この満ち足りた匣庭の中で 三章―Ghost of miniature garden―

至堂文斗

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Third Chapter...7/21

この目でのみ

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 昨夜、オヤジとの話の中で出てきたGHOSTという組織について、俺はネットで検索をかけていた。
 もちろん、略称であるゴーストで調べたところで、霊や魂を表すその単語通りのページしか出てくることはなかった。
 だから、正式名称である遺伝危機監査機構で情報を探していたのだが、基本的に公式サイトというのは存在せず。
 また、法人としての登録もないようで、会社や組織をまとめた情報ポータルなどでも一切名前は出てこなかった。
 幾ら小さな街の病院だからといっても、小規模な組織に出資を行えるレベルの話ではないはずだ。ならば、GHOSTというのはどこかの大富豪の道楽とか、それこそ慈善事業組織だったりするのだろうか。毒にも薬にもならない、とオヤジには言われたものの、もどかしい気持ちが膨れ上がってくるのは毒な気がする。
 聞かなきゃ良かったか。いや、聞きたかったのだから仕方がない。
 一つだけ収穫があったとすれば、匿名掲示板というかなり信憑性の低いところからの情報だ。
 GHOSTという略称に合わせるため、如何にも適当に付けられたような名前のこの組織は、国内の様々な事業計画に対し投資を行っているのだとか。
 拾えたのは鏡ヶ原という地名のみだったが、そこは最近崖崩れが起き、訪れていた人たち十数名が亡くなる悲惨な事故があったようだ。警察の捜査でも事故として処理されているようだが、不審な点が幾つかあることから疑いを向ける者もいるのだ。
 しかし、事故と一出資者との繋がりを怪しむというのは深読みし過ぎという意見が大勢を占めているように思える。まあ、普通なら俺もその意見に賛成だ。
 GHOSTがどのような組織なのか。今は何も、判断がつけられない。
 オヤジが気にするなという風に話してくれた手前、これ以上はオヤジに情報を求めるのも気が引けたので、朝食のときも特に話題に出すことはしなかった。というより、オヤジ自身もそれほど多くのことは知らないに違いないのだ。直接の繋がりなどないわけだし。

「今日は龍美たちと遊んでくる」
「そうか。遅くならんようにな」

 話したのは、それくらいのことだ。
 いつもと同じ、静かな朝だった。
 部屋から戻ってスマホの画面を見たところで、昨日龍美から連絡が来ていたのを思い出す。
 俺は基本的に返信が面倒なので、後回しにすることが多いのだが、流石に一日置いてしまったら怒るよな。
 昨夜は俺への個人チャットで、今朝はグループチャットで連絡が来ている。
 個人宛は、満雀ちゃんをよろしくというもの。ルームでは、今日の探索に遅刻しないよう念押しの発言だ。
 文章だけでも、朝の静けさが嘘のよう、というか。
 溜め息を一つ吐いて、俺は適当に返事を打って送信しておいた。
 ……満雀ちゃんのお迎え、か。少し早めに出ないと間に合わないな。
 龍美の奴、これで少しでも遅れたら頬を膨らませて文句を言うのだろう。
 ちょっとの遅れくらい、誤差だと見做してほしいもんだ。
 今日は食事当番が全部オヤジだったので、昼飯ができるまではくつろぐ。病院へ行ってからUターンすることを考慮すると、家を出るのは十二時過ぎでいいか。
 そう言えば、朝食の席でオヤジがチラシを読みながら、住民説明会がどうとか呟いていたが、またチラシでも入っていたんだろうか。
 俺もオヤジも説明会には参加していないので、正直詳細は不明だ。毎度揉めているというのは耳に入ってくるけれど、永射さんも大変だなという感想しかない。
 街には鬼の伝承とやらが今も残っているようだが、俺はそういうのを信じていないし。

 ――鬼の伝承、ねえ。

 鬼とやらがいるなら、出てきてくれればいいのに。
 俺はこの目で――なんていうのは皮肉かもしれないが――見たものだけを信じている。
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