び水になったのかもしれない。ここ数日の出来事は、驚きの連続だったが決して良いサプライズではなかった。
満生台の謎めいた構造と計画、そして三鬼村時代まで遡るだろう負の遺産……本当に、平和な街だと思っていたのが嘘のようだ。俺はまだマシな方で、玄人や龍美のショックはとてつもなく大きかっただろう。
あいつらも、嫌な過去が夢に出たりしているかもしれないな。
……まあ、いつまでも沈んだ気分でいたって、学校に行くのが遅れるだけだ。俺は布団から身を起こし、さっさと朝の身支度を済ませた。
朝食はオヤジの当番だったので、ありがたくいただく。寝付きが悪かったのが一目瞭然なのか、オヤジは眠れなかったかと訊ねてきたが、俺は答えを濁した。
昔のことなんて、オヤジも忘れてほしいに違いないのだし。
「考え込まないようにな」
「解ってるさ」
心配されることもすることも、そりゃ無い方がいいに決まっている。
普段通りの時間に家を出て、学校へ向かう。空は曇天だが、雨は止んでいた。季節はすっかり夏だが、長雨になることだってあり得たのでそこは良かった。ぬかるんだ道は大敵だ。
教室に着くなり龍美は俺たちを呼び、昨日の探検については他言無用だと念を押してくる。彼女自身も深入りするつもりはなさそうだ。それならそれでいいと、俺は欠伸を噛み殺しながら適当に相槌を打っていた。
玄人にも龍美にも、背負う必要性の感じられない問題だ。それはもちろん俺にとってもそうなのだが、まあ俺は意地が悪いからな。
とりあえず、表面上だけでも平和が戻るならそれで構わないだろう。
……とは思ったのだが。
「やっぱ、いないか」
話題は変わったのだが、相変わらず憂鬱そうな表情の玄人に龍美が反応して、
「理魚ちゃんのこと?」
玄人はこくりと頷く。
河野理魚、か。精神疾患のある彼女のことを、玄人は殊更に気にかけているように見える。決して仲がいいわけではないはずなのだが、どんな事情があるんだろうな。
深入りはしないが、いつか聞かせてもらってモヤモヤを解消したい気持ちはある。
……精神疾患か。彼女もまた、満生総合医療センターの世話になっているわけだ。身体的な問題だけでなく、精神的なものも含めて幅広い対応が出来ねば、満生台のスローガンは果たせないだろうしな。
ただ、あの子は治る気配もないし、対処療法くらいしか手立てが打つ手がないのかと気にはなるが。
「双太さんも理魚ちゃんのことくらい理解してるし、自宅で試験を受けるとか、そういう措置はとってるわよ」
「うん。そうだね」
……そうだな、試験だった。
綺麗さっぱり忘れていたわけではないものの、GHOSTやら日本軍やらに意識が割かれていたせいで何もしていない。まあ、どうせいつも捨て鉢で臨むのだし、今回もその姿勢に変わりはなかった。
とびきり面倒で、達成感もなく、ただ淡々と時間が過ぎゆくのを待つ試験。でもそれが、一番荒んだ心を落ち着けてくれるのかもしれない。
変な論理を組み立てながら、俺は試験問題がやってくるまでの猶予期間を、欠伸をしながらのんびり待つのだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
【恋愛ミステリ】エンケージ! ーChildren in the bird cageー
至堂文斗
ライト文芸
【完結済】
野生の鳥が多く生息する山奥の村、鴇村(ときむら)には、鳥に関する言い伝えがいくつか存在していた。
――つがいのトキを目にした恋人たちは、必ず結ばれる。
そんな恋愛を絡めた伝承は当たり前のように知られていて、村の少年少女たちは憧れを抱き。
――人は、死んだら鳥になる。
そんな死後の世界についての伝承もあり、鳥になって大空へ飛び立てるのだと信じる者も少なくなかった。
六月三日から始まる、この一週間の物語は。
そんな伝承に思いを馳せ、そして運命を狂わされていく、二組の少年少女たちと。
彼らの仲間たちや家族が紡ぎだす、甘く、優しく……そしてときには苦い。そんなお話。
※自作ADVの加筆修正版ノベライズとなります。
表紙は以下のフリー素材、フリーフォントをお借りしております。
http://sozai-natural.seesaa.net/category/10768587-1.html
http://www.fontna.com/blog/1706/
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する
黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。
だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。
どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど??
ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に──
家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。
何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。
しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。
友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。
ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。
表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、
©2020黄札
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。
二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。
彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。
信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。
歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。
幻想、幻影、エンケージ。
魂魄、領域、人類の進化。
802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。
さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。
私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~
しんいち
キャラ文芸
オカルト好きの少年、「しんいち」は、小学生の時、彼が通う合気道の道場でお婆さんにつれられてきた不思議な少女と出会う。
のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との始めての出会いだった。
彼女には「霊感」と言われる、人の目には見えない物を感じ取る能力を秘めていた。しんいちはそんな彼女と友達になることを決意する。
そして高校生になった二人は、様々な怪奇でミステリアスな事件に関わっていくことになる。 事件を通じて出会う人々や経験は、彼らの成長を促し、友情を深めていく。
しかし、幽子にはしんいちにも秘密にしている一つの「想い」があった。
その想いとは一体何なのか?物語が進むにつれて、彼女の心の奥に秘められた真実が明らかになっていく。
友情と成長、そして幽子の隠された想いが交錯するミステリアスな物語。あなたも、しんいちと幽子の冒険に心を躍らせてみませんか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる