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First Chapter...7/19

この街で

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 県内でも山奥の方に存在するこの街、満生台。
 元々は立地的に当然の如く、寂れた寒村と化していたこの街だが、満生総合医療センターの登場とともに人口はV字回復し始めた。今はもう、当初の人口よりも増えているのは間違いない。
 これだけ大きな病院なので、街の行政と協力して『満ち足りた暮らし』をスローガンに、住民たちの生活水準の向上に取り組んでいたりもする。基本方針として、近未来的な技術をどんどん取り込んでいき、いわゆる『スマートシティ』化させていくことを目指しているのだ。
 そうした中、行政の取組の一つとして、電波塔計画が持ち上がった。通信設備の拡充により、将来の通信技術発展に逸早く対応できるようになれば、日常生活のみならず医療、ビジネスその他諸々、沢山の場面でメリットがあるとの考えだ。
 俺も現代っ子だし、スマホの有難みを感じながら生きている人間だ。基本的には行政方針に賛成なのだが、昔っからこの土地に住んでいる住民たちは気分が悪いらしい。他所からずかずか入ってきた人間が、歴史ある土地を見る影もないほどに変えてしまうのが気に入らないようだ。
 縄張りを荒らされる、という風に捉えれば、まあその気持ちも分からなくはない。
 伝統と革新、なんて言葉もあるが、そのバランスは難しい。そも、人によって違うのだから論争が起きるのは致し方ないことなのかもしれない。
 あれこれ考えているうち、俺はようやっと自宅に帰り着く。普通の人なら十分くらいの道だが、俺一人で歩くとどうしても余計に時間がかかってしまう。昔は不便なことがある度に苛々していたけれど、ここに来てからはかなり改善した方なのだ。
 二年前の世界は、色も形も全てが曖昧な世界だった。
 端的に言えば、俺の目は二年前にほとんどの機能を失ってしまったのである。
 早乙女さんを始め多くの人が心配するのも尤もで、俺の目は光や色の強弱で物の境界が分かる程度の機能しか果たせなくなってしまった。
 最初の頃は当然ながら、このザマに絶望してしまったものだが、人間の力は偉大なもので、手術によって俺は失われた視覚機能をそれなりに取り戻すことができた。満生台に来ることが無ければ、俺の世界は未だ曖昧なままだっただろう。
 友人たちも、その辺の事情は理解してくれている。というか、仲良くなった奴らは全員、俺と同じようにハンディキャップを背負ってここへ来ていた。
 真智田玄人は足を。
 仁科龍美は腕を。
 それに、久礼満雀は体そのものが悪い。しょっちゅう体調を崩して休んでいるから、一番心配になる。
 けれども、だからこそ俺たちは互いを慰め合える仲間に成り得たんだろう。
 玄人も龍美も、俺のようにハンディキャップをある程度克服している。
 満雀ちゃんだって、いつかは必ず。
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