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Third Chapter...7/21

秘密基地とEME

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 満雀ちゃんを連れて、俺は街の北部にある森の中へ入っていく。ちょうど病院から自宅にUターンしてくる形だが、今日は俺が付き添いだったので仕方がない。
 こんな山中に何があるのかといえば、秘密基地だと表現するしかない。やたらと子どもっぽい言葉だが、実際そこに築かれたのは俺たちの基地だった。
 当初はただ童心に帰るという目的で始めた基地の整備。けれど今ではその基地に、新たな目的も生まれている。
 俺たち四人は秘密基地で、秘密の工作作業をしていた。
 月面反射通信装置――いわゆるEMEの作成だ。
 夏休みの工作みたいだなと思うことは時折あるが、技術的にはそうした範疇を超えているはず。数多いるアマチュア無線家と同じように、俺たちは通信装置を自作し、その安定稼働を目指しているのである。
 森の奥地に突如現れる蚊帳。その中にテントやら椅子やらを持ち込んで、俺たちは時々集まり作業と雑談に明け暮れている。
 今日もまたいつもと変わらず、通信装置の改良と試運転を主な目的として集まったというわけだ。
 予想通りというか、当然ながら龍美と玄人は既に基地の中で待っていた。俺たちの姿を認めるとすぐ、遅いと文句を垂れてきたのだが、それもまた予想通りだ。
 文句の一つでも俺に言ってこないと龍美じゃない。そんな風に思っている自分もいたりする。

「さて! そんじゃメンバーも揃ったし、今日の作業を始めるとしますかー」
「うゆー。始めよー」

 龍美の号令で、今日も作業が始まった。彼女がブレーン役なのに対して俺は専ら肉体労働だ。その振り分けは仕方がないと思ってはいるが。
 ノートパソコンやらアンテナやら、機械装置を取り出して次々に接続していく。もう何度もやっていることなので時間はかからない。ものの数分で装置は組み上がった。
 これが月面反射通信装置、その名も【ムーンスパロー】だ。
 格好付けた名前だが、名付け親は満雀ちゃんだった。じゃんけんで勝った奴に命名権を、という取り決めをして、その勝者が満雀ちゃんだったわけだ。ムーンは月、スパローは雀なので、ひょっとするとこれがムーンドラゴンやらムーンタイガーだったりした可能性はある。……いや、俺ならタイガーは付けないな。
 ともあれ、装置が組み上がると微調整の後試運転が開始された。これまでの工作で機構自体は完成していたので、今日は初めての実演というところか。正直望み薄ではあるのだが、俺でも多少期待しているところはある。
 パソコン上で作動している通信プログラム【レッドアイ】の波形に時折目を向けつつ、俺たちは下らない雑談をしたりして時間を潰す。こういうのはきっと釣りと同じだ。盛り上がりは一瞬、標的が餌に食いつくまでは退屈な時間になる。
 期末試験に向けた勉強をしようという流れになったのは嫌気が差したが、他の三人はすっかりその気になっていたので、輪から外れることもできず、俺も結局巻き込まれた。
 勉強は昔から苦手なのだ。IQを測るクイズだとか謳うテレビやネットでよく見るクイズは面白く解けるけれど、試験にはどうも身が入らない。
 勉強に押しつけられるものというイメージしかないせいで、つまらなく感じるんだろうと自己分析したこともあるが。
 今でも成績の悪さで茶化されることはある。しかしまあ、都会にあった冷ややかな感覚とは全然違っているから、それは構わないのだ。

「何か、受信してるんじゃない?」

 玄人が変化に気付いたのは、プログラムを起動してから何十分か経ったころ。彼の言葉に龍美が逸早く反応し、パソコンの画面に齧り付いた。
 俺や満雀ちゃんもその後ろから覗き込むように確認する。波形はなるほど上下に動いた形跡があった。
 どうやらずぶの素人が作ったこの装置でも、どこかの無線通信を拾うことができたらしい。音質は酷いものの、受信できただけでも大したものだ。龍美はこの成果に諸手を挙げて喜び、その姿を見て俺たちも嬉しくなった。
 今日の活動は成功裡に終わり、四時過ぎには解散の運びとなった。体の弱い満雀ちゃんの都合上、長くは遊んでいられないのだ。
 行き帰りの付き添いは同じ人がする取り決めになっているので、帰りも俺が彼女と一緒だった。
 充実した一日になった、という龍美の言葉に同意しつつ、慣れない勉強で若干痛む頭を振り、満雀ちゃんを手招きする。

「頼んだぞー」

 一瞬見せた神秘的な雰囲気はどこへやら、相変わらずの緩い感じで満雀ちゃんは寄ってきた。俺は彼女の横に並び、

「じゃあ、帰るぜ。お前らも残ってイチャつかずに、さっさと帰れよ」

 そんなジョークを別れの台詞にして、秘密基地の敷地から出る。
 そして、少しずつ赤く移り変わる景色の中、龍美の喚くような声を背に、俺と満雀ちゃんは獣道を歩いていくのだった。
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