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Second Chapter...7/20
遺伝危機監査機構
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家に上がった牛牧さんは、オヤジと一時間ほど話してから帰っていった。
手には大きめの箱が入った袋を提げていたので、それが依頼の品だったんだろう。
この街で彼は複雑な立場だろうが、上手くやっていければいいなと心の中で呟きつつ、俺は牛牧さんを見送った。
オヤジは相変わらず言葉少なだったが、多分牛牧さんとはあれこれ語ったはずだ。
俺には少しだけ、オヤジがほっとしているのが見て取れた。
夕食は二人が話している間に何とか作れていたので、定刻通り六時には食卓に並べられた。テレビのニュース番組を耳でだけ聞きながら、俺たちは黙々とポトフを食べる。財務省のパソコンがウイルスに感染したというニュースが読み上げられると、オヤジはつまらなさそうに眉をしかめた。
「ネット犯罪とか、増えてきてるよな。満生台も情報化社会に対応してくってんなら、対策は万全にしとかないと怖そうだ」
「ああ。流石にそれは抜かりないだろうがな」
「オヤジはそういう方面に明るいのか?」
「仕事柄、簡単なプログラミング程度はできる」
ハードだけでなくソフト部分までほぼ独力で作り上げるんだから、なるほど知識は持ち得ているだろう。簡単な、というのはただの謙遜だ。
ただ、俺は実際にオヤジがパソコンに向かう姿を見ちゃいないので、イメージが沸いてこなかった。
超高速でキーボードを叩くオヤジ、か。正直、見ていると笑ってしまいそうだ。
「いずれは視力や聴力なんかも、技術力で補完できるようになる日がくればいいんだがな」
「期待しとくさ。そうなったら、冗談じゃなくオヤジの仕事も手伝えるだろうし」
「やる気が続くのなら、な」
「それは分かんねえけど」
地道な作業ってニガテだからなあ。親孝行はしたいが、いざとなったら駄目かもしれないな。
「なあ、オヤジ。今日は牛牧さんと途中で出くわして、久々に色々話したんだけどよ。やっぱこの街って色々あるのな」
「色々、とは?」
「大人の事情ってヤツ? 牛牧さんが病院の経営を譲らなきゃいけなくなったこととかさ。……慈善事業ってのは上手くいかんもんなんだな」
「あの病院は、まだ支えがあるだけ有難いんだろうが」
支えが無くて潰えていく夢よりはマシ、か。
牛牧さんはまだ、病院の運営が軌道に乗れば院長らしく振舞えるようになる可能性はあるし、それはオヤジの言う通りかもしれないけれど。
「……けど、病院に出資してるのってどんな奴らなんかね。満生台の理念に共感してるのか、はたまた金になると睨んでるだけなのか」
「少なくとも、得になると判断したからこそ金を流しているんだろう」
「オヤジは知ってたりするのか? 出資者のこと」
「その昔、牛牧から聞いたことだけはある」
オヤジはスプーンを置き、物憂げに視線を逸らせる。話してもいいものかどうか、迷っているような素振りで。
「どんな奴らなんだ?」
「お前が知ったところで毒にも薬にもならんだろうが……」
それでも、という風にオヤジの方を見つめていると、やがてオヤジは小さく息を吐いてから、俺の方に向き直った。
「広く知られた組織ではない。正式名称は【Genetic Hazard Observation Stracture】……遺伝危機監査機構といったはずだが、頭文字を略してこう呼ばれている」
その名称を聞いたとき。
何故だか俺は、背筋が薄ら寒くなるのを、確かに感じた。
「GHOST――と」
手には大きめの箱が入った袋を提げていたので、それが依頼の品だったんだろう。
この街で彼は複雑な立場だろうが、上手くやっていければいいなと心の中で呟きつつ、俺は牛牧さんを見送った。
オヤジは相変わらず言葉少なだったが、多分牛牧さんとはあれこれ語ったはずだ。
俺には少しだけ、オヤジがほっとしているのが見て取れた。
夕食は二人が話している間に何とか作れていたので、定刻通り六時には食卓に並べられた。テレビのニュース番組を耳でだけ聞きながら、俺たちは黙々とポトフを食べる。財務省のパソコンがウイルスに感染したというニュースが読み上げられると、オヤジはつまらなさそうに眉をしかめた。
「ネット犯罪とか、増えてきてるよな。満生台も情報化社会に対応してくってんなら、対策は万全にしとかないと怖そうだ」
「ああ。流石にそれは抜かりないだろうがな」
「オヤジはそういう方面に明るいのか?」
「仕事柄、簡単なプログラミング程度はできる」
ハードだけでなくソフト部分までほぼ独力で作り上げるんだから、なるほど知識は持ち得ているだろう。簡単な、というのはただの謙遜だ。
ただ、俺は実際にオヤジがパソコンに向かう姿を見ちゃいないので、イメージが沸いてこなかった。
超高速でキーボードを叩くオヤジ、か。正直、見ていると笑ってしまいそうだ。
「いずれは視力や聴力なんかも、技術力で補完できるようになる日がくればいいんだがな」
「期待しとくさ。そうなったら、冗談じゃなくオヤジの仕事も手伝えるだろうし」
「やる気が続くのなら、な」
「それは分かんねえけど」
地道な作業ってニガテだからなあ。親孝行はしたいが、いざとなったら駄目かもしれないな。
「なあ、オヤジ。今日は牛牧さんと途中で出くわして、久々に色々話したんだけどよ。やっぱこの街って色々あるのな」
「色々、とは?」
「大人の事情ってヤツ? 牛牧さんが病院の経営を譲らなきゃいけなくなったこととかさ。……慈善事業ってのは上手くいかんもんなんだな」
「あの病院は、まだ支えがあるだけ有難いんだろうが」
支えが無くて潰えていく夢よりはマシ、か。
牛牧さんはまだ、病院の運営が軌道に乗れば院長らしく振舞えるようになる可能性はあるし、それはオヤジの言う通りかもしれないけれど。
「……けど、病院に出資してるのってどんな奴らなんかね。満生台の理念に共感してるのか、はたまた金になると睨んでるだけなのか」
「少なくとも、得になると判断したからこそ金を流しているんだろう」
「オヤジは知ってたりするのか? 出資者のこと」
「その昔、牛牧から聞いたことだけはある」
オヤジはスプーンを置き、物憂げに視線を逸らせる。話してもいいものかどうか、迷っているような素振りで。
「どんな奴らなんだ?」
「お前が知ったところで毒にも薬にもならんだろうが……」
それでも、という風にオヤジの方を見つめていると、やがてオヤジは小さく息を吐いてから、俺の方に向き直った。
「広く知られた組織ではない。正式名称は【Genetic Hazard Observation Stracture】……遺伝危機監査機構といったはずだが、頭文字を略してこう呼ばれている」
その名称を聞いたとき。
何故だか俺は、背筋が薄ら寒くなるのを、確かに感じた。
「GHOST――と」
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